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118話 ちっちゃい子が食欲あるのは良いことだ

 間欠泉がほとばしる奇妙キテレツな岩山を離れ、北へと向かう旅は続く。


 東西に延びている大きめの街道と交差しているところを先ほど通過したばかりだ。


 こちらの街道とはまるで違って、行き交う商人の数がとても多く、随分とにぎやかな印象を受けた。


 どうやら、この国は東西交易の方が盛んなようだ。


 【クリークビル】を出立してからここまでずっと、南北に行き来する人が少ないのが、どうにも気になってはいた。


 半ばおかしいとは感じていたのだが、異世界の道路事情がわからないだけに、まあこんなものなのかと思っていたのだ。


 それにしても、この差は?! 東西流通の方が楽な理由でもあるのだろうか? 水路とかが発達しているとか。


 う~ん?! でも、今までも橋を渡った記憶はないし……こうして見渡す限り、そうした河川もありそうにない。


 あの土産物屋みやげものやの売り子によると、「南北方向に流れている河川であれば、この街道よりもかなり西の方になりますね。凄く大きな川なんですって」という話だったが。


 いやいや、そもそも陸路の交通量に差があるという話だし。


 この南北の街道を使うのは、もっぱら隊商ぐらいなもので、個人で旅をしている連中は稀みたいだ。


 売り子の口振りからしても、随分呆あきれられているといった感じだったもの。


 それにしても、これだけ歩きやすい街道にもかかわらず、これほど人が少ないというのは、なにか理由がありそうなもんだが……。


 忙しなく先を急いでいる商人たちをわざわざ呼び止めるのも、なかなかに気が引けてしまう。


 それに、そう思いつつも、思案しながら歩き続けてしまったので、あの交差点からはそこそこ距離が離れてしまった……う~ん、わざわざ戻るっていうのも、なんだか億劫おっくうなんだよなぁ。


 それに、そもそもの目的は、北から南に流れてきている精霊調査が本題になるわけだから、あまりにも見当違いな場所に向かって、寄り道するというのもちょっとはばかられる。


 これまでの道中で見つけた精霊さんは、残らず仲間にしてきていた。


 精霊を昇華させるための魔力の使用に関しては、攻撃魔法のような派手な使い方をしないと、なかなか魔力を消費しきれないみたいだ。


 それでも、昨日遭遇した魔物との戦闘の影響もあってか、当初から軽量化の風魔法を使い続けていた風の精霊が昇華するのを見送っている。


 この辺りからは、だいぶ景色が様変わりするようだ。


 木々はすっかり途切れ、どこまでも続く田園風景が広がっていた。


 街道の右側も左側も、どこもかしこも、辺り一面が色の陰影だけが物を言うかのような黄緑色の世界だ……どこかの有名な画家がどこかで風景画として残していそうな感じの。


 ここからでは、距離が遠すぎて、牧草なのか、それとも何かが作付けされているかすら、判別することができない。


 ははは、なんも無いが、ここにはあった。


 そんな長閑のどかな風景に心を洗われつつ、のんびりと進んでいく。


 最初のうちは、気分も晴れやかだったのだが、いつまでもこうも同じ景色ばかりだと、さすがにめげる。


 だって、ちっとも前に進んだ気がしないんだもの。


 特に、振り返っても、見晴らす限り同じ光景になってしまってからは、同じ所を行ったり来たりしているのではないかという錯覚にさえ陥ってしまうのだ。


 なにも無い迷路みたい。


 ……あぁ、やっと遠くの方に、段々畑のような耕地が見えてきた。なんか、ほっとした。


 どうやら、あの辺でちょっとだけ上り斜面になっているようだ。


 ──しばらくして近づいてくると、そこには、まだ葉も付けていない低木が垣根のように一列に並んで植えられていた。それが何列にも渡って広がっている。


 俺もいい年だから、そろそろ木とか花を見て、それがなにかすぐ答えられるようになりたいとは常々思っているのだが……。何度見ても、何度聞いても、なかなか見分けることができないでいる。結構、必死に覚えようとしているのだが……。


 なんで年寄り連中は、あんなにも草花や樹木に詳しいのだろうか?


 俺なんかは都会育ちのせいもあるから仕方がない、なんて自分にいいわけしつつも、なんだかこの辺が自分が大人になりきれていない点だという気がする。そこがどうにも大人として落ち着かないのだ。


 あっ! そうだ。ここって、葡萄ぶどうの果樹園なんじゃないか!? うん、たぶん、葉っぱがほとんど出てないから確証はないけど……そう、おそらくは。


 日本だと葡萄の木は棚栽培が主流みたいだけど、外国なんかでは、こうしてワイン用に垣根で葡萄を栽培しているところもあったはずだ。


 ……ってことは、この辺って、ワインの産地なのかな?


 ここからだと、【エピスコ】の街よりも、まだ【クリークビル】の方が近そうだな。


 もしかすると、アリエルと一緒に飲んだワインのどれかが、ここで採れたものかもしれないな。


 あはは、あんときは久々にたのしい時間を過ごせたもんな。


 んっ?! なんか寒気がした! 風か……いや、風邪引いたのかな?


 上り坂で見通しが悪くなったので、【水反鏡】で先の様子を確認したところ、果樹園が途切れた辺りからまた平らな草原に戻っているようだ。


 ちょっと時間が早いけど、やりたいことができたので、今日のところは、そろそろ旅を休止にしよう。


 できるだけ平らなところを見つけて、キャンプ地とした。


 実は、熊肉のベーコンがついに尽きてしまったようなのだ。


 一日に十食は食べると言っていたユタンちゃんがほぼ全部、完食だ。


 【歩いてくボックス】がちょくちょく突然停止することがあったから、なにごとかと魔法線を介して問うてみれば、ベーコンをくわえたユタンちゃんがハッチから顔を見せ、お食事中とのことでした。


 そして、先ほど最後のベーコンを食べ終わったと。


 最初は確か一枚食べただけで満足していた様子だったから、油断していたのだけど……熊肉のベーコンって、結構な量があったはずなんだけどなぁ?!


 まあ、ちっちゃい子が食欲あるのは良いことだ。


 なので、多めに買い込んであった、いろんな種類の肉を燻製くんせいにしてあげようと思ったわけですよ。


 アリエルがやってたのを思い出して、ひとまずやってみようかと。


 以前テレビで見た記憶では、確かドラム缶みたいのにつるしていぶしてた気がするんだよね。


 土魔法もあることだし、ちゃちゃっと燻製釜を用意しちまおう。


 こんなもんで、どうだろ? う~ん、どうかな?! これは試してみんことにはわからんな。


 ということで、鉄で精製した簡易的な燻製釜を使って、燻製を作り始める。


 いろいろ味比べしたいからと、塩漬けにした乳牛肉、水牛肉、猪肉、鶏肉、豚肉……結局のところ、全種類の肉を半分くらいずつ、ベーコン用にしちまった。


 どうせ、いずれはユタンちゃんのお腹に収まりそうだから、無駄にはならないしね。


 あれっ!? ベーコンって、豚肉の燻製だけのことだったっけか? まっ、そんな細かいことはどうでもいい。誰かに売るわけでもねえしな。


 う~ん?! はて、燻す時間って、いったいどのくらいだったっけかな?


 アリエルちゃんに、ちゃんと教わったはずなのに……おぉぅ!? なんだ? またなんかえげつない寒気がした! ……ああ、そうだよ。あのときも俺の大嫌いな熊が……いや、その熊肉を燻製にするんで、気もそぞろだったのかもな。


 ここでも、俺の邪魔をするのか? クマッ熊の奴め。


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