135話 だ、か、らっ! ついてくんなってのぉ
しかし、どうもごろつき連中とは……。
「おいっ! そこの君。こんなところで何をしているっ?! そのご婦人から離れなさい」
「そうだ、そのご婦人をどうするつもりだ。離れろっ!」
「何してる! 今すぐにだ」
「そうだ、てめえ。そんな別嬪さん連れやがって、なんて羨ましい」
俺がぼやっとしている間に、無視されたと感じたのか、こいつらどんどんエスカレートしていって、あっという間に怒り心頭という雰囲気になってしまった。
「……んっ!? いや、待て待て、お前たち。こいつは魔防士だ……そうなんだろ? 君」
あまりの展開の速さに付いていけず、頷くくらいしかできない。
「クリークビルから来たのかね? それとも」
「クリークビルからです。確かに魔防士です……駆け出しですけど」
「そうか、やはりな。お前たち解散だ! 通常体制に戻りなさい。私はこの方たちを案内してから戻るから」
「えぇぇーっ、ずるいっすよ、隊長っ! 俺だってその別嬪さんを案内したいのに……ひぃっ!! す、すみません、任務に戻りますです、はぁひぃ」
「すまんね。あいつには後でしっかりと説教しておく。気を悪くせんでくれたまえ。まだあやつは成り立てなものでね」
この人の話によれば、彼らはこの街の治安維持、下町の清掃、観光案内までも担う自警団【アンバサダーガード】──この人はその分隊長なのだそうだ。
この街は大都市であるがゆえに、犯罪が増え、一時は凶悪犯罪まで横行して大変な時期があったらしい。
富が集中し、貧富の差が激しくなってくると、食い詰めた連中が犯罪に手を染めていったそうだ。
犯罪を警戒する富める者と、富を羨む貧しい者との間に分断が生まれる。
しばらくすると、偏見から下町に住む者たち全体を蔑む風潮が蔓延して、更に対立構造が激化するという大都市ではありがちなことが、ここでも起こったようだ。
そうした悪い流れを危惧し、いち早く対策に乗り出したのが、ナイト牧師という方だそうだ。
修道女の上に立つ彼が先頭になって、普段からよく接している貧しい人たちが誤った道に進まないようにと、ある提案を掲げた。
「自分たちの手で、治安が悪化しないようにしましょう。皆で街全体を見守る組織を立ち上げるのです」
それに応える形で出来上がったのが、自警団【アンバサダーガード】というわけだ。
ナイト牧師自体が下町出身であることが大きかったそうだが、余程人徳がある方らしく、人々の尊敬を集めていることが、この分隊長の話しぶりからもひしひしと伝わってきた。
そうした甲斐あって、今では犯罪率が下がり出し、下町と上町の対立も表だっては無くなって、沈静化に向かう傾向にあるらしい。
この街で面白いのは、下町と呼ばれる地区が高台にあることだ。
元の世界にあった都市であれば、通常なら高台の方が山の手地区と呼ばれるように、裕福な者が暮らす地区となることが一般的であろう。だが、ここでは全く違った。
遙か昔の時代から、人々から好まれていたのは、世界樹の加護にあやかりたいがため、世界樹により近いこの南側の地区だそうだ。
そして、二十年前からの魔物の発生が決定打となって、その傾向は更に加速されることとなる。
世界樹に近い地域にある町の方が、明らかに魔物の発生件数が少ないことが徐々に判明していったからだ。
とはいえ、この街の南北程度ではそれほど危険度に違いはない。にもかかわらず、この南門周辺の低地が最も地価の高い地域になっている。
ちなみに、ここの建物にふんだんに使用されている白い煉瓦は、この街の特産品である耐火煉瓦だ。
白陶土と呼ばれる熱に強い粘土が周辺で採取できるようで、それゆえに坩堝──つまり、熱して溶かした金属やガラスに用いる耐熱性容器を容易に造ることができるらしい。
だからこそ、安価で窓ガラスを生産できるというわけだった。
高級感漂う耐火煉瓦だけでなく、普通によく見かけるオレンジ色の煉瓦であったり、おしゃれな雰囲気がある焦げ茶色の煉瓦なんかも、品良く組み合わせて使われているところが、これまたセンスの良さを存分に窺わせる。
やはりというか、南門の往来は少ないらしく、魔物を求めて南の地からここまでやってきた魔防士か、取引で南へ向かう隊商ぐらいしか使用する者がいないそうだ。
誤解が解けたのは、この指に填めた赤銅色の【呼び出しリング】のお陰だった。門衛に疑われなかったのも同様の理由かも。
そういえば、入門のとき、門衛に近寄るとすぐに警戒の色が消えた風にも見えたしな。
しかし、惜しい……ここがクリークビルの町だったら、君のことを間違いなく、クリ○ン、もしくはクソソソと呼んでいたであろう。うん、実に惜しい解説者然とした奴だ。
こんなにも親切に教えてくれた人に対して失礼だろうと、言うなかれ。
だって、こいつ……俺の質問どころか俺の存在をことごとく無視しやがって、一言も発しないから。ずっと懇切丁寧に教えてくれていたのは、スプライトに対してだったりするから……しかも瞳をハートマークにさせながら。
改めて、スプライトの口から訊いてもらうまで、なにも答えなかったくらいだしな。
この街の中では安全で、比較的安い宿の場所をスプライトに訊かせて、さっさとこの男とは別れた……つもりだった。
だ、か、らっ! ついてくんなってのぉ、さっきからぁ。跡付けてきてるのが、ばればれだっつうのっ!!
こいつはちょい悪おやじ風で、ちょっと格好良さげなところがまた油断ならんのよ。
なまじ司法に携わる者だけに、下手したらスプライトを保護するっていう名目で、俺に無実の罪とか着せかねんわけだから、強くも言えねえし……くっ、侮れん。
それにしても、他の男どもから見ても、やっぱりというか当然というべきか、スプライトはとびきりいい女に見えるらしい。
本当に良かったよ。スプライトが風妖精シルフで……。
ごく普通の人族の女だったら、こんな都市部では身の危険すらあっただろうから。はあ、か弱くなくて、よか……ぞぞっ!
「ご、ごめんなさい! 調子に乗ってました。すいやーせんしたっ!!」




