124話 流れるような感じに、さらり、じわりと
スプライトが展開してくれている風魔法【エアーカーテン】のお陰で、雨の中でもなんとも快適だ。
透明なビニール傘を差してるのとは全然違って、不思議な光景が目を楽しませてくれる。
雨粒を風で見事に弾いていく様は、なんと表現したらよいのか……とにかく愉しくて、娯しい。
元々、雨の降る中、傘を差して歩くのもそれほど嫌いではなかった……むしろ、都会の場合だと、溢れかえっていた人が少なくなる分だけ、そして汚れた空気が洗い流される分だけ、なんだか清々しく感じていたくらいだもの。
それでも風が吹けば、足下が濡れて、気持ち悪くなってくるし……鞄が濡れて湿ってくるし……傘で片手が塞がっていると、何をするのにも一手間増えて、何かと煩わしかった。
それがどうです!? この状況っ! ……ははは、雨に濡れて、身体が冷えることもなく、大切な荷物が濡れて、駄目になる心配もなく、両手も自由。
あぁ、すんばらしい! 科学の勝利……ではなかった……魔法の勝利だ!!
しかも、今は土砂降りの真っ直中だから、人っ子ひとりいない貸し切り状態……まあ、最初から、この街道を往来するやつなんて、少ないんだけどね。
それはそうと、これって、なんだか最初の頃よりも徐々に狭くなってきてやしないか? スプライトとの距離が、物凄く近い。
中で空気が対流しているせいか、さっきからずっとスプライトから漂ってくる香しい匂いに魅了されっぱなしなんだ。うん、理性が保てん。
あれっ!? もしかして、この魔法って、意外と魔力の消費が激しいとか!? 辛くなって狭くなってたりするのか?
「スプライト、あんま無理すんなよ? 辛ければ、俺が代わってやるぞ?」
「てへへ……えっ!? なに? あ……えぇ、えへへ、大丈夫よ。このくらい」
そう言う割に、風魔法の傘がどんどんちっちゃくなってきてんだけど……。大丈夫かな? 本当に……突然ぶっ倒れたりとか、しないだろうな?
ああ、そうかっ! 魔法線で俺と繋がってるんだから、それを通して魔素を多めに流してあげれば、少しは楽になるんじゃないのかな?
でも、俺が余計な手助けしちゃうと、風妖精のプライドを傷つけて、気を悪くするかも。
とはいうものの、スプライトの身体の方が心配だし、気取られないように、さりげなくしてあげればいいよな? どうやら気もそぞろのようだし。
最初はできるだけやさしく、そろり、するりと……滑らかに流れるような感じに、さらり、じわりと……少しだけ多めに、ぐいぐい、ずんずんと……。
「ひゃぁっ! ……くっ、ぅぅん……あっ、あぁぁん!!」
ありゃっ? なんか艶めかしい御声が……。
声のした方へ振り向くと、身体を丸く小さくするよう、しゃがみ込んで、口元を手で押さえて、声が漏れないように、じっと我慢しているスプライトの姿態が目に入る。
それでも、まだどこか疼くのか、ときおり、びくんびくんと脈打つように身体を震わせていた。
なんかやっちまったか?!
「だ、大丈夫か? ごめんよ。なんかやらかしちゃったみたいで」
「……はぁ……はぁ……えっ?! あ……やっぱりぃ……あぁぁんっ……あ、あなたなのねぇ……ひっ、くっ……いったい、なに……なにしたのよぉ?!」
「いや……なにって、そのぉ……魔素が足りてないのかなぁ……なんて思って」
「はあ、はぁ、ふぅっ……もぉっ! 大丈夫だって、言ったじゃない!! 言ったよねぇ? 言ったのにぃ」
「ごみんなさい」
ああぁ、怒られちった。しっかし、なんちゅう男心を掻き立てる嬌声出してくれてんだよ。そそるにも程があるちゅうに。
でも、危なかったぁぁ。俺の身体がもしも元気だったら、絶対に襲いかかってるとこだったわ……こんな道端で。こんな道端なのにな……ふぅ、あやうく色情狂だと思われるとこだったぜ。
でも、こりわぁ。ふふふ……ちょっとした悪戯に最高……ぞっ!? いえ、はい、もうしませんです……はい。
こえぇぇーっ、なんか怖すぎるって! 今、ぞっとしたぞ……こんなときって、本当にぞっとするのな。
はぁ、でも、凄いなぁ、スプライトのやつ……今、怒った勢いで雨雲をことごとく蹴散らしちまったよ、凄っ!




