133話 スプライトの十八番
この金属スカートの上へ、地面に埋まったままのシェルターを持ち上げ……あれっ?! おろっ? 球体って、厄介だなぁ。
風魔法で下から風で持ち上げようとすると、その場でくるっと回転しちまいそうだ。危うく中の調度品がひっちゃかめっちゃかになるとこだった。
それなら、土魔法で持ち上げて……スカートの上に乗せてっと……よし!
……ん?! 土魔法で簡単に浮いた……宙に……。
おぉぉっ、これでメテオが……メテオができるっ! 隕石魔法を手に入れた。
隕石落としたら落としたで、大災害を引き起こした罪で魔防士を引責辞任させられそうだけど。
あははは……は……ああっ、なんてこったい! せっかく超々ジュラルミンのスカート作ってまで、乗せたのにぃ……無駄になった。
いや、それよりもスプライトの協力が必要なくなった、なんて言う方のが恐ろしいぃ……ひぃっ。
……なんだよっ?! おぉ、た、ただの風かよぉ、びっくりさせやがって……いやいや、違いますよ。素晴らしいっす、風様は……。
くぅ、仕方ない。今回はこのまま計画通りホバークラフト仕様でいこう。いくしかない。いきますよ……。
魔素のエネルギー効率がどうとかよりも、そうじゃないと高率で俺が酷い目に合うのは目に見えてるから……うん、そうしよう。
風呂でせっかく上機嫌になってくれたスプライトを怒らせちまうと、今までの苦労が台無しになっちゃうもの。このくらいは目を瞑ろう。
そうと決まれば、本体とスカートを空気が抜けないように密着接続……本当にあっという間だな。
後は風の妖精と風の精霊とのコラボ魔法で、安定して浮くかどうかだが……。
いや、軽量化の風魔法自体が全面スラスターのホバークラフトみたいなもんだ。スプライトの十八番と言える。
今回は、金属スカートを補助にして、それを行うだけだ。
スカート内のシェルターの底部から地面に向かって、風を勢いよく吹かせることをメインとして、シェルターを浮かせてやる。
「スプライトお待たせ。準備できたぞ。お願いできるか? テストで少しだけ持ち上がるか試してみたいんだけど」
「いつでもいいわよ」
「それじゃ、『せいの』の、『の』のタイミングで……せいのっ!」
おっ、さすがは風妖精シルフだな。風のバランスコントロールが絶妙だ。
「よしっ! テスト終了。ゆっくり降ろして」
「どう? うまくいきそう?」
「ああ、ほとんど浮かせずに地面すれすれならいけそうだ。それと念のため、隠蔽魔法を掛けるつもりだ。見えなくなるけど、大丈夫かな?」
「うん、わかったわ。それに魔力の流れは察知できるし、魔法線経由であなたの思念が流れてきてるから、位置はわかるかな」
「念のため、あのスカート内で浮かすのと、押して移動させる役目は俺がやる。スプライトは一番難しい姿勢制御を頼むな。これからの道のりは人の往来が増える。そんときは街道から一時的に外れるように移動させるから、そのつもりで」
「了解! がんばろうね」
注意事項は大体こんなもんかな。後は念のため、とっさに土魔法を掛けられるように、心の準備だけをしとけば、より一層安心って感じかな。後は……。
「今回は隠蔽魔法はとりあえず【光学迷彩】だけでいくぞ。よし! 持ち上げよう」
「うんっ!」
「いい感じだ! このままいくぞ。ユタンちゃんも今回はあんまり先行しすぎないでね。みんなと一緒に行こう。もうすぐ街だから」
「らじゃー」
「よし。いい子だ。それじゃあ、最初はゆっくりスタートだ」
想像してたよりもスカートの効果が高くて、魔素の消費も少なくて済みそうだ。いつもの歩くスピードくらいでも平気そうだな。
やったね! これでスプライトと一緒に……また……むふふっ……てっ、いかんいかん……魔素を込めすぎたぁぁ……冷静に、冷静に。
──順調、順調。うん、いいんじゃないですか。
さすがに、馬車とすれ違うときは避けるのに苦労したり、傍を通るときに猛烈な風の吹き出しが気になってか視線を向ける人もいたりしたけど、ここまで無事に事故もなく、やってこれた。
街の門からそれほど遠くないこの辺りで、なんとか良さそうな場所を見つけたい……遮蔽物があって、できるだけ目立たないところで、このシェルターを埋められそうなスペースがあるところを探せれば、万事上手くいく。
おっ……あの辺りなら、都合良さそうだな。
よっしゃあっ! 土魔法を使えば、こうしてわざわざ穴を掘らずとも、ずぶずぶと底なし沼にでも沈んでいくように、シェルターを埋められる。
これは便利だ……思いの外、土魔法って使えるのかもしれないな。
今日はいろいろと発見もあったし、無理して運んできた甲斐があったというものだ。
後はその上に【歩いてくボックス】を隠蔽を掛けたまま、置いておこう。
うん、これなら大丈夫。
はあ、やっとこれで、次の街【エピスコ】へ入れそうだ。ふぅ、がんばった。がんばりましたよ。




