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115話 ふふふ、頼もしい兵隊さんだね

 さて、もうそろそろ交代の時間なんだけど……。


 明日からの夜番をしなくていいのなら、今日一日くらいは、ユタンちゃんを起こさず、このまま俺が起きてればいいや。


 なにせユタンちゃんは一日中、あんな重いもの転がしてくれてんだから、相当疲れてるはずだしね。うん、そうしよう、っと。


 あれっ!? ハッチのところからこっちをのぞいてますがな。あらま、目を覚ましちゃいましたか。


「おはよう。ユタンちゃん。早いね」


「みはり」


 ふふふ、それならば仕方ない。目もぱっちり覚めてるみたいだし、なにやら張り切ってるみたいだから、お願いするとしようかね。


「なにかあったら、すぐ俺を起こしてね。それじゃ、お願いします」


「らじゃー」


 ふふふ、頼もしい兵隊さんだね。


 お言葉に甘えて、もう一眠りさせてもらおう。


 一応、ユタンちゃんには【風の守護結界】と【水の守護結界】を重ね掛けしている。


 スプライトには、自前の【風の守護結界】が常時掛かっているみたいだから、俺が掛けてやったのは【水の守護結界】だけだ。


 こうしておけば、魔術系の攻撃に関してはシャットアウトできるから。


 風属性の結界なら、同属性の風は吸収できるし、相克関係から土属性にも滅法強い。


 水属性の結界なら、同属性の水は吸収できるし、相克関係から火属性にも滅法強いわけなので。


 四属性は、基本的には二つの結界でカバーできるというわけだ。


 二つの結界の効果範囲が重ならないように、内側と外側で大きさを変えて張るように工夫もしている。


 光と闇に関しては、精霊が稀少であるため、まだ対処はしていない。


 不意打ちさえ食らわなければ、俺が魔物と相対するつもりなので、あくまでも彼女たちに掛けた守護結界は保険に過ぎない。だから、これでいいんだ。


 それでも、物理攻撃をシャットアウトできるほど回避能力が高いユタンちゃんなら、俺を起こす時間ぐらいは十分稼げるほどの鉄壁な守りだと思う。


 頼もしい兵隊さんって、表現したのも、まんざら嘘ではないというわけさ。


 だからといって、今日みたいに敵前へ自ら飛び出していくのは、絶対に止めてほしいんだが。


 本当に、こっちの精神が持たないから。


 あっ!? そうだ。はあ、やっちまった、か?!


 ああぁぁーっ、魔物を吹き飛ばしちまった……全部、魔晶石ごと……。


 あちゃあ、罰則があるとかって、言ってなかったっけ? 魔防ギルドで。


 いや、あれは、呼び出しでの魔物討伐の際の話だったような……うん、そうそうっ! 報酬の源泉になるからって、確かに言ってた。


 じゃあ、大丈夫かな?! 黙っとけば、たぶん平気だ。


 でも、惜しいことしたのか!? だって、魔防士たち全員の報酬を賄えるくらいなんだし。くぅっ。


 まあ、終わったことをどうこう言ってもしょうがないや。あぁ、でも……失敗したなぁ……やっちまったなぁ……やっちゃったよなぁ……。


 ──結局、あれから一睡もできなかった……。空が白んできそうな雰囲気なので、もういい時間のようだ。


 大自然の中で迎える朝か……かつての記憶がふとよみがえった──地平線の向こうから太陽が昇ってくるのを拝んだ際、とにかく胸の内に温かいものがこみ上げてくるような感動を覚えた記憶だ。


 あれは生まれて初めて、夜明け前のゴルフ場で目にした日の出だった。


 金のない大学時代、友達と行ったアーリーバードのラウンド──つまり、鳥がさえずるほど早い時間帯という、ゴルフ場のクラブハウスが開く前に特別安い料金でコースをプレーさせてくれるというサービスでのことだ。


 東京で生まれ育った俺にとって、あんなにも広大なゴルフコースという敷地の中で、大自然の象徴とも言える緑と光が織りなす世界に圧倒された思い出が、今も鮮明なイメージとして、頭に焼き付いている。


 踏みしめる柔らかな芝の感触と共に、いっぱいの朝露あさつゆを感じながら歩いて、広大な空間を一人占めできている気分を味わえた。


 ガキの頃、田舎のじいちゃんちで畑仕事を手伝わされた際にも、畑で朝日ぐらい見たことあるはずなんだけど、そっちの方の記憶はちっとも残っていない。


 無理矢理手伝わされたときと、自分の意志で好き勝手に行動していたときの違いだろうな。


 この世界に来てから、アリエルと数日野営したこともあったけど、いつも俺が寝坊してたせいなのか、そういえば、朝日をあまり気にした覚えがない。


 そうやって思い出に浸っていると、無性に日の出が気になってくる。


 東の空が明るんできて、鳥たちがさえずり始めてはいるが、太陽を拝むのにはもう少し時間がかかりそうだ。


 でも、こうして曙から少しずつ朝焼けが広がっていく光景を眺めている方が、むしろ、心躍るものがある。


 そして、迎えた太陽は……今まで目にしたどの朝日よりも更に美しいものに思えた……。


「「きれい」」


 傍らで、小さな呟きを耳が拾った。


 あぁ、二人も同じように、いつの間にか、すぐ横で朝日に見入っていたようだ。


 ……しばらく、美しい光景を堪能した後、お互いに朝の挨拶を交わし合う。


 さて、そろそろ、お腹も鳴り出してきそうだから、朝飯の準備を始めるとしようかね。


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