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139話 きゃっち

 ん!? あぁ、そうそう、妖精靴の作製についてだったな。えっと……そう、最初に訪れた店の靴職人のように、たとえ話し掛けられても、完成するまで作業自体は中断できないらしい──イメージを途切れさせずに作りきってしまうのが一人前の職人の証だそうだ。


 半人前の職人は作り始める前に店を閉め、もって仕事をしなければ、完成させることができないという話だった。


 靴を作りながら、こうした話をしてくれた靴職人も、もちろん超ベテランさんというわけだ。


 ただ、そういうわけだから、中断して注文を取るわけにもいかず、客自らが注文票に名前、それに職人に指図さしずされるまま測った各種サイズなどを書き込んでいくというのが、妖精靴を買うときの常識だとも教えられた。


 今は当の……もう忘れちゃったかもしれないが、当の臆病な靴職人がいるという店の前にやってきたところだ。


 さて、ここからが問題だな。


 今はそんなこんなで信用を失って、誰からも注文が入らなくなった状態らしい。当然だ。


 頼めば、すぐにでも仕事に入れるひまな状態のはずなんだが……。


 ベテラン靴職人によれば、こいつが筋金入すじがねいりのびびりであって、注文しにやってきた客を見ても、びびりまくって逃げてしまうほどだという。


 そもそも、半小妖精全般、逃げるときだけは普通の人族程度ではとてもじゃないが捕まえられないほどのスピードを発揮してくるらしい。


「でも、わしら半小妖精の中でも、今回はとびっきり足が達者そうなのがいるから」と──そう、ベテラン靴職人が示唆したのは、まさにユタンちゃんのことだった。


「捕まえることができれば、作らせることはできる。ダメ元でやってみな」と、半ば諦め気味に言われた。


 相当腕が良く、随分と期待をかけていたそうで、それだけにいろいろと手を尽くしても駄目だったのをなげいているみたい。


 今回の作戦は、ユタンちゃんにそいつの動きを抑えてもらうだけ……うん、それだけだ。


「それじゃ、打ち合わせ通り、下にはユタンちゃんだけが先に降りて、ちょっとの間だけでも引き留めておいて……できたら大声で教えてね。すぐ駆けつけるから」


「らじゃー」


「別に大声出さなくてもいいわよ。あたしの風魔法で拡声してあげるから。いつも通りで」


 ユタンちゃんが一つ頷くと、早速、行動を開始した。


 おお、速っ!


「きゃっち」


 えっ!? もう?! 早っ!


 さすがのユタンちゃんでも、同じ半小妖精相手だから、ちょっとは苦戦するかと思ってたけど、杞憂きゆうでしたか。


 さて、逃げられても面倒だから、さっさと降りますか。


 すぐに駆けつけると、ユタンちゃんに両脇の下から抱え上げられて、じたばたもがいている小僧っ子が目に入った。


 同じ背の高さなのに、ユタンちゃんたらっ、結構パワフル!


 あれ?! こいつもレプラホーンなのか? 皆が皆、爺さん顔ってわけじゃねえのかよ。つうか、何気にイケメンじゃね!? まあ、そんなことはどうでもいいか。


 さてと。


「ごめんな、驚かせて。靴を注文しにきたんだ。今、君を抱え上げてるその子の妖精靴、頼めないかな?」


「ひぇぇ、ふわぁ……えっ!? ちゅ、注文……注文なんですか?」


「ああ、そうだよ」


 できるだけ優しく、不安にさせないよう気をつけて話すように心がける。


「ほんとに、本当?! ……ほんとに、本当ですかぁ?」


「うん、お願いできるかな?」


「えぇぇっ、本当かな!? ……でも……本当だったらいいな……ほんと?」


「本当だから、嘘じゃないから、ねっ」


「嘘?! そうかぁ! 嘘なのかも、本当じゃないのかも……でも、嘘じゃなかったら……ほんとなら──」


「ぁあっ、嘘じゃねぇって、さっきから言ってんだろうが、このくそ坊主がっ!」


「ひぃっ! ……」


「もう、なにやってんのよ! 怖がらせたら駄目だって、外であれほど言ってたくせに。そんなに怒鳴どなって。かわいそうに。大丈夫だから、別に取って食おうってわけじゃないのよ」


「ひぃっ! くわ……食わ……れりゅ!?」


「だから、大丈夫だって、絶対にいじめたりなんかしないから」


「苛め!? ……絶対に……苛めらりゃるる!? ひぃっ!」


「は、話を……聞きなっさぁぁーーーいっ!」


「ひぃぃぃぃぃっ!」


 おいおい、おまえだって、駄目じゃん。しっかし、どうすっかなぁ? こいつ。


「おすわり」


「??、?、?!、!?、!、!!」


 おおっ! ユタンちゃんが静かに奴を下ろして、なんだかしつけてるようにも見える。


 少し落ち着いたか? まだ目をぱちくりさせてるけど……ユタンちゃんのことをじっと見て……じっと、ん?! じっとだとぉーーっ!


「つくれ くつ ほしい」


 おっ、珍しい! 単語が三つも出たぁ。


「ぼ、ぼぼぼ……僕でほんとに……ほんとにいいんですか?」


「おまえ たより」


「うっそぅ、まじっすかぁぁっ! ひゃっほぉーう!!」


 何なんだよ? こいつぅ! 調子こきやがって。ユタンちゃんに対して、色目使ってんじゃねえぞ、このませガキがっ!!


 くっ、まあ、女に頼られて舞い上がる気持ちもわからんでもないが……おまえのそれって、おまえが頼りってことより、時間的に単におまえしかいないってだけだからな……ったくぅ。


「おいっ!」


「ひぃぃっ!」


 ……駄目だこりゃ。


「おちつけ」


「あっ、はい! 大丈夫っす、いけるっす!! やります、やらせてください」


 てめえーっ、なにをやるつもりだぁ。うちの娘っ子にぃぃ……ぐるるるぅあぁぁっ!


「もう、止しなさいよ。せっかく話がまとまりそうなんだから」


「だってぇーっ、あいつが……あいつのやつがぁぁぁーーっ」


「黙ってなさい! あんたは」


「……ぁい……」


 こうして、こいつにユタンちゃんの靴を作らせることになったのだが、この臆病さをどうにかせにゃならん。


 そこで登場するのが、俺の秘策──闇の精霊の出番というわけですよ。


 ユタンちゃんに再び落ち着くように言い聞かせてもらってから、音や振動など仕事の集中を切らすような余計なものから、やつを守ってあげるように闇の守護結界を張ってやった。


 ユタンちゃんの力だと、嘘まで吐いて……だって、こいつったら、守護結界にまでびびりやがってたから、仕方なく。


 でも、大丈夫なのか?! ……本当に出来上がるのだろうか? 出発予定日までに。


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