112話 ちょっとごめんなさいよ
さてと、暗くなる前に、寝床用の葉っぱと葉っぱ付きの枝を用意しとくんだったな。
あの辺りなら風なんかも凌げそうだし……ん!?
「いや、おまえのことじゃねえから、それは本当に……我慢とかしてねえから、なにも堪えてなんかいねえから……大丈夫だって」
『風なんかも凌げそう』とか考えただけで、まさかスプライトが怒り出すとは……はあ、妖精のいる世界って難しいなぁ。
「そうだったな。風はおまえのしもべだったな。ごめんごめん。おまえの御陰でそうした心配がなくて助かるよ。いや、ほんと」
そんなに怒んなよ。言葉の綾なんだから……。
つうか、いい加減にこのダダ漏れ、なんとかならんの?
さあ、それはともかく、本当に寝床の準備しとかないと。
早く機嫌直してくれないかな? なら、気を紛らわしてもらおうか。
「それじゃあ、風妖精さんにお仕事、頼めるかな?」
「ふんっ! なによ?」
「こんな感じの葉っぱと葉っぱ付きの枝、それと枯れ葉と枯れ枝をこんくらいの量集めてもらいたいんだけど、頼める? できる?」
「馬鹿にしてんの!? できるに決まってるでしょうがっ! やってやるわよ、そのくらい。すぐにでも」
「あんがと。じゃあ、よろしくね!」
おっと、ユタンちゃんが行き過ぎてる。
『おーいっ!! ユタンちゃん戻っといで……こっち、こっち』
おおっ! あいかわらず、はっえっ、あれっ!? この勢いって、まさか轢き殺すつもりじゃないよね? ……おぉぅっ!! こわっ。
でも、凄い機動だった。
これって、もはや機動兵器と呼べるのでは? ガ○ダムではないな……ザ△でもない……ジ□までもいかない……やっぱ、ボールだろうな……うん、機動兵器って感じ全然しねえじゃんか!
『ユタンちゃん? もう出ておいで。うん、今日はよく頑張りましたねぇ』
「ぶい」
「今夜はここでお泊まりするから、ご飯ができるまで、ユタンちゃんはここでゆっくり遊んでてね」
了解の意を示したユタンちゃんは、歩いてくボックスの中に戻っていった。
まあ、動かす気配はないので、中で休憩することにしたみたいだ。
俺の横では、もう枝葉を集め終わったスプライトがこれみよがしに俺の周りをうろうろしていた。
一言褒めて、ちょっと頭を撫でてみた。
なんか犬みたいで、かわいかったので、つい……。
なにも言わずに、目を瞑ったまま、ずっと撫でさせてくれるみたいだったので、調子に乗って、今までずっと我慢していたケモミミに少しだけ触れてみる。
「ひゃっ!」と声をあげたかと思ったら、一目散に逃げていってしまった。
ああ、スプライトのやつ、大丈夫かな?
まあ、十分な装備は着せてあるし、スプライト自身も四大妖精でもあるからね。
あいつの口振りからして、そこらの普通の魔術師なんかの魔術とは一線を画すレベルの魔法なんだろう。
「今までだって、ずっと一人でやってきたもん」って、宿でも聞いてるし、なんの問題もないだろう。
それにしても、いい肌触りというか、いい手触りだったなぁ。うん、予想以上にケモミミは柔らかい感触だった。
耳族の場合には、普通の人間みたいな耳があるのに、頭の上の方にもケモミミがあるから、うっかり、ぬいぐるみ感覚で触っちまった……けど、やっぱ、まずかったかな?
触れた瞬間、ケモミミもぴくって、閉じるみたいに動いてたし、耳が敏感な女の子も結構いるからなぁ……もしかして愛撫されたと勘違いさせちゃったかな?
帰ってきたら、謝っとこ。お詫びにごちそうでも作っておいてやるか。それで、なんとか許してくれ。
それでは、まず、なにから拵えていくかな?
う~ん……ここはやはり、足が早い魚介類から消費していくべきだよな。
あ、そうだった! レイノーヤさんに用意してもらった鍋って、一人前用だ。
みんなの分も……いや、大きな鍋が必要か。
この際、三人用と言わずに、十人前くらいのでっかいやつを作っちまおう。
再び旅に出ようと、クリークビルで決心した際、聖樹様に言われていたことをふと思い出していたからだ──『この世界に長居したいなら、いっぱい食べなきゃだめですよ』と。
だからこそ、あれほど大量に食材を買い占めていたというわけだ……ほんとだよ。うん、嘘じゃない、少しはね。完全に負けたわけじゃねえ。
それにしても、調理器具を使いたいときにさっと作れて、使用し終わった物は土に戻すから、持ち歩く面倒もない。相変わらず、土魔法殿も重宝してくれますなぁ。
さてと、海老や貝なんかは特に傷みやすそうだから、あの辺からだな、っと。後は……あの魚屋の娘さんが選んでくれたなんだかわかんない魚の数々……うん、あれらをメインに使ったアクアパッツァを作るとしよう。
それなら鱗と内臓を取り除くだけで、魚を下ろさなくてもいいから簡単だし。
まず、野菜類はフリーズドライにしたタマネギ、トマト、色とりどりのパプリカを水で戻しておく。
「ユタンちゃん、ちょっとごめんなさいよ」
【歩いてくボックス】の中に入っているユタンちゃんをびっくりさせないように声掛けする。
あら、やだ! あたしったら、固定脚を出し忘れてたわ。
すぐに固定脚を出して、歩いてくボックスがしっかりと支えられていることを確認する。
固定脚に刻んだステップを昇っていき、歩いてくボックスの上蓋を開けて、やっとお目当ての魚介類を取り出すことができた。
戻って、調理を再開だ。
なかなかの大きさのある魚たちに、それぞれ軽く塩コショウを振って、道すがら見つけておいた香草を少しだけ魚の腹の中に詰めていく。
その後は、火魔法で鍋を熱し、オリーブオイルが温まったら、フリーズドライのままのニンニクをさっと炒めて、香りをオイルに移す。
その上に、魚を次々に並べて焼き、軽く焦げ目をつけるくらいで、ひっくり返して、反対の面も火を通しておく。
本来なら、身を崩さないように、いったん魚を取り出した後、残ったニンニクと魚の香ばしさが移ったオイルで、野菜を軽く炒めるところだが、今回は水で戻した野菜なので、油が飛ぶといけないから炒めるのは止めておいた。
そのまま鍋の隙間に、大量の野菜、海老、貝を並べて、改めて塩コショウで味を整え、白ワインをたっぷり入れて、魚の上にも香草を乗せたら、厚めの蓋をして、蒸し焼きにする。
しばらく煮込んで、貝の口が開いたら、完成の目安だ。
煮込む間に、土魔法でテーブル類、食器類も手早く精製しておいた。
出掛けに食堂で買っておいたパンを切り分けて、皿に盛れば、準備は完了だ。
そろそろ、アクアパッツァから良い匂いが漂い出してきた。




