18話 女教師フェチなら
いつも通りの朝だった。
それでも、相変わらず、今日も朝から盛りに盛られた極上の料理を食堂で堪能できるのはありがたい。救いだ。
自室に戻ってからも、腹を摩って幸福感に浸っていた。
旨い料理は人を幸せにしてくれる。
それと共に、食堂で告げられた本日の予定が楽しみでならない。
早速、レイノーヤさんから妖精や魔法に関する講義を受けることができるみたいなのだ。
食後すぐだと眠くなることを考慮してくれたのか、それとも講義の準備にやや時間がかかるのか、しばらくしたら、また呼びにきてくれるらしい。
今回は直々に聖樹様より仕事を拝命できたことが、余程励みになっているご様子のレイノーヤさんだった。
「お願いしますね」と軽く聖樹様に言われただけだった気がするのだが、「任務、特務、使命……」と、ともすると聞き取れないほどの小声ではあったが、一言一言、自分に言い聞かせるように呟いている姿に相当な熱を感じた。
相変わらず、聖樹様Loveな人のようだ。
ほどなくして講義の準備が整ったらしく、呼びに来てくれた。
そのレイノーヤさんの外見はといえば、ウッドエルフだけあって、誠に素晴らしいものだ。
エルフと比べても、見劣りする部分などというものはどこにも存在しない。
ややスレンダーな点は好みが分かれるところだが、百人に聞けば、百人が美人と答えるようなレベルの容姿だ。
もしも彼女に眼鏡を掛けさせて、タイトなスーツを着せ、ハイヒールを履かせれば、それこそ女教師フェチなら、泣いて喜ぶこと間違いなし。
そんな見目麗しい新任の女教師が自分なんかのために、一生懸命に個人授業の準備をしてくれていると想像するだけで……うん、特別、女教師フェチでもない俺であっても、ぐっとくるものがある。
普段接してくれている印象は、やや淡泊ではあるものの、真面目な学級委員長タイプだ。
今は講義を前にし、きりっとした様子で、そのイメージに更なる磨きがかかって強化されたような……まあ、これほどの美人であれば、どう転んでも、素晴らしいものは素晴らしいのだろうけど。
やる気が漲っていると感じられる点が俺的には一番好ましい。
さて、そうこう妄想している内に、レイノーヤさんの講義が始まった。
「それでは、まず、妖精についてお話しましょう。エルフ様を筆頭に、妖精はいろいろな方々が顕現されておられます──」
うん、レイノーヤさんの言い回しだと、エルフ様への敬愛が強すぎて、少し分かりにくい表現になってしまうので、話をまとめると──
エルフは妖精なのだけれども特別な存在だ。
同じ妖精種に分類されるのだが、エルフ以外の一般的な妖精はもっといい加減というか、もっと不安定な存在なものが多いらしい。
いい加減というのは、性格的にひどく気まぐれで、日和見主義というか、快楽志向といった傾向があるみたいだ。
ここは【妖精の森】と呼ばれるだけあって、他ではあまり見かけることのない妖精たちも棲んでいるとか。
土地柄から、水妖精・風妖精の類が特に多く、他の妖精種にしても、それこそ多岐に渡るため、はっきりと把握されていないのが実情みたいだ。
今回の件で、特に重要となりそうなのが四元素を司る妖精らしく、それに関する話が講義の中心となった。
まず、四元素とは、水・風・火・土の四つの属性だ。
水を司る妖精ウンディーネ、風を司る妖精シルフ、火を司る妖精サラマンダー、土を司る妖精ノームが四大妖精とされている。
これら以外にも、それぞれの属性に関する眷属的な妖精も存在しているらしい。
こうした属性を持つ妖精からの話だと、精霊の色によって、近寄ろうとしたときに親近感を抱いたり、逆に忌避感を抱いたりするそうだ。
そのため、精霊にもそれぞれ属性があって、その色が属性と対応しているのではないかとの推測がされている。
妖精と精霊は、共に肉体を持たない存在同士であることに加え、属性を持つものもいるという点が類似している。
妖精は、霊魂と精神体のみの存在であるという性質上、肉体の制約に縛られない。
その裏返しとして、虚ろな魂・精神として、先に述べられた自由奔放な性格をしている。
とはいえ、妖精は、特定の性質を持つ土地や物に縛られているため、あまり遠くに移動することができないらしい。
それゆえ、退屈している妖精がほとんどで、いたずら好きな側面があるというわけだ。
ただし、肉体を有する種族と儀式魔法で契約すれば、遠くの場所にも移動できるようになる──これを【魔法契約】と呼んだ。
妖精と魔法契約した者は【魔法契約者】、もしくは単に【契約者】と呼ばれている。
また、魔法契約をすることによって、妖精と魔法契約者との間で双方向に繋がる【魔法線】と呼ばれる専用回線が開かれるらしい。
互いに同調する度合いによっても異なるらしいのだが、この魔法線を介して、少なからず肉体を共有化することになる。
妖精はその肉体を礎として、土地の縛りから解放されるというわけだ。
更に契約者との同調の度合いが強まると、魔法線を通じて、契約者側から物理的な肉体形質まで妖精側に流れ込み、確固たる肉体を得ることがあるらしい──この現象は【受肉】と呼ばれる。
ここまでいくと、肉体を有する種族と同様、妖精も食事をすることができるようになるそうだ。
ただし、こうなった妖精は、魔法契約が切れない限り、霊魂と精神体だけであった元の純粋な妖精には戻れない。その状態で肉体が死を迎えると、生物と同じように受肉した妖精自体も死に至ってしまう。
それでも受肉するということは、当の妖精が契約者を余程深く信頼している証である。
儀式魔法の上では、通常の魔法契約と特段の違いはないそうなのだが、この状態を妖精は尊重し、特別視しているところがあって、とりわけ【同伴契約】と呼んで区別しているそうだ。
妖精的には同族との契りと同等、人間で言うところの結婚にも相当するほど喜ばしいこととされている。
なお、同伴契約に関して、驚くべきことが判明した。
な、な、なんと! みっ、み、耳が!!
落ち着け! 俺……。




