137話 はぁーい、少々お待ちを
まず教えてもらった食事処は、頂いた地図のお陰もあって、すぐに見つかった。
オレンジ色と白で縞模様になったオーニングが特に目を引く店先だ。
昼時だったため、店内はなかなかの大繁盛ぶりであったが、テラス席にまだ空きがあるという。天気もいいことだし、外で食事を頂くことにした。
席でメニューを見たものの、文字だけでまるで読めなかったので、ホテルのフロントで勧められたエピスコ鱒を使った料理を三人前注文する。
テーブルの上に敷いたハンカチの上でユタンちゃんに食事をさせてもかまわないかと訊いてみると、「少々お待ちを」と言って、下がっていってしまった。
バックヤードからすぐ戻ってきたウェイターが椅子を抱えている。どうやら半妖精専用の椅子を持ってきてくれたようだ。
「へえ、半妖精もよく食事に来るんですね」
「いえ、こちらは子ども用の椅子になります。半妖精は通常であれば、それほど食事を摂る習慣はないかと。私共のところで働いてもらっている半妖精も一日の最後にミルク一杯で満足してしまう程度なので……あっ、すみません、私はこれで」
「ああ、ごめんなさい。忙しいときに呼び止めてしまって」
「いえいえ。それではもうしばらくお待ちください。順番に料理をお出しいたしますので……はぁーい、少々お待ちを。すぐお伺いしまーす! ではっ」
なかなか流行っているお店らしく、客さばきの手際もいい。次々と料理が饗されていく。
他のテーブルから良い匂いが漂い、どんどん客の笑顔が溢れてきた。
見ている方もなんだか幸せな気分に浸れる反面、その期待からお腹の空き具合も促進されてくるようだ。
まだ料理が出ていないテーブルから、くぅ~、ぐぅ~という音があちこちから聞こえてくる……ははは、うちのテーブルからも洩れなく。
もう、スプライトの赤らんだ表情のかわいらしいことと言ったら!
先ほどまで隣のテーブルで恥ずかしがっていたお嬢さん方も、スプライトも同じくお腹が鳴ったのを聞いて、きゃーきゃー黄色い声で騒ぎだしたくらいだ。
どうやらスプライトときたら、こうしたちょっとしたことで、野郎共だけでなく、お嬢さん方までも魅了してしまうらしい。
それにしても、不自然すぎるほどかわいいんだよなぁ。普通さあ、かわいいとか、きれいとかにも、それなりに理由があるわけさ。
なんていうのかな……生まれたばかりの子どもが、かわいらしく振る舞うのは、大人の庇護欲を誘って、保護を受けやすくするための生存戦略とも考えられるわけだしな。
昔から美人薄命なんて言葉があるけど、それも他者による援助が必要なほど生まれつき弱い身体だと言えなくもない。
そうした自らの力で生き残ることが難しい時期であるとか、個体である場合には、他者を魅了する何かが分泌されるような仕組みがあるのではないかとも推測できるわけだ。
だとしたら、スプライトはどうだ?
妖精の中でも大妖精に数え上げられるほどの強い魔力を持ちながら、こんなにも魅力的な肉体をも持ち得たわけなのだが……いったいどこに、庇護を必要とする要素があるのだろうか?
恵まれすぎていて、どうにも釈然としないというか、不自然さを感じているんだけど……。
いや、違うか! 霊的な存在である長命種族からすると、肉体の制約によって、寿命が極端に短くなった変化に対して……ある意味、弱い存在に落ちたと身体が認識し、それを他者からの援助で補おうとした結果の、この美しさなのだろうか?
それとも、肉体を得たばかりのときには、わからないことやできないことが多いから、そのサポートを得られやすいように、他者を魅了する必要があるからだろうか? となると、ほんの今だけの儚い美しさなのか?
いや、でもなぁ。俺をパートナーとして選んだからこその肉体なんだよな?
だったら、俺が魅力的に感じるような戦略を取るのは、むしろ当然なのか。
でも、それなら、果たしてこれほど周りの者まで魅了しまくるのは、なぜなんだ?
俺が嫉妬して、もっと大切にしようと思わせることが目的なのかもしれない……。
ひょっとして、俺がイン……だから……起たないから。子孫を残すためにより強烈な魅了を必要として、暴走した結果、周りに悪影響を及ぼしているとかか?
あれっ!? 結局、俺のせい? 俺の性か? 俺の精だったりするのかなぁ。
まあ、いっか。スプライトがこんなにもかわいいのなら。大満足だ。起たないけどな……しっかし、ほんと反応ねえなぁ。




