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129話 「猪一番」と称してもいい

 ……えっと、なんだっけ? あ、そうそう、白米なら三十分ほど水に漬けておけばいいのだが、今回の精米の感じからして、もう少し時間が必要かもしれない。


 いや、俺も長粒米を炊くのは経験したことがないので、試してみないと正直なところはわからん。


 とはいえ、お腹を空かせた子どもたちが待ってるので、今日のところは水魔法で米の中へ水を浸潤しんじゅんさせて、漬け置き時間を短縮するとしよう。


 今まで散々、炊事してきた経験から、水に浸した米の感触や見た目、それに炊く前の水の減り具合から、米がどの程度の水分を含んだ状態かは、大まかにならわかる。


 日本の米であれば、元の米の体積に対して、二十五%増しの量の水が目安となる。


 だが、ここは水分が少な目な長粒米だから、少し多めの三十%増しの水量にしておこう。


 所定の水の中に米を浸した上で、徐々に米へと水を浸潤させていき、見た目でストップをかけた。米の感触は、と……うん、いい感じだ。


 米に含まれる水分量によっても違うのかもしれないけど、素人しろうとの俺はそこまでこだわる気はない。


 ただ偶に飛び抜けて美味しく感じることがあるから、確かにそうしたことも、炊飯のこつに関係しているのだろうな。


 さて、炊こう。


 ふやかした米と残った水が入った土鍋を沸騰する直前まで強火にかける。


 普通の土鍋だけで米を炊くと、結構あっという間に吹きこぼれてしまう。


 炊飯用の土鍋に付属している内蓋があれば、そうした心配も少ない。


 もちろん俺も土魔法で、土鍋と一緒に吹きこぼれ防止用に丸く平らな内蓋も作ってある。


 いや、長粒米は粘り気が少ないから、内蓋は必要なかったかも……まあ、いいや。


 家のコンロなら火力が一定しているので、季節毎の温度変化によって、火にかける時間が多少変化する程度だ。けれど、これがき火でとなると、火力が安定しない分、沸騰する直前を見極めるのに目を離せないというのが、ちょっと面倒くさい。


 なので、今回は火魔法で火力を一定に整えてから火にかけた。


 沸騰する直前を見極めるのは一緒なのだが、火力が一定ならその前に鍋の中でかなでるふつふつとした音がしてくるので、ちょっと前から頃合いが推測できる。他のことに余程集中していて、放置しない限り、そうそう見落とさないはずだ。


 吹きこぼれないように、素早く火力を落として、更にとろ火で五分ほど加熱する。


 後は火から下ろして、厚手の大きな布で包んで、二十分ほど余熱で蒸らせば、これでご飯は炊きあがる。


 土鍋はかなり熱くなってるから、両手にミトンをして火傷に注意しながら、布に包むといい……まあ、俺は、ほらっ! 魔法があるからこの通り、触る必要すらないけどな。


 まじ、魔法使いみたい! 奥様は魔女的な。


 今回は毛布に包んでみた。


 こうすれば、毛布に付着して増えた雑菌の熱消毒もできて、洗濯の回数を減らせるから一石二鳥になってくれることだろう。


 今となっては、火魔法で熱殺菌することもできるけど、廃熱利用はエコの基本だ。


 ただし、キャンプなんかで焚き火でやろうものなら、大惨事だ……土鍋の底に付いたすすで布が真っ黒に汚れちまうから。


 やるなら、魔法で加熱するか、電気調理器か、せめてガスレンジじゃなきゃ駄目だけどな。

  _/_/_/_/_/_/_/_/

 さて、料理の続きだ。


 炒飯の具は、昨日の残りのキノコと猪のバラ肉、野菜はネギのみ。


 これだと、さすがに野菜が少なくて栄養バランスが悪いから、先に野菜スープを仕込んでおく。


 鍋に精霊水を注ぎ、フリーズドライの野菜、出汁用の細切れ肉を入れて、塩コショウで味を調え、ことことじっくり煮込むだけ。


 いよいよ、炒飯だ。


 まず、猪のバラ肉をサイコロ状に切って、大きさをそろえておく。


 フライパンの上に、猪のバラ肉の脂身の部分を下にするようにして並べてから、火にかけていく。


 こうすると、余分な油を加えなくとも、肉から出てくる脂で、肉に効率よく火を通すことができる。


 肉の赤い部分が無くなったら、火が通りすぎないように、フライパンから一旦取り出しておこう。


 溶け出た脂を使って、キノコ類を炒め、しんなりとしてきたら、先ほど取り出しておいたバラ肉を戻し、炊き立てのご飯も加え、塩コショウで味を調え、炒めていく。


 フライパンを振って混ぜつつ、全体に肉の脂が馴染んで香ばしい匂いがしてきたら、炒飯の完成だ。


 炒飯と野菜スープを人数分取り分けて、皆に渡していく。


 さあ召し上がれ!


「「「いただきます(いたます)」」」


「このスプーンですくって食べてくれ。この前、食堂で食べたオムライスの親戚みたいなやつだから」


「あぁ、あの黄色いのに包まれた赤いのね。うん、わかった。ありがと」


「らじゃー」


 女の子にはオムライスほど受けは良くないかもしれないけど、自然のキノコは旨みが強いし、極め付きがこの猪肉の脂身だ。


 肉屋の親爺が猪肉が一番だと騒いでただけのことはある。


 昔からいう「いの一番」は、「いろは」の最初に来る文字に由来したものだけど、確かにこの猪肉は「いの一番」と称してもいい。誰も文句をつけられないほどの味だ。


 今まで猪肉なんて食べたことがなかったけれど……。


 一般的に脂身から想像するような脂っぽいしつこさが無く、それでいて、とろけるような旨みが強烈だ。


 赤身の部分の方は、肉の甘さに加えてのもちもち食感で、その弾力が歯を楽しませてもくれる。


 そういえば、「滋味深い味わいは、仕事の疲れが吹き飛ぶほどだ」なんても言ってやがったな。


 豚肉よりもかなりお高めだったけど、まあ、確かにいい買い物ではあった。


 もう旅の四日目の朝になるわけだから、彼女たちの疲れも溜まってきているのではないかと思って、この猪肉を使うことにして、正解だったのかも。


 目を白黒させながらも、スプーンの勢いが止まらない二人。


 うん、やっぱり疲れているとき、身体に必要とされるものというのは、普段よりも美味しく感じられるようだな。


 スプライトの食育も順調で、なによりなにより。


 食べて温かくなった身体に、朝のさわやかな風が心地好い。


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