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121話 繋ぎにもちゃんと意味がある

 いや、だから、それも違うんだって……今は料理中なんだってば、よぉぅ。


 これじゃあ、いかん。スプライトに中途半端なものを出すことになってしまう。


 あぁあぁ、散々、試し切りしまくった挙げ句、肉が小さくなっちまった……。


 これだと、更に細かく刻んで、粗挽きにでもするしかないな。


 仕方ない。今日はハンバーグにしよう。


 風魔法を纏った包丁を使ってるわけだから、ミキサーでミンチにするみたいに、熱で肉が変質するようなことはないだろうしな。


 それに俺は、どんなに高級な一枚肉のステーキよりも、ハンバーグの方が好きだ。


 同じ高級肉を使ったものはもちろんのこと、安めの肉でも作り方によっては、ずっと旨くなるから。


 いろんな種類の肉を混ぜ合わせて作っているからこその旨さだ。


 肉だけじゃないからの旨さ……つなぎにもちゃんと意味がある。


 調理することによって、食材の旨さが引き出される典型だと俺は思っている。


 ただし、き火のような不安定な火で作るのには、ちょっと不安が残るんだ。


 それにしたって、今は心配無用……だって、火魔法を使った調理で火加減は万全だから。


 となると、あとは、柔らかく調整したハンバーグをひっくり返すとき、無駄に染み出してしまう肉汁にくじゅうが問題か……。


 ああ、そうか。ダッチオーブンのように、上からも火が入れられる鍋を使ってやればいいのか! ハンバーグをひっくり返す必要がなくなるわけだから、肉汁の心配をする必要もないわけだ。なるほどね。


 元の世界ではキャンプしたことなかったから、ダッチオーブンとかも使ったことなかったけど……うん、確かに便利かも。


 繋ぎのパン粉は……あ、あれっ!? そもそも、パン、残ってるんだったっけか?


 ……あった。でも、なんだ?! この半端なのは……端っこの丸いとこだけって……ああ、フレンチトーストのときの残りかぁ。


 そういえば、後でクラムチャウダーに浸して食べようとしてたの、すっかり忘れてた。いっけね。


 でも、パン粉にしちまうのには丁度いいかもな。ちょっと乾燥してるし。ふう、助かったな。


 ちょっとパンを探すのに手間取ったし、みんなが腹を空かせて待ってる手前、ここから更に包丁なんかでパンを細かくしていくのもなんだ。


 うん、時短だ。風魔法で一瞬で切り刻んで、パン粉にしてしまった。


 ハンバーグの硬さの調節は、繋ぎのパン粉とミルクの量を肉との比率で変えてやれば、簡単にできる。


 パン粉が肉汁を吸って保持してくれるので、全体が均質に旨い。


 見た目が与える印象を重視するあまり、溢れ出す肉汁を演出するのに、余分な脂肪分を肉に追加してしまうと、味のバランスが崩れて、その分、当然不味くなる。


 俺みたいに年食って、血液の循環が悪くなってくると、余計な脂肪分は旨く感じられなくなるもんなんだよ。


 若い頃は血液がさらさらだし、元々身体に必須なオメガ脂肪酸と誤解して、どんな脂肪でも旨く感じるという錯覚が起こっているだけだ。


 人間の味覚は、飽食を続けていたり、偏りがあると、ちょっと馬鹿になるところもあったりする。


 研ぎ澄ませれば、人の感覚とは驚くほどの繊細なことまで判別できるものなのに、普段からずっと気を抜き続けていると、簡単なことでもだまされるくらいには馬鹿になれるんだ。


 そう。だから、ナイフで切ったハンバーグから、加えた脂がたっぷりと流れ出すシーンを見ると、食欲が湧くのが若い証拠ってやつだ。


 肉だけで繋ぎを加えていないと、旨みが洩れ出して、ぱっさぱさになりやすいから、余計な脂で演出する必要が生じているとも言える。


 でも、繋ぎを使えば、こうした余分に追加された脂ではなく、肉に元から含まれていた旨みを繋ぎのパン粉が吸ってくれるから心配要らない。


 旨みを繋ぎのパン粉にどれだけ吸わせて、残りを旨そうににじませるかも、ミルクの量で調節できる。俺のような素人でも簡単だ。


 だから、ハンバーグは偉い……旨いから……俺でも旨くできるから、偉い。


 結局のところ、料理は愛情……あはは、あんな厳つい顔した料理の先生なのになぁ。ほんと良いこと言うよ。確かにそのとおり。それって、真理だと思うもん。


 別に俺だって、料理に対して特別のこだわりがあるというわけじゃない。


 特に料理を作るのなんて好きでもないし、どちらかといえば、面倒くさい……ああ、面倒くせえ。ただただ旨い飯が食いたいだけだ。


 だから、ちゃんとした料理人に、けちを付ける気なんてさらさらない。そんなつもりは毛頭ないんだ。


『いつも美味しい料理をありがとう』と、感謝しながら、食べてるくらいだし。


 文句があるのは、ちゃんとしてない人たちだ……料理人に限らず。


 それも何も特別を求めているわけじゃなく、普通にその職業であれば、こなせて当たり前なことを当たり前にしてもらいたいだけ。


 職業としての最低限のことを要求しているに過ぎない。


 毎日繰り返して、なぜそれができないというのか? 学べよ、少しだけでも……プロだというところを素人に見せてくれよ。ったく、ほんとむかむかするんだよ……。


 はあ、なんだよぉ?! 俺はスプライトの料理に愛情のみ注ぎたいだけなのに……怒りの感情が混ざっちまったじゃんか……ったくぅ。


 なんにしても、俺はプロじゃないからね。失敗したことから感じ取って、よくよく原因を考えて修正して、一つずつ学んでいくことしかできない。


 素人なりに当たり前のことを当たり前に……ゆっくりと丁寧にだ。


 でも、ほらっ! こうやって、俺が作ったものを美味しそうに食べてくれるスプライトやユタンちゃんを眺めていると、またがんばって作ってあげようって気にもなる。


 もっと旨いものを作ってあげなきゃなというはげみにもなる。


 ふふふ、いいなぁ。笑顔でとろけそうな表情を浮かべている女の子って。


 さてさて、俺も見惚みとれてばかりもいられない。


 せっかくの温かい料理を味わわなくちゃな。


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