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130話 そう、勝ったのは、なんとぉ!

 朝食を終え、再び歩き始めてみても、いつまで経っても綿、綿、綿……ずっと先まで綿花畑がまだまだ続いている。


 最初は感動したはずのこの景色も、さすがに飽きてきた。


 二人も気持ちは一緒だったらしい。


 取り立てて言うほどのこともなく、見る物なんかも無いせいで、どんどん、どんどん歩くペースが……『いや、これって、もう走ってんじゃねえ?!』ってくらいのスピードで先を急いでいる。


 途中から、まじもんの競争になっていた。


「風妖精シルフのメンツにかけて、スピードでは負けられないもの」と豪語していたスプライトがまさかの最下位。


 今は膝に手を突き、息が上がって、苦しそうにあえぎつつも、時折こちらをにらんでいる。


 そう、勝ったのは、なんとぉ! この俺。


 僅差ではあったが、ユタンちゃんにもなんとか競り勝つことができた。


 馬鹿でかい【歩いてくボックス】を転がした状態での競争となると、ユタンちゃんであっても、さすがに勝ち目がないのはわかっていたから、単独で走ってもらったわけだけど。


 ちなみに【歩いてくボックス】は、精霊魔法で転がしてきている。


 最初は二人に大差をつけられていたんだけど、精霊魔法を使ってみたら、俺がぶっちぎり……でも、いかさまだとクレームがついて、精霊魔法は禁止に……それでも、体内魔素を消費する練習も兼ねて、いろいろと複合魔法の実験を試していたら、こんな具合に決着がついた。


 お陰で気がついたら、綿花畑を抜けていたというわけだ。


 はあ、やっとかぁ……それにしても、長かったぁ。


 まあ、まだ農地が続いてるのだが、それでもここから先は小麦やら野菜やらの食べられる農作物が、これまでの馬鹿みたいな大規模ではなく、普通の広さで栽培されている地域に入るようだ。


 今はちょうどその境に当たる、何もないところに来ている。


 今日は、最初に二時間ほど歩いた後、一時間くらい走ってきたので、時刻はまだ正午前だ。


 時間的には余裕がたっぷりできた。


 というのも、【水反鏡】を覗けば、おそらくエピスコの街のであろう外壁が続いているのが、ここからでも確認できているから。


 俺たちの普段のペースで歩いても、あと三時間もすれば、余裕で到着する程度の距離だ。


 でもね……もう、みんな、結構な汗だくになっているわけですよ。


 休憩もそうなんだけど、着替えもしたい。なんといっても風呂に入りたい。


 実際、俺もおったったし。


 みんな聞いてくれ! 俺もついにおったった……今まで全くといっておったたなかったけど、やっとおったった。


「真っ昼間から、なに卑猥なこと言ってんだよ?」と勘違いしないでください。


 秋田弁……えっと、俺が元いた世界の、とある地方で使われている言葉で、「おったった」というのは、くたびれたという意味だ。


 たとえば、「昨日は山さ登っておったった」って感じで使ってるの。本当だってばさ。


 はあ……肝心なところだけは相変わらずで、おっ起ってはいないのだけど、おじさんの体力的には、充分おったった気分なんだよね。


 そこで、是非とも風呂に入りたい……いや、せめて汗を流したいというわけですよ。


 普段は、みんなも濡れた布で汗を拭くだけの生活が基本だった。


 この辺はまだ暖かい地域だから、夏になれば、水浴びとかもするのだろうけど、妖精はもちろん、半妖精にも、湯浴みの文化はないらしい。


 疲れた身体で温かい湯船に浸かるのは、誰だって気持ちいいはず。だから、二人にも是非とも体験させてあげたい……特にスプライトには。スプライトさんには!


 まあ、どうせ混浴なんてものは期待していませんよ。期待しても無理なのはわかってるから。


 でもね……スプライトの場合、湯上がりで火照った身体だけでも、充分過ぎるほど魅力的だと思うわけですよ。


 というわけで、作っちゃいます! シェルタードーム改良型のお風呂を。


 外からは絶対に見えないような覗き防止対策──天井部分が開放されているにもかかわらず、風魔法と光魔法を駆使したマジックミラー仕様にする。


 露天風呂に近い開放感を味わいつつも、セキュリティーもばっちりというわけさ。


 実は元々、透明なお湯って、俺はなんか苦手というか、全然疲れが取れる気がしないので、昔から白濁色系の入浴剤──肌にも良い水溶性コラーゲンとか尿素とかが入ってるやつ──をずっと使っていたんだ。


 今までもミルク風呂も興味はあったけど、なんでも一回に牛乳一本分使うそうだから、入浴後に浴槽から風呂釜まできちんと洗浄しないと、臭いが残りそうで、正直、面倒だった。


 結局、自宅では試そうとまでは思い到れなかった……が、今回は大丈夫。だって、杖からミルクを出し放題な上に、シェルター丸ごと使い捨てだから。


 ミルク風呂は、牛乳に含まれる各種成分によって、さまざまな入浴効果が期待できる。


 カリウムは血中の浸透圧調節でむくみ改善に。


 カルシウムは心を落ち着かせるリラックス効果として。


 カゼインが古い角質や毛穴汚れを落として美肌に。


 そして、乳脂肪が身体の表面を覆って、冷え性改善と痒み予防にと、なんとも盛り沢山だ。


 これならスプライトを説得する材料にも事欠かないというわけさ。


 うっ……やはり、恐ろしい杖だな。


 まずはいつもどおり……いや、天井だけが空いた感じで、どっどーんと、土魔法でドーム本体のみをぶっ建てた。


 続いて、内装だ。


 内装は初めて造るので、脱衣所、洗い場、湯船をひとつずつ丁寧に造ることにした。


 うん、最初が肝心だから。是非とも気に入ってもらわねばならんので!


 そのモデルとするのは、会社の上司──当時は職場の先輩──から、「絶対お前でも気に入る宿だから」と勧められた高級宿の貸し切り風呂だ。


 お陰で財布の中身がすっからかんになったものの、確かに何から何まで至れり尽くせりの大満足ではあった。


 その極め付きが、人生で一番のお気に入りとなった予約制の、この貸し切り風呂だ。


 風呂の玄関なのに、その豪華な造りにびっくり。


 次の間が脱衣所……というには、豪華すぎる上、それ以上に洗練されたオシャレなデザインだった。


 にもかかわらず、それでいて、イ草と木材をふんだんに使った自然の温もりを感じさせるリラックスルームといった雰囲気だ。


 その中に誂えている調度品の数々も、抜群にセンスの良い物揃いだった。


 次の洗い場だって、全面ガラスで完全に仕切られた機能的な空間で使いやすい。


 最後の浴槽に至っては、眼前に美しい海が望めるオーシャンビューの露天風呂だ。


 しかも、浴槽のすぐ脇には、専用のボトルクーラーが設置され、冷えたレモン水とオレンジジュースで満たされた乙な形のボトルと共に、品の良いグラスも添えられていた。


 残念ながら、今回はオーシャンビューにはできなかったが……。


 それらをイメージして、調度品に至るまで丁寧に細部まで拘って再現していった。


 おぉぉ、素晴らしい出来っ!


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