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110話 掴んでは避ける、掴んでは避ける

 魔物やら、俺の魔法やらのせいで、めちゃくちゃになった街道を土魔法できれいに整備し直しておく。


 ふぅ、これで通行の支障にはなるまい。


 ……うん、なんかやり遂げた感を出しているが、やってくれたのは、もちろん精霊さんだ。いつもすまないね。


 正直なところ、知らない人や動物が死んだ場所で、一夜を過ごすというのは、さすがに嫌なので、早々にその場を離れたいところだ。


 でも、その前に、ユタンちゃんの装備を整えなければならない。


 どういうわけだか、いつの間にやらユタンちゃんがセーフティービットを装備から外してしまっていたのだ。


 【歩いてくボックス】の中に入って動かしてもらっていたせいで、ちょっと前までそのことに気がつけなかった。


 あんな無茶なことをやらかすからには、装備くらいは万全を期しておきたい。でないと、こちらとしては気が気ではないのだ。


「どうして取っちゃったのかな? そのコサージュは旅の間中は、ずっとしてなくちゃ駄目なんだよ。ん!? なに? ユタンちゃん。この石がどうかしたの?」


 ユタンちゃんが傍らに落ちていた石を拾って、俺に渡してきた。


「なげる」


「えっ?! どこに、どこに投げればいいの?」


「ユタン」


 えぇぇーっ、ど、どういうことぉ?! 罰を与えろってこと? 悪いことしたから折檻しろ、とでも要求してきてるの? いやいやいや、駄目駄目、おじさんそういうのできない。無理無理無理……。


「違うわよ。バカね!」


「えっ!? どういうこと? スプライトにはユタンちゃんの言ってる意味、わかったの?」


「たぶん」


 そう言いつつ、スプライトもなぜか石をいくつか拾っている。


「こういうこと、よっ!」


 いきなり、スプライトが叫ぶと同時に、ユタンちゃんを目がけて、石を複数、投げつけた。


「ぎゃーすっ! なっ!?」


 びっくりしたぁ。とにかくびっくりした……はあ、ただただびっくりとしか言いようのない光景が、そこに展開されたのだから。


 最初の驚きは、まさしくスプライトの暴挙に対して……だったのだが、続いて起きた現象を……なんと表現したらいいのか、まだ気持ちが落ち着いてこない。


 えっと、ちょっと待ってね……今、気持ちを整理してるから。


 ……ふぅ……って、まじかっ! すげーな!! そこまでできちゃうの!?


 なんとユタンちゃんは飛んできた石……ではなく、石を迎撃しようとして、セーフティービットから高速で飛び出した花びらを難なく掴んでしまっていた。


 もちろん、それだけじゃなく、その状態から更に飛んできた石を回避──しかも、同時に投げられた複数個の石と、それに反応した複数のセーフティービットの花びらに対して。


 いや、違うよ、ユタンちゃん。さっき確かに、「どうして取っちゃったの?」って、聞きはしたけど、それって別に、「どうやって取ったのか?」という意味のつもりじゃなかったからね。


「もったない」


「えっ!? なんのこと?」


「あんたに貰ったコサージュがに決まってるでしょっ! はぁーっ、乙女心が分からない人ねぇ」


 それって、えっ!? そういうことなの?


 辛抱強く、いろいろと訊ねていってみれば……。


 いち早く異変に気付き、先頭を切って飛び出していったユタンちゃんは、魔物に接触し、あの戦闘へ……街道が右に大きくカーブしていたために俺たちからは全く見えなかったが、俺たちが到着したのは、その攻撃を何度も避けた後だったらしい。


 そこで、ユタンちゃんは衝撃を受ける。


 とは言っても、別に自分が魔物の攻撃を食らったというわけではなく、その攻撃をセーフティービットが弾く様子を間近で目撃してしまったからだ。


 セーフティービットの花びらに、小さな小さな傷が付いたことに対して、心に衝撃が……。


 そう聞いた俺とスプライトの二人で、何度も花びらを確認させてもらったが、どこに傷があるのか全くわからなかったが……。


 どうやら色の識別能力が異様に高いユタンちゃんの眼だけは、はっきりとその傷を捉えているらしい……。


 そんなこんなで、魔物との戦闘中、慌てたユタンちゃんは、迎撃に飛び出してくる花びらを掴んでは避ける、掴んでは避ける……でも、花びらは六枚、手は二つ……切りがないので、仕方なく外したそうなんだ。


 うん、とにかく傷が気になるらしい……今もコサージュの花びら部分を何度も何度も撫でている。


 セーフティービットを仕舞った後、魔物の攻撃を避けるのが楽しくなっていて、ついさっきまでは、そのことを忘れていたらしい。


 今はそれを思い出し、傷を確認して、明らかに落ち込んでいる様子だ。


 しかし、困ったなぁ。


 今の感じだと、たとえ無理矢理に装備させたとしても、結果はまたおんなじだろう。


 そもそも、ユタンちゃんを守るべき道具が、かえってユタンちゃんを危険に晒すことになるんじゃ意味がない。


 どうなんだろうか? ……全然納得はいかないが……納得いかないのだが、男の俺にはどうしようもない気がする。う~む、やはりユタンちゃんも女だったかぁ。


 だが、それならば、言っておくべきことがある。


「もうあんな風に一人で飛び出していっちゃ駄目だよ。もちろん魔物の前ではセーフティービットも外しちゃ駄目。さて、コサージュを傷つけたくなかったら、どうしたらいい?」


 おっ! 目をぐるぐる回して、悩んでる悩んでる。


 ちょっとかわいそうな気もするけど、なにはともあれ、ユタンちゃんの安全が第一だ。


 恨めしそうにこちらを見つめてきても駄目だからね。ここは心を鬼にして断固として拒絶した……うっ、なんか胸が痛い。でも、我慢……。


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