114話 感知とか罠とか面倒だし
寝る前に、腕時計を外してスプライトに渡し、文字盤の見方を説明しておく。
「へえ、針が時を刻むなんて初めて見た」
ん!? 時計の概念って……まあ、妖精だもんな。
でも、秒針、長針、短針の関係を説明してやると、すぐに時計の見方を理解してくれたので、助かった。
「じゃあ、短針がこの位置に来たら、交代するから起こしてくれ」
あっと! それと、焚き火が消えないよう、適宜、薪を切らさないように言っとかないとな。
今までアリエル任せだった俺も、所詮、素人だから、とても十分とは言えないだろうが、とりあえずはアリエルから教わって必要だと思えたことをスプライトに伝えておく。
その間中、スプライトはうんともすんとも言わず、むっつりと押し黙ったままだった。
ん?! なにか気に障ること言ったかな? ……。
──さてと、じゃあ、俺は一眠りさせてもらうとするかね。
久しぶりの野宿だったのと、やはり魔物に遭遇したのが心のどこかで気になっていたせいか、少々寝付きが悪い。
それでも、焚き火の不規則な炎の揺らめきが次第に眠りを誘い、その灯りに映し出された幻想的なスプライトの横顔をぼんやりと眺めていたら──。
──ああ、いつの間にか寝入ってしまっていたようだ。優しく揺り起こしてくれる心地の好い手のひらの感触を楽しむために、いつまでもまどろんでいたい。
……次第に覚醒するうちに、それだとスプライトにいつまでも番をさせ続けてしまうことに気付き、焦って、目が覚めた。
「ふぅわぁ~っ!」
さすがに、まだちょっと眠いな。
なんだか少し起きるタイミングが悪かったみたいだ。
起こしてくれたスプライトが、そわそわした感じだったから、なにかと訊いてみれば、起こす時刻が正しかったかを確認してほしかったそうだ。
時計に目をやると、お願いした時間をちょっと過ぎたところだった。
「ちゃんと言われたとおりのところで起こしたんだからね。揺すってもなかなか起きないから……」
「ああ、起こしてくれて、ありがとな。ちゃんと時計が読めてるのはわかってるから。それに寝坊して悪かった。さあ、交代するから、もう横になって」
「うん。ありがと……がんばってね。おやすみ」
「ああ、おやすみ、スプライト」
さて、俺の番だ。
あれっ!? なんか手が臭い。あ、料理した後、手を洗うの忘れてた。
そっか。水場がねえからな。うっかりしてた。水魔法で洗って……いや、雑菌が繁殖しちまったから、ここはしっかり光魔法で浄化しとくべきか。ふぅ。
さあ、どうやって時間を潰すかな?
そういや、今後の夜間警戒の体制について、ちょっと検討しておこうと思ってたんだった。
要は、みんなが眠っていたとしても、安全上、なんら問題がなければ、いいわけなんだけど。
まずは、危険を察知することか……そして、迎撃態勢が整うまで時間稼ぎができること、ぐらいかな?
……う~ん。どうすべきかなぁ……察知に関しては、なんかの結界を大きく張ってみて、結界内に魔物が入ってくるなり、肉食動物が入ってくるなりしたら、感知できるか試すしかないのかな?
さすがに、結界に入ってきただけで、自動的に迎撃するようだと、誰彼構わずの無差別攻撃になっちゃいそうだから、却下するしかないものな。
あくまでも、寝ている我々を起こすと同時に、足止めになってくれそうな罠的なものが妥当な線か。
いや、多層構造の結界にして、外側から順に強力な罠になるようにする方がいい気がするな。
一番外側は、人を捕縛できる程度で、その内側は、野生の肉食動物辺りを想定したもの。そして、一番内側が、魔物を排除できる程度の罠を想定しておけば、問題なさそうだ。
まずは動物なんかを結界で見落とすことなく感知できるかどうかを、しっかりテストしておかないと駄目か。
さて、どの属性が適しているんだろうか? 火・風・土・水・光・闇……う~む、火炎放射、溶岩、風圧、感電、雷、竜巻、かまいたち、窒息、石壁、落とし穴、剣山、水鉄砲、氷結、目潰し、レーザー、目隠し……とりあえず、こんなもんか。
こちらに悪意がない人たちが近づいてきた場合を考えると、あまり強い罠は駄目だ。
できるだけ酷い目に合わせないような、比較的やさしめな罠となると……風圧、感電、石壁、落とし穴、水鉄砲、目潰し、目隠し辺りか。
外側は、石壁を作って、その内側に深めの落とし穴……それか風圧で壁の上から下に吹き飛ばすか、もしくは壁の上で感電させたり、目隠ししたりとかが、穏便な方法だよな。
それを越えてくる輩や動物には、ごく普通に殺傷能力のある罠を用意してやるか……火炎放射、雷、竜巻、かまいたち、窒息、剣山、氷結辺りが適当か。
罠に掛かったのが動物なら、肉を食べられる状態で捕獲しておきたい。
となると、かまいたち、窒息、剣山、氷結が妥当な線だ。
更にこれらを物ともしない敵となると、かなり厄介な敵になるだろう。
問答無用に消去できる強力な罠だと……溶岩、レーザー辺りだけど、まあ、威力うんぬんは魔力次第で、どうとでもなるから、考える必要もあるまい。
あれっ!? 違うよぅ。罠の種類を考える前に、結界内で感知する方法を考えなきゃいけなかったんじゃないか! ……はあ、どこで話が逸れたんだ?
でも、寝ている間に、接近者を感知する方法なんて複雑そうなんだよなぁ。
いっそのこと、頑丈なドームでもぶっ建てて、その中で、寝ちまうのが一番楽そうではあるか!?
でもなぁ。魔物なんかだと、土の中を移動するような奴がいないとも限らない。
そんな魔物なら、土壁とかも食い破りそうだから、形状は力が分散するように球体がいいかな? 肉厚の金属球にするとか。
それとも、外側に高電圧の結界でも張っとけば、目一杯の魔力で圧縮した土の方でいいかも。
念のため、中で休んでいる者が感電死しないよう、しっかりと絶縁して、少なくとも三人がゆったりと寝れるくらいのスペースを確保する感じにでもしてみよう。
うん、感知とか罠とか面倒だし、もうそれでいいや。




