127話 べっ、別に試したわけじゃないのよ
おっと! そうこうしている内に、いい場所めっけ。
あの辺りなら、シェルタードームを置くスペースをなんとかぎりぎり確保できそうだ。もうしばらくすると、日も暮れ出すだろうからな。
ここまでの道中にも、刈り取られた綿花畑の空きスペースがあるにはあったんだけど、野営するだけならともかく、シェルターみたいなでっかい建物を建てたら、農家の人に怒られるっしょ、きっと。
もしかしたら、雑草が生えたこの空き地も私有地なのかもしんないけど、【水反鏡】で辺りを探した限り、この先もうしばらくはそれらしい適地は無かったんだ。
他に手がないので、仕方なくここに設置することにしたわけさ。
怒られたら、すぐ謝って、原状回復して、ここを立ち去ろう。
せめて一晩だけ、見逃しておくれ。見ず知らずの農家の人よ。
そうと決まれば、ちゃっちゃとやることやるか。
「やればできるっ!」って……あはは、散々言われただろうな。できちゃった結婚……いや、授かり婚の人たち。でも、我慢できなくなって、言っちゃうんだな、これが……我慢できなくなって生でやっちゃった人たちに対して。
こちらもドッドォーンと、でっかい卵を生みましたとさ……はい出来上がり。超簡単過ぎて、きょわい。怖すぎる。
一度造って中で生活した後だと、もう既にイメージが定着してるから、内装のディテールの部分まで再現するのだって、このとおり、もう一瞬だ……。
恐ろしい……なんか仕事する気、無くなる。
魔法はイメージ次第って、ラノベとかに書いてあった気がするけど、こりゃあ、想像以上だったな。
異常すぎる。大丈夫なの? これ的な──持ち主からこの地を移譲されたわけでもないのに、勝手にドームなんか建てて……偉丈夫というほどの腕力もないから、代わりに魔法を駆使して作業した迷い人からの報告でした。以上。
さて、何回言ったでしょう……なにが? って……ちゃんと聞いてた?
ははは、やれやれでしょ。すまんね、おやじなもんで。
さあ、夕飯どうしよ?
えっと、これまでなに作ったっけ?
アクアパッツァから始まって……フレンチトーストとクラムチャウダー……ハンバーグ……そして、失敗しちゃったから忘れることにした今日の朝飯か。その後だから……う~ん……やっぱ、グラタン辺りかぁ!? この材料からすると。
くそぅっ! また、あの杖の力を使う羽目になるとは……。
ミルクが出るとか狡くない? 何回かに一回は、料理にミルクが必要になるっしょっ。ミルクを使ったホワイトソース系の料理って、大抵の女の子は好きだったりするから……。
まさか!? ディオニュソスって、ミルクを使った料理で、世界の女たちの胃袋を支配していた、ってことじゃ? おぉおぉぅ、新釈ギリシャ神話──マイナデスたちの実態は○○的な。
そうと知りつつも、俺はなんで、この杖を使うのか? それはキノコがあるからぁーーーっ!
花や樹木ですら見分けるのが怪しい俺だ。どう考えても、キノコの選別などできるはずがない……うん、そう考えていました。これまでは。
でも、ユタンちゃんができたとです。なんとぉ! 食べられるキノコか、毒キノコかを見分けられとっちゃん。もう毒キノコを怖がらんでよかとばい。
そうなんですよ。ねえねえ、聞いてくださいよ、奥さん。
うちの子ったら、あたしが朝御飯を作るの失敗こいて落ち込んでたら、元気づけるために、どこからかキノコを見つけてきてくれたのよぅ。ちゃんと食べられるやつ……ユタンちゃんがぼりぼり食べながら、渡してきたのと同じ種類の。
こうして、やっと手に入れた食べられるキノコ。
早速、こいつを使って、本日は鮭とキノコのグラタンを作りま~す。
まずは、フリーズドライしたジャガイモとタマネギを【精霊水】で戻しておく。
保冷庫から取り出した鶏もも一枚肉を、切らずに鍋の中へ皮目を下にして並べ、中火くらいの火加減で、皮に焼き色を付ける程度焼いたら、取り出して、一口大に切る。
鍋の中に残った鶏の脂を使って、各種キノコとタマネギをしんなりするまで炒めていく。
ここにミルクを加えて、全体が馴染むまで混ぜながら温め、ここでジャガイモと乾物屋で買ったマカロニ風の乾燥パスタを加えていく。
保冷庫から出した鮭の切り身を食べやすい大きさに切って、先ほど取り出した鶏肉と共に鍋へ加え、塩コショウで味を整えてから、煮込む──目安はマカロニが柔らかくなるまで。
あともう一品、というか、これもグラタンの材料だけど。ミルクにお酢を加えて、なんちゃってカッテージチーズを作る。
家庭で手軽にちょっとした時間でもできるから、家庭時チーズだ。
そもそも、カッテージチーズのカッテージは、コテージ(cottage)──田舎の一軒家的な意味、家庭で手軽にできるから、そう名付けられたらしい。俺の駄洒落とそう変わらんな。
それよりも、このなんちゃってチーズ……発酵させてないけど、グラタンの焼き目用に拵えただけだから、今日のところはこれでよしとする。本来は半日くらい時間をかけて発酵させるみたいだけどな。
このチーズを先ほどの鍋の具の上に散らして、満遍なく表面を覆うようにしていく。
そして、ダッチオーブンの蓋を鍋の上に載せて、上蓋を火魔法で加熱し、チーズに焦げ目を付けてやる。
上に載せたチーズの表面が、ところどころオレンジ色で美味しそうな焼き色になったら、グラタンの出来上がりだ!
ささ、たべませう、たべませう。
みんなに取り分けて、っと──さあ、どうぞっ!
「「いただきます(いたます)」」
おおぅっ、これもまた旨いっ!
「おいしい」
おっ、ユタンちゃんにも好評価いただきました。
「あれっ!? なんでスプライトは食べないの?」
「うん、大丈夫そうね。いただきます!」
えっ?! なになに? なんで?
「だってぇ、あんたが『キノコは危ない危ない』って、散々言ってたから……念のため。ユタンだから大丈夫なだけだったかもしれないじゃない……べっ、別に試したわけじゃないのよ。ほらっ、そこは……二人が倒れたときに介抱するために……とか?」
まじかよ? 実験台にされた……わけじゃないか……まあ、作った張本人は俺だしな。
「なんにしろ、ありがとな、スプライト! 気を遣わせたみたいで」
「えっ!? い、いいのよ。別に……これくらいはねぇ……あはは」
こいつ、まじで試してたな。
まあ、毒に当たったとしても、光魔法で解毒……あれっ?! 先に解毒魔法かけとけば、良かったんじゃ?!
おろろ、うっかり妖精でもいるのか? ……くわばら、くわばら。




