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12話 神の裁き

〔聖樹ファトゥム side〕


 うん、そろそろ頃合いですかね?


 なかなかいいタイミングで生じた疑問に対して、とびきりの美少女風の声色で種明かしをしてみました。


 えっ、誰!? と、この人は気づかず、辺りを見回しています。


 側近がいさめてきた言葉によって、悪戯が終了したことを悟りました──それと共に、予想以上に残念と感じている自分が心の中に居るのに驚きを隠せません。


 声を発してからの会話の合間合間にも、相手が考えてることがすっと心に染み入ってくる感じが、なんとも心地好いんです。


 照れ隠しに、つい正直な気持ちが口を衝いて出てしまいます。


 この人から他のエルフたちにも考えが筒抜けだったのではないかと問われたとき、一瞬焦りました──もしかしたら、心が同調しすぎた結果、私の気持ちまで外に漏れ出してしまっていたのではないかと……大丈夫でしたよね?


 この人ったら、何気に同調しやすいから、気を許して思わず、心の内を吐露とろしちゃわないようにするのも注意しなくちゃいけませんね。


 これ以上褒められたら、こちらの反応を抑えるのに苦労しそうなので、念話のコツを教えてあげました。


 御簾越しの念話自体、そもそも初心者には無理があったことを指摘されて、また少し焦ったのですけど、なんとか念話でからかいつつ、煙に巻いてごまかすことが……えっと、ごまかせましたよね?


 相手を気遣いつつ、話のペースをこちらに引き寄せるつもりでしたけど……。


 まさかの不意打ちを喰らった瞬間──側近たちにざわめきが広がります。


 エルフの社会でも、まずは名乗り合ってから話を始めるのが礼儀なのは当然のことです。もちろんそうですよ。


 それも、私が最初に念話で話しかけたことによって、周りに控えてた側近たちも変に思惑を勘ぐって、意図的に諫めなかったとか、言い出してますけど……。


 これって、私が先任様や先々任様に叱られる案件ですよね。とほほ……。


 ここはせめて、御簾を上げて、顔を見せて非礼を詫びなければ、と思い、皆にも頭を下げさせます。こうなったら、一蓮托生です。問答無用ですからね。


 プライドの高いエルフですから、内心嫌がっている者もいたでしょうが、そこは有無を言わせません。


 ただ、こちらの覚悟が馬鹿らしくなるほど、当の相手には軽く受け流されてしまいました。挙げ句の果てには、反対に謝られちゃいました。なんか調子狂いますね。


 まあ、本気で気にしていないようなので、大丈夫そうです。


 本当に人が好いというか、お人好しすぎる雰囲気に、なんだかほっとさせられます。


 通り名を教えましたけど、この人なら真名を明かしても問題ないとすら思えてしまうところが不思議です。


 初めて会ったばかりなのに……。


 本当はファトゥムなんて通り名よりも、真名の方で……。


 そもそも、【神の裁き】なんて仰々しい意味の通り名って、どうなんですか!? おかしいでしょ? おかしいですよね? 普通、こんなかわいい乙女に付ける名ですか? おかしいんです。


 もちろん、真名は滅多に明かさないのが決まりですから仕方ないわけですけど。


 契約者なら良いんじゃないでしょうか! そうですよ。


 しちゃいますよ、同伴契約。いやいや、なに考えてるんでしょう、私ったら。


 そう、まずは魔法契約からでしたね。


 でも、さすがに見習いとはいえ、聖樹が契約するのは、まずいでしょうか? 反対される……かな?


 ふふふ、今はとりあえず、通り名でもいいから呼んでもらいましょう。


 素直に歓迎することを伝えてみると、あちらも協力の意思をみせてくれました。


 本当に人族なのでしょうか? エルフへの変に畏まった感じではなく、こんなにも普通に礼儀正しく接してくれる人とは、今まで接したことがありません。


 これ以上は自分の気持ちを隠すことができなくなりそうだったので、見た目を取り繕いつつ、世界樹の中に慌てて逃げ込んでしまいました。私の意気地なし。


 世界樹の中に入ってからも、こうして逃げたことが発端となって、二人の逃避行を連想してしまいましたし。


 しばらくの間、『ぐふふっ』と乙女らしからぬ声を洩らして周りから引かれてるのに、このときの私は全く気付いていませんでした。


 もう、なんで誰も教えてくれないんですか!? 超恥ずかしいじゃないですか!


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