117話 形は、まさにそっくりそのままだ
──しばらく食休みしてから、旅を再開する。
道すがら話していたら、スプライトがふと何かを思い出したようだ。どうやらレイノーヤさんと契約するよりも前に、この辺の空を飛んだ記憶があるらしい。
なんでも、へんてこな色の山が、もう少し先にあるそうだ。
いまいちよくわからない説明だったので、いろいろと聞き返してみたのだけど、スプライト曰く「実物を見ればわかるから」との一点張りで、教えてはくれなかった。
俺の顔を見ながら、含み笑いを浮かべているので、なにやら企みがあるみたいだ。
別に騙すつもりでもないだろうから、なにを驚かせてくれるのかと内心心待ちにしつつ、ここは黙っていることにした。
相変わらず、なだらかに続いていく街道を、ここまでかなり速いペースで歩いてきている。
スプライトにも疲れた様子は全く見られず、早くお目当ての地に着きたいという気持ちに当てられたのか、どんどん先へと歩いていってしまう。
それに俺も引っ張られるような形で、随分と早足になっているというわけだ。
ついさっき、同じ街道を北に向かって歩いていた人たちを続けて二組追い越したところで、俺たちのペースが普通の人の倍くらいのペースであることが判明した。
幸いにも、同じ方向に向かっていたので、相手がこちらの気配に気づく前に、ユタンちゃんの操作する【歩いてくボックス】に隠蔽魔法【ステルス】を掛けることができ、ことなきを得た。
接近するときには、更に風魔法で地面すれすれを浮かせるように移動させたので、相手には全くもって、気づかれてはいまい。
もう、それほど隠し通す必要もないとは思っているのだが、これほどの大きさの得体の知れない球体が、このスピードで近づいてきたら、相当相手を驚かせてしまうのではないかとの配慮からだ。魔物と勘違いされて、騒ぎになるのも厄介なので。
この辺はまだ木々も多く、見通しがそれほど良くもないので、だいぶ引き離した今となっては隠蔽魔法を解いている。
次の街に着いたとき、この状態のまま入るのには、さすがに勇気がいる。絶対に一悶着あるだろうから、すんなり街に入れてもらえないだろう。
やはり、今まで通り、面倒であっても正体を明かさず、街の外に置いておくのが、正解な気がする。
「あっ! あそこ、あそこよ」
突然、スプライトが前方を指差して騒ぎ出した。
あまりにもはしゃぐスプライトのかわいらしい姿にしばらく見蕩れていると、無視されていると思ったのか、スプライトは俺の頬に両手をあてがって、強引に顔を先ほど指差した方向に向けて、ぐいっと力を込めてきた。
あはは、なんだか凄く幸せ、なんて思った瞬間、見たこともない景色を目が捉えた。
「なんじゃありゃっ!?」
思わず、そんな声が漏れてしまったけど、自分でも無理はないと思う……だって、そうとしか言いようがないもん、あんなの。
それは、五十メートルほどの高さにも及ぶジャバ・ザ・△ット……それが三体も。いや、魔物とかじゃなくて、ただの岩山みたいなんだけどね。
形は、まさにそっくりそのままだ。
色がまたジャバ様そのもの……いや、それよりも更に、紅、朱、赤、茶、オレンジ、黄、黄緑、深緑色などのグラデーションが見事に掛かっていて、なおかつ濡れた岩肌が妙な滑りを放って、生き物感を出しまくっとる。
それに、岩山の天辺から噴水のように水、いや、温水が勢いよく吹き出したもんだから、異様としか表現しようがないわけ……。
「おぉっ! すげっ……間欠泉かよっ!? はははは、これは凄い、凄すぎる!! まさに温水がジャバジャバ出とる。ジャバ・ザ・ホットウォーターだ」
「でしょっ! こんなの口で説明できないでしょう? 直に見なきゃっ」
「確かにな」
グラデーション狂のユタン画伯も圧倒されているようで、【歩いてくボックス】から飛び出してきたと思うと、精一杯首を持ち上げて食い入るように見上げている。
なんか少しフラフラしているみたい。そんなにも衝撃を受けたのだろうか?!
ほんとに世の中には、見たこともないような不思議なものがあるものなんだな。
しばらくして、岩の表側へ回ると、ここはやはり観光名所のようで、土産物屋の売り子さんがジャバ様石のミニチュア版を売りつけてきやがった。
どうやら温水に含まれる成分が、石にこのへんてこな色合いを付けているようだ。
ユタンちゃんとスプライトがどうしてもと欲しがってきたので、一個ずつ買ってあげた。
後で絶対に「なんでこんな物買った!?」と後悔するぞ、と心の中で思いつつ、笑いを堪えきれなかったよ。くくくっ、おまえたち、知らんからな。土産物って、そういうものだ。よく勉強したまえ。




