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17話 かわいいは正義!

「これって、もしかして……火の精霊ですか?」


「ええ、おそらくは。魔法契約をわしているわけではないのですか? そんなにも他者に付き従っている精霊を見るのは初めてなんですけど」


 聖樹様は目を見開いて、本気で不思議がっている。


 魔法契約? ……全く心当たりがない。


 あの晩、ライターの火を仲間と勘違いしたのかと思った気もするが、その後の記憶がどうにもはっきりしないんだ。


 それでも、俺がこの火の精霊に守られているのは確かだ。


 聖樹様によれば、妖精の森を管理しているウッドエルフの中にも、精霊とではないが、この森に棲む妖精と意気投合して、魔法契約を交わす者もいるという。


 妖精は肉体がないがために、少し朧気おぼろげな存在ではあるようだが、エルフである聖樹様を見れば分かるように、歴とした知的生命体だ。


 地球のおとぎ話では、妖精と精霊は似た感じで描かれていることが多いので、俺にはややこしく感じるが、この世界では全くの別物になる。


 精霊はあるときから突然現れた存在で、まだまだ分からないことばかりなのだという。


 遙か昔にも、精霊が現れたという記録が残っているようだが、この森に再び精霊が現れ出して以来、未だに精霊と契約できた者はいないそうだ。


 前例のないことなので、精霊との契約にどんなメリット・デメリットがあるのか全く不明な点がちょっと困りものではある。ただし、今のところ、これといった不調は感じられない。


 当の火の精霊はといえば、聖樹様たちによくよく話を聞いてみると、俺の後ろでひょこひょこと愛くるしく動き回る姿がなんとも庇護欲ひごよくをそそるものだったらしい。


 俺が首を傾げた際、あたかも真似をしたかのように傾げた方向に可愛いらしく揺れ動く様子がエルフたちの心を鷲掴わしづかみにしたみたいだ。


 白木造りの館の中、それも大切な世界樹の根に近い部屋で、小さいながらも火をまとった状態が許されるのか、少し心配になって訊いてみたのだが……。


 思いの他、軽い調子で問題ないと簡単に言われた。かえって心配になり、再度、聞き返してしまったくらいだ。


「かわいいは正義! だから、問題なし」と、みんなで合唱したように聞こえたのは、気のせいだと思いたい。


 ともかく、魔力を多分に帯びた存在ではあるものの、世界樹のある妖精の森付近にいる精霊は、特に悪意を示したことはなく、無垢むくな存在であるらしい。


 その悪意繋がりで聞いて驚いたのは、なんとこの世界には魔物がいるとのことだ。


 霊験れいげんあらたかな世界樹近くのこの森には、さすがに魔物が現れることは、ほとんど無いらしいが……。


 世界樹から遠く離れた地域ほど、魔物は発生しやすく、最も危険な立ち入り禁止区域とされている【界域】と呼ばれる辺境付近では悪意に満ちた魔物が頻繁に発生するようだ。


 異世界ファンタジーでのお約束とはいえ、魔物の存在は素直には喜べない……正直、恐ろしい。


 ゲームであれば、何度でもやり直しが利くので、なんてことはないのだが、ここは異世界とはいえ、現実の世界だ。


 死んだら取り返しがつかないのは一緒だろう。


 魔法契約と言うくらいだから、魔法がある世界のようだが、都合良く蘇生そせい魔法なんかもあるのだろうか?


 この世界で生きていく上で相当に重要なことだけに、これは是非とも確かめておきたい。


「あのぉう、この世界には魔法があるのですよね? 死んだ者を生き返らすような魔法って、存在するのでしょうか?」


「魔法はありますよ。蘇生魔法はどうなのでしょうね? 私は寡聞かぶんにして、そういった話は存じませんけど」


 う~ん、長命な聖樹様が知らないとなると、これは無理そうだな。


 完全に否定されたわけでもないようだが、やはり魔法であっても、蘇生は相当無理のある話か。


 ……ってことは、魔物がいるような危険があるこの世界では、今までよりも慎重な行動が求められるというわけだ。


 ここまでかなり話がれてしまっていたみたいだが、いよいよ本題に話が及んだようだ。


「先ほど話にも挙げた虹色の園を訪れて、精霊の様子を見てきてほしいのです。実は──」


 聖樹様曰く、精霊自体は悪意がある存在ではないとのことだが、虹色の園に大量に集まったことで、いろいろと世界樹に悪影響を及ぼしているらしい。


 一昨日に面会した後、先々任様たちの了承を得て、世界樹にある記憶の保管庫で更なる詳細事項を調べたところ、迷い人が精霊の鎮魂ちんこんと関係があることが判明したという。


 そこには精霊を鎮魂すべく儀式魔法が発動したという記録も残っていたらしいのだが、それを一人の人族が行ったという点に関して、かなり疑問視されていた。


 儀式魔法のように魔法陣を組む魔法の類は、魔力が多いとされる妖精でさえ、複数名で協力し合って行うのが通例だという理由で。


 魔力量もることながら、魔法陣に魔力操作の補助回路を組み込むにしても、限度というものがあって、当時の記録にある儀式魔法の規模からすると、とても一人の手に負える代物ではないというのが、疑惑の根拠らしい。


 儀式魔法に関しては更なる詳細な調査を行った上で、実行する段になったときの協力を要請された。


 その際には協力者を多数用意してくれるそうだ。その前段階として、まずは虹色の園を訪れて、異世界人となる迷い人の視点で、精霊の様子を事前に調査してきてほしいというのが今回の依頼内容だった。


「虹色の園は聖域ということもあって、今回、立ち入りの許可が下りたのも貴方だけなのです。もちろん、入口までの案内はさせますけど、お願いできませんか?」


 聖樹様のお役に立てる機会をのがす理由はどこにもない。これまで寝食の世話を散々受けている身でもあるわけだし。


 話し合いの結果、少しの間、精霊及び妖精についてのレクチャーを受けてから、虹色の園へ調査に出掛ける運びとなった。


 そして、講師となってくれるのはレイノーヤさんだった。なんと驚いたことに、レイノーヤさんも妖精との魔法契約者なんだそうだ。


 この依頼内容を聞いた今となっては、偶々、レイノーヤさんが世話役を引き受けてくれていたというよりも、むしろ、この講師役、指導役のついでだったと納得できた。


 あはは、明日から始まる妖精魔法の講習が楽しみだ。


 ふぅ、相変わらず、里の昼は蒸し暑く──夜は殊更ことさら長く感じる……。


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