126話 ただの魔素ですって!? あんた……
ちょこっと腹に物も入れたことだし、もうちょっと今日もがんばって歩いていこう。
ユタンちゃんを抱え上げ、靴底に付いた泥汚れをきちんと拭き取ってから、【歩いてくボックス】に入れてあげる。
別に土足厳禁とか、そういうみみっちい話ではなくてだなぁ。
もしかしたら、【歩いてくボックス】の内側に泥が付着して凹凸ができたりすると、光魔法を内壁に投射してる関係上、外を映し出す映像に歪みが生じてしまう可能性があるかもしれないからね。念のためだ。
そもそも、ボックス内で乾いた土が、上の方からカラカラ落ちてきても、気になるだろうしな。
もしも、そうした細かい埃をユタンちゃんが吸い込みでもしたら、身体に悪いだろうからさ。
……にしても、凄い脚力だよなぁ。
あんなにちっさいのに、どうしてそんな馬鹿でかい金属球を転がせるんだ!?
なにか身体を鍛えてたりするのかなぁ? ……陰で筋トレしてるユタンちゃん……ははは、想像するとちょっとかわいいにはかわいいけど、まるでイメージとは違うんだよね。
半妖精って、元々そんなに脚力が強いものなんだろうか?
「ちがう いっしょ」
【歩いてくボックス】が急に止まって、中からひょっこり顔を出したユタンちゃんがわざわざ答えてくれた。
違うかぁ……それになんだ!? いっしょ、っていうのは?
「そんなの、あんたと一緒になったときから、ってことでしょ」
えっ、そうなの?
「おじさんと一緒になったときから、って、ことなの?」
「いっしょ から」
「やっぱり、そうなのね。ユタンも半妖精とはいえ、妖精の端くれなんだから、なにかしらの影響を受けてるとは思ってたけど……」
「なんだよ。妖精の端くれって、差別はいけませんよ。差別は!」
「馬鹿ねえ。差別じゃなくて、区別よ……く、べ、つ。半妖精は半ば作業用なのよ。力が強くて当たり前……なんだけど、それにしたって、この子のは常軌を逸してるって感じなのよね。まあ、原因なんて明らかなんだけど」
あん?! なんだ? 作業用って……それにしても、力が強いのが当然なの?!
「なんだよ? その明らかな原因って」
「そんなのあんたのせいに決まってるでしょっ! 魔法線を介して、ばんばん流れ込んでくる魔素以外に、なにがあると思ってんのぉ!?」
はあ、そうね……まあ、そうじゃないかとは思ってたけど。
「でも、ただの魔素だろ? 魔法が使いやすくなる程度の?」
「ただの魔素ですって!? あんた……。はぁ、シルフのあたしだって、こんなにも、処理に苦しんでるほどの魔素なのよ?! それだけのわけないじゃない!」
「えぇぇ、そんなこと言われても……さっきは……あんなにも喘いで」
「もう、さっきのことはいいから……お願いだから、止めて。ぶり返してきちゃうから……きちゃうから……波が」
こんな食い気味に言ってきたくらいだから、ほんと嫌なのかも……うん、嫌われるの、やだから、自制しなきゃ……み、見たいけど……くっ、聞きたいけど。
でも、そっか。やっぱ俺のせいかぁ……だよな、実際。
「それじゃぁさぁ、二人が心配だし、いっそのこと、契約解消しといた方がいいんじゃないか?」
「「だめ」」
「えぇーっ、いや、だってぇ……えっ、だめなのぉ? できないの?」
「駄目に決まってるでしょ! そんなのぉ。突然、なに言い出すのよ!? そんなこと、二度と口にしないでっ!!」
「くち しない」
「はい。もう二度と口にしないであります。上官殿」
「「よし」」
はあ、そっかぁ……できないのかぁ……あれ!? そういえば、今は脚力の話だったっけな。
確か魔導書には身体強化の魔術も載ってたもんな……でも、あれって、効果時間が凄く短いって書いてあったけど……。
すぐ効果が切れるやつだったから、ユタンちゃんみたいに常時発動的なものとは違うはずだよな。
でも、あの魔導書に載ってない魔法とか、魔術だって、まだまだあるはずだ。
半妖精っていうくらいなんだから、妖精魔法を使えるのかもしれないし。
「ユタンちゃんも魔法とか使えたりするの?」
「つかえん」
「半妖精は魔法……魔術だって使えやしないわよ。魔法使ったみたいに見えるのだって、器用なだけ……とことん器用なのよ、半妖精ってのは。技術よ、技術」
器用なだけって、あんな凄いのに、一切魔法使ってないの?!
はあ、結局、振り出しに戻って、わからず仕舞いかよ……なんだかなぁ。
あれっ!? あと、なんだったっけ?! ……? ま、そのうち思い出すか。
……それにしても、どこまで行っても、見渡す限り、白と茶色の世界だけだ。辺り一面が綿花畑……綿だけにな。
言語翻訳があるから普通の意味は伝わるくせに、元々の言語が違うせいで、同音異義語が別の異世界語に変換されてしまって、駄洒落のニュアンスが伝わらん。
だけど、こうも反応がないと、かえっておやじギャグって湧いてきちゃうから、なお辛いんだよなぁ。
別に、むきになってるというわけじゃなくて、おやじギャグはそういう星の下にあるの……無視されるところに自然と湧き出してくるよう運命づけられてるみたい。
スプライトたちも、なんかまた言ってるな的に反応はしてくれてるけど、意味と音韻が別のものに変換されてるはずだからな。
「くっだらないわねぇ」とか、「ばかねー」とか言われたり、偶にでいいから、くすくす笑ってもらいたいだけなのに……はあ、こればかりは、ままならねえ。つまんないの。
そういえば、俺が駄洒落を言い出したきっかけって、中学生のときだ。そうだよ、今思い出した!
隣の席に座ってた女の子が、突然くすくすと笑い出したもんだから、いったいなんだと思えば、俺の駄洒落が面白くて笑ってたんだと。別に俺は、駄洒落なんて言ったつもりはなかったのに。
俺が言ったらしい台詞の中に、その子は駄洒落を見つけ出して……そして、かわいらしく笑ってた。そんな笑顔がもう一度見たくなって、駄洒落を探すようになったんだっけか……あぁ、懐かしいな。あの子、今頃どうしてるのかな?




