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138話 いや、靴の話なんですけど?!

 とびっきりの笑顔のスプライトと新鮮なます料理を堪能たんのうした後、ユタンちゃんの靴探くつさがしをすることにした。


 さすがは製靴せいかで有名な街というだけあって、人族用の靴を扱っている店は、なかなかの多さだ。


 というか、この一角は靴屋だらけだった。


 にもかかわらず、お目当てである妖精さんの靴を扱っている様子がどこにもない。


 仕方ないので、それほど忙しそうにしていない様子の店に入って、半小妖精の靴を扱っていないのかと尋ねてみた。


 すると、そうした妖精の靴は、普通の人族の店では扱っておらず、【レプラホーン】に直接交渉するしかないと教えてくれた。


 このレプラホーンというのは、ユタンちゃんと同じ半小妖精の一種ということらしい。


 三角帽を被った老人といった見た目で、妖精がく靴は全て、この半小妖精が作っているという妖精専門の靴職人という話だ。


 なんでも「人族用靴屋の中でも、特に流行はやっているような店の地下室には、大抵レプラホーンが住み着いているから」と言われているみたいだ。有用な情報が得られたな。


 教えてくれた靴屋の主人が、「うちだって、もうちょっとのはず、あと少し……まだ負けたわけじゃない、なにがなんでもやるんだ」なんて、ぶつぶつと呟き出してしまったので、礼を言って、店を出た。


 なんだろうか? レプラホーンが住み着くようになると、その店が流行り出すというわけではなく、逆に、ある程度の腕の靴職人にならないと、レプラホーンが住み着いてくれないといった感じの口振りだったけど。


 それじゃあ、客の入りを見て、それらしい店を探す方が手っ取り早そうだな。


 少なくとも、話を聞きに入ったこの店よりも繁盛している店だ。となると……あれっ?! 結構、いっぱいありそうなんだけど。


 なんだよ!? あいつ。本当はまだまだなんじゃねえのか?


 まっいっか、情報はありがたかったわけだから。


 本人の腕は知らんが、まだあきらめてはいないようだったしな。お互い頑張ろうや……えないおやじ仲間として。


 そうするとだ。あそこの店とあの辺りの店なんかがそれらしいんだけど……行って訊いてみるしかないか。


 にしても、ほんと靴屋だらけだな。


 よく競合してつぶれないな。いや、あれか! 日本でも神保町の古書店街とか、合羽橋の道具街みたいな場所があるようなもんか。これを探すなら専門店が集中しているこのエリア的な。


「いらっしゃいませ!」


 店に入ると、先ほどの店とは打って変わって、明るい雰囲気の元気な声が店内に響いた。


「すみません、この子の靴、探してるんですけど」


「はいはい、おぉ、これはこれは! はい、確かにうちの地下でうけたまわっております。そちらの階段を降りてすぐになります。狭いところですが、どうぞお入りください」


 礼を告げて、みんなで階段を降りていく。


 倉庫と兼用しているのか、所狭しと靴箱らしき物が並んでいる。


 壁には無数の道具が掛けられてもいた。木製のが妙に目立つノミやらハンマーみたいな金属工具のようだが、全て形が異なっていて、どれを何に使うのやら、正直想像もつかないが……。


 なんとも、革、木、油、接着剤や塗料など、いろんな匂いが入り交じった空間だった。


 その一角で真剣な雰囲気を漂わせ、靴づくりに打ち込んでいる小さな爺さん──昔の帆船に乗った船長辺りが被ってそうな三角帽子に、革の前掛けをした、いかにも職人気質かたぎな顔立ちだ。


 おおっ! さすが靴職人だけあって、仕立ての良い靴を履いている。


「お忙しいところ、申し訳ありません。この子の靴が欲しいのですが」


「……んっ?! あぁ、ちょっと待っとれ……よしっ! こんなもんかのぉ……なんじゃ、注文か?」


「はい。この半小妖精の子の靴なんですけど」


「どれどれ? ……なんじゃこりゃ!? えらく履き潰しておるのぉ。そりゃ、もう駄目じゃ……嬢ちゃん、足、ちこっと見してみ……ほほぅ、こりゃあ、大したもんだのぉ。う~ん、だが、これだけの足用となると、そう易々とは……うちで作るとなると、出来上がりは二ヶ月後じゃが、かまわんかの?」


「いや、この街には旅の途中で立ち寄っただけなんで。せいぜい一週間ほどしか滞在する予定がありません。そこをなんとかなりませんか?」


「確かにそれ一足であれば、そのくらいで出来んこともないが、今は予約が立て込んでおってのぉ……すまんが、急ぎなら他を当たってくれ」


「そうですかぁ……わかりました。失礼します」


 そっかぁ、結構時間かかるのかぁ……まあ、そうだよな、オーダー品だしな。


 しかし、そうなると、あの見かけ通りなら、レプラホーンはもろ職人さんって感じだ。だったら、そもそも既製品を取り扱ってるとこなんてなさそうなんだけど……これって、見つかるのか?


 とりあえず、特注の強化靴を作製するのには一週間ほどかかるって話だから、すぐに取りかかってくれる店を探すしかないな、こりゃ。


 ──その後、手当たり次第にレプラホーンの靴職人を探しては、打診してみたが、結局のところ、どこも手一杯であるとか、そこまで耐久性のあるものは作れないだとか、一つも良い返事をもらうことができなかった。


 正直、困り果てた……どうしましょっ?


 今のところ、一番早くとも、三週間が最短コースだった。とりあえず、普通の半小妖精用靴の注文はしておいたけど、それでも出来上がるのは五日後になるそうだ。


 頼みの綱は、この店の靴職人に聞くことができた情報だけだ。


 なんでも、片田舎からの出たてで、まだ職人歴が浅い駆け出しなのだそうだが、腕だけはとびきりらしい。


 でも、腕だけと言われるとおり、こいつには問題があって、今までに一度も靴を完成させられたことがないという話だった……駄目じゃん、それって!


 まあ、完成する前にすぐ飽きてしまうとか、出来上がりが気に入らなくて途中で叩き壊してしまうといった変な陶芸家気質きしつとかではなく、ただただ臆病なだけだという。


 そう、どうやら妖精靴は一度手掛けたら、完成まで一気に作りあげてしまわなければならないらしく……イメージが中断してしまうと、服が出てこなくなるんだと……。


 なんのこっちゃっ!? そう思うだろっ! 俺もそう思ったよ。


 いや、靴の話なんですけど?! ……。


 なんでも妖精靴というのは、ただの靴じゃなくて、妖精が踊りを舞うときの衣装用なんだと。


 だから、靴を履くと、そのときのおどりたい気持ちを体現した好ましい衣装が、妖精靴の中からするすると出てきて、身体をすっぽりと包み込んでくれるそうな……あらっ、不思議!


 そう、ユタンちゃんが偶に違う服着てたのも、自分で縫製ほうせいして作っていたのではなく、イメージで作り変えていたそうだ。


 ユタンちゃんは、そういう意味合いで前にも俺に話してくれてたようなのだが……俺の理解力が及ばず、誤解しておりました。まだまだ保護者として失格のようです……とほほ。


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