134話 はいはい、クビ・二四六の……
いよいよ、巨大な外壁に取り囲まれた【エピスコ】と思しい街までやってきたわけだが……。
やはりというか、なんというか、この街の規模を考えると、この門を利用している人の数が、どうにも少なすぎる気がする。
ずっと小規模な町であるはずの【クリークビル】の門よりも往来が少ないというのは解せない。
……いや、待てよ。クリークビルの南門と比較するべきなのか!?
ここまでの道中でも、東西に走る街道の方が主要幹線道路のような感じが確かにあった。
クリークビルの北門の利用者数から考えると、これまで北上してくる間に、俺たちはもっと多くの人とすれ違っていてもいいはずだ。いや、はずだった……どうにも釣り合わない。
でも、そうなんだ。今考え直すと、クリークビルのあの北門を利用していた人たちって、もしかすると東西方向の町からやってきた人たちだったのかもしれない……あのときは全然意識に上っていなかったから、気が付きもしなかったけど。
そう考えると、この門も、街の裏門に相当する扱いなのかもしれない。
この街では北門が、いや、クリークビルと違って、相当大きそうな街だから、街の東西にそれぞれ主要な門があると考えるのが妥当なのかも。
まあ、しばらくここに滞在するつもりだし、実際に確認してみればいいだけの話だ。
ああ、そうそう、確かクリークビルの門衛さんの話だと、新しい街へ到着した際には、どこの町から来たのかを一言伝えておくといいんだったよな。まあ、同じ郡に属する街に限っての話だったが。
台帳漏れのトラブルを避けられるからと親切に教えてくれたけど……はて? それって、新規登録の列に並ぶ必要があるのか、それとも通常の出入口でも構わないのだろうか?
まあ、とりあえずは並ばなくてもいい楽な方で声をかけて、注意されたら並び直せばいいや。じゃっ、そういうことで。
「すみません。クリークビルからやってきたんですけど、こちらに報告すればよろしいのでしょうか?」
「……ん!? ああ、はいはい。ご苦労さん。それじゃあ、まずはメダリオンを確認させて。それと名前を教えてくれるかな」
「はい。それでは、これを……名前はタカシ・イトウです」
「はいはい、クビ・二四六の……タカシ・イトウさんねっと……これでよし、っと。はいっ、ありがとさん。エピスコへようこそ! どうぞお通りください」
門衛からメダリオンを返してもらえた。これで名簿移管漏れの心配はないわけか。まあ、あくまでもこれは保険的な手続きみたいなものらしいけど。
余所者は何かと疑われがちだからね。念には念を入れておかないと……なにせ、俺は異世界人ときてるから。
せっかくこうした手続きがあるのだから、面倒がらずに遺漏無くやっておくべきだ。
事故によく遭う人っていうのは、結局のところ、自分では気が付いていないけど、結構な確率で不用意な行動を取っていることが多いから。
中にはただただ運が悪かったというだけで、その人にはどうしようもないこともあるのだけれどもな。それにしたって、もう少し広い視野で、自分のそれまでの行動を客観的に見直してみると、そのとき偶々であっても、軽率な行動を取ってしまっていたりもするものだ。
取り返しのつかない事故に見舞われないように、普段から気を付けておきなさい、なんて、俺も小さい頃から注意されてばっかだったな。
ははは……最近でこそ、少しは注意を払えるようになったけど、いざというときには、だめだめなのが俺だ。
子どもの頃から格好いい大人になりたいと常々思っていたんだけど、いつまで経っても、人ってのはそうそう変われないものなんだよなぁ……つくづくそう思う。
結構がんばってるつもりなんだけどなぁ。ふぅ……こんなときはちょっとだけ煙草が恋しいよ。
いかんいかん、せっかくの新しい街だ。
もっと観光を楽しまなくては……知らないことからいろいろと学ぶべきこともあるわけだしな。
ここは、クリークビルと比べても、見るからにかなり大きな街だ。
門を潜った先から開けているこの大通りにしても……面している建物は、二階建てと階数は少ないとはいえ、白い煉瓦造りの豪華さで、通りの先まで長く続いている。
いや、屋根の辺りにも窓があるから、屋根裏部屋でもあるのか、もしくは単なる採光用の窓だろうか……あっ! そうかぁ……ガラスだ、ガラス窓だ。
そういえば、クリークビルの町では、ほとんど見かけることがなかった窓ガラスが、ここではふんだんに使われているんだ。それでか。うん、それがこの高級感を醸し出している……いや、それだけじゃない。この規則正しく、きれいに積まれた真っ白い煉瓦が否応なしに西洋の城や宮殿を連想させるんだ。
出入口と言ってしまうのが憚られるほど、洗練されたデザインのエントランスも、特に豪華さを印象付けてくる。
こうしてきょろきょろと物珍しそうに眺めて歩いていたせいで、田舎者のカモとでも認識されてしまったのか、気が付くと、いつの間にか強面の輩どもに囲まれようとしていた。




