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11話 世界の監視者

〔聖樹ファトゥム side〕


 ウッドエルフの子たちからの帰還報告──「くだんの男を無事連れ帰ることに成功いたしました」と。


 もっとも、世界樹を通して、ずっと外の様子は窺ってましたけどね。


 世界中に根を張り巡らす世界樹です。その根の周辺の様子ならば、余程のことがない限り、世界を見通せる──それが世界樹に棲む妖精エルフの最大の強みなのですから。


 エルフは世界で起きた出来事全てを知ることが使命とばかりに、世界の監視者を自称してますもの。


 本当のところは長い寿命に、ほとほときしたエルフたちが、暇つぶしに外の世界を覗き見してるだけだと私は思ってますけどね。


 いけない。そんなことよりも、そろそろ館へ向かわなくては。


 まあ、やかたと言うよりも、我々エルフが下界の者と面会するための空間としての、あの部屋ありきなのですけど。


 館はむしろ、最奥の間を管理するための付帯物に過ぎません。


 元々、世界樹の根が露出していた部分の周りを囲って部屋を作り、その上に後から部屋を維持するための館を建てたというのが実情なわけですから。


 最奥さいおうの間へ移動すると言っても、このとおり一瞬です。


 さて、迎え入れる準備は整ってますかね?


 まあ、きれい。滅多に使われることがないというのに、随分ときれいに掃除してくれてましたのね。偉いですね、あの子たちは。


 ふふふ、この部屋は真ん中に御簾がかかってますから、向こうからはぼんやりとしか中が窺えなくなってますけど、実はこちら側からは、はっきりと見える魔法がかかってるんですよ。


 私が準備が終わったことを満足げに確認すると、それを見計らったように、この館の使用人があの男を呼びに出て行きました。


 しばらくすると、件の迷い人が部屋に入って、御簾から少し離れた場所に用意された椅子に座りました。


 少し緊張してるのは見るからに分かるのですけど、いちいち考えてることがこちらに伝わってきて、思わず笑いそうになっちゃいます。笑いを堪えた結果、かえって威圧するような形になっちゃいました。あはは、失敗失敗。


 目の前の人は結構な大人といった外見をしてるのに、まるで念話に不慣れな幼児のようで、なんだか微笑ましく思えてきました。


 だからこそ、ちょっとした悪戯が頭に浮かんだんです。


 こっそりと念話を繋げて、意味深風に読み取れるように思念を解放してあげました。


 すると、どうでしょう。ふふふ、いろいろと誤解した思念がこちらに伝わってきます。


 ふふふっ、これって、楽しい! すごく楽しくなってきちゃいました。


 この人って、なんだかすぐに考えが後ろ向きになるみたいなので、誤解を解いたりと大変でしたけど。でも、先々任様の口調を真似て、悪戯を楽しみながらなので、ふふふ。


 様子を窺ってた側近たちからしたら、しばらくは無言でいたように見えたのでしょうけど、私が念話で話し掛けてることに気づいたみたい。


 まあ、それも当然ですよね。だって、この人の思念って、エルフ側にはダダ漏れなのですから。


 この最奥の間には、ウッドエルフの子たちも控えてるため、エルフのみに伝わる秘密なんかを話す際には、対象を絞った念話が適してると言えます。


 そうそう、私が口真似している先々任様というのは、私の前の前に聖樹様になられた偉~い御方なんです。


 私にとっての聖樹様と言えば、どちらかと言えば、普段、私の教育係をしてくださってる先任様の方なんですけど、なんと言っても、重要な案件で最も尊重される御意見番は、かの御方──先々任様というわけです。


 先々任様の口真似をしているのも、聖樹仮免中の私が対外的になんとか威厳があるようにつくろうための自分なりの工夫なんですよ。


 上に知れたら叱られるかもしれませんけど、念話じゃ、側近たちにも分からないから大丈夫、のはず。


 それはともかく、口真似に加えて、御簾も掛けて、効果音とか、照明とか、それらしい厳かな雰囲気作りだって、手を抜いてません。側近たちがばっちり仕込んでくれてます。


 ふふふ、それにしても、この人なんだか、いろいろ考えてることが面白いんですよねぇ。


 念話がつたない子どもの場合であれば、こんな風に考えてることがぽんぽん出てくることはないですし、そもそも考えにまとまりがなくて、我がままばかりだから、聞いてても、正直、うっとうしく感じるだけです。


 でも、この人の場合、しっかりとした考えのある大人ですから、かなり様子が違います。その湧き出るような思念がどんどんこちらに流れ込んでくるから不思議な感覚なんです。


 あれっ!? おかしいですね。思念は読み取るのが基本なのに流れてくるなんて……。


 いえ、それにしても、どうにも楽しい。なんだか、久しぶりにこんなにも気軽な会話ができた気がします。


 聖樹に選ばれてからというもの、親しかった子たちからも、敬語で話しかけられることが多くなってきましたからね。寂しいんです。


 ふふふ、生物の様相や迷い人について説明してハテナ顔になったのに笑ったり、迎えを出したことのお礼を言われたり、エルフの寿命について話す問答の中で怒ったふりをして様子を窺ったり、会話中についつい本音がこぼれてしまったり、先々任様の口癖を真似してる間、相手の反応に思わず笑いそうになっちゃったりと。


 それにしても、いつになったら気付くんですか!?


 大概にしてくださいよ。


 ふふふ、とびきりの美少女とか、そういうのはいいから。いやいや、男共がひれ伏すとか、怖いから。


 うへっ、上司にしたい女性No.1とか、そんなこと言われたことないので、凄く嬉しいような恥ずかしいような。


 なにも出ないですからね、うふふ。



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