122話 あたしを馬鹿だとでも思ってたわけ?
野外での食事を終えて、家の中に入る……まあ、家と言っても、ただのシェルターなんだけどね。
外で食事をしたのは、屋外で食った方が旨いからでもあるが、それ以上に室内に匂いが籠もるのを嫌がってのことだ。
風魔法で空気を循環させているから、食べた直後はそれほど気にならないだろう。けれど、翌朝起きたときに、昨晩の料理の匂いが残っていると、どうしても食欲が無くなる質だから。
消臭の魔法とか知らんし……あれっ!? 光魔法で紫外線照射とかしてやればいいのか!
そういえば、アリエルに食らった雷も、相当きついオゾン臭のする神聖魔法だったっけな。いや、余計に食欲減退するわ。
まあ、どちらにしても、もう外で食っちまったし、実験をやるにしても明日以降だな。
いやいや、そんなことで稀少な光の精霊さんを使うのはなんだな。止めとくか。
いやぁ~あ、それにしても、久々の室内とは、なかなかに良いものですなぁ。
きれいな子と、かわゆい子と一緒に過ごす同一空間……和むの一言だわ。
ゆったりするねぇ……まったりとした時間が、流れていくねぇ。
あはは、全然一言じゃ済みそうもねえな……本当にすまないねぇ。馬鹿なことばっか考えてて。
どうせ、俺の考えなんて筒抜けなんでしょう? ……いいんですよ、照れなくても……おじさんに少しくらい甘えてもいいんだよ? そんなもじもじして、我慢しなくても……おじさんが欲しいの?
んっ、違うの?! 甘いものが欲しいだけ?
ああ、あれね。甘くした紅茶がそんなに気に入っちゃったか。
「だって……あの食器も素敵だったし。だめ?」
「いや、別に駄目なんて言ってないから。すぐ用意する。ちょっとだけ待っててね!」
俺は【シェルタードーム】を飛び出して……飛び……あれっ?! 駄目じゃん! 入口はしっかり閉じとかなきゃ!!
まあ、それは寝るときでいいや。
【歩いてくボックス】の中から、スプライトに気に入ってもらったティーセットを取り出して、シェルターにすぐ戻った。
ご要望どおり、ご婦人方に紅茶を淹れて差し上げる。
この紅茶用カップ&ソーサー……こうして眺めると、確かに良い出来だとは思うんだけど、少し色がなぁ……。まあ、シンプルで良いのかもしれないけど。
「なあ、スプライトさんや。これに色付けしてもらうのは、どうだろうか? この色が気に入ってるなら、別に作った物でやってもらうのでもいいけど」
「ううん。この表面の艶と質感が好きなだけなの。色は……そうね。確かに、もうちょっとかな」
「じゃあ、飲み終わったら、後でユタンちゃんに好きな色にでもしてもらったら、どう? たぶん、パステルカラーで凄くかわいくしてくれるんじゃないかと思うぞ」
「うんうん、そうね。それがいいかも……ユタン。後でお願いできるかしら?」
「らじゃー」
この後、スプライトとユタンちゃんは紅茶にこれでもかと角砂糖をたっぷり入れていた。
いやいや、さすがに甘すぎるだろうって、心配になるほどのやつをお代わりまでして……まあ、人の好みをとやかく言うつもりはないけど、さすがにそれは。いや、まだ味覚が発達してないだけか? 子どもと一緒なのかも。味覚の開発には昆布出汁か。徐々にでも薄味に慣らしてやらないとな。
そして、夜は更け、あっと言う間に寝る時間となった。
そこで、またしても自分の失敗に気がついた。
「すまん。スプライト……寝床のクッションになるようなもの用意するのを忘れてた。今から取ってくるから、申し訳ないけど、ちょっと待っててくれ」
「えっ!? 用意してあるわよ、ちゃんと。この裏手に」
スプライトの言うとおり、シェルターの裏に回ってみれば、昨日教えたとおりのものが、そこにきちんと確保されていた。
「ありがとう! スプライト。すごいよ!! ちゃんと覚えてくれていたんだな」
「これって、あたしの役割なんだし、当然でしょ? 別にいいわよ、そんなに感謝なんかしなくても……つうか、それって、あたしを馬鹿だとでも思ってたわけ?」
「いやいや、ほんとに助かったんだって! スプライトが居てくれて、ほんと良かったよぉ」
「うん……なら、いいかな。てへへ」
それじゃあ、シェルタードームの中に敷き詰めて、寝床を作ろうかね。
後は忘れずに、シェルターの出入口を塞ぐ……おっと、そうだった!
その前に、トイレを済ませるように言っておいた。
もう大丈夫かなと確認した後、土魔法で出入口を念入りに塞いでおく。
ふふふ、これで完璧……完璧に密室だ。殺人は起きないけど……だって俺、死なないし……俺しか人いないし……後は妖精だから。
こんなしょうもないことばっか考えてないで、今日はゆっくりと寝るとしよう。
──こうしてシェルタードーム初日の夜は明けた。
朝を迎えたとき……ちゃらぁりぃらぁらっちゃっちゃーん!
盗賊に取り囲まれていた……ということもなく、はたまた魔物がシェルタードームを一飲みにした……なんてこともなく、ごくごく普通の爽やかな朝がやってきていた。
うん、やっぱ、都会人は屋根の下だね。
無理っすわ! 屋外なんて。
「頑丈な物に守られてるって落ち着くったらないわぁ。あははは……なんてな。いや、本当に大丈夫だから。あんまり心配するなって」
結局また、夜中にうなされて、スプライトが心配して起こしてくれた。
空元気を装ってはみても、こうも続くと、そうそう騙されてはくれないようだ。
本当に大丈夫だからな。もう、あれ以来、ずっとのことだから……。
あぁ、気が滅入る……こんなことじゃあ、いかん。超好みのスプライトの顔まで陰ってしまうではないか。
さあさあ、元気に行ってみよう! 次、次。まだまだ先は長そうだしね。




