109話 戦闘民族ヤサイ系な人なの?!
もう何の魔法やらイメージすることもできなかった……ただただ目の前の醜悪な存在を消し去りたいがために、解き放った魔素の塊──それが魔素の噴流となって流れ去っただけの。
……その奔流が過ぎ去った跡には、あらゆるものが灰燼と化していた。
「あぁ~あ、やっちゃったわね。やっつけるにはやっつけはしたけど……やりすぎ」
わかっているって、俺だって。いや、放ち終わった瞬間に気がついたわけだから、本当はわかってはいなかったんだけれども。
今ならわかる! これは危ない……だめっ、絶対!!
「おもろ」
あっ! そうだよ。
「ユタンちゃん、だめでしょっ! あんな危険なことしちゃあー。おじさん、不安で。死んじゃうかと思ったじゃない。めっ!!」
しかも、あやうくこの世界を崩壊させちまうところだったし……ふぅ……あぶねえ。
「たのしい」
「えっ?! なに?」
「さける」
「えっ? 裂ける!? 怪我したの、どこ? ……ん!? ああ、さけるって、攻撃を避けるのがって、こと?」
細くて小さな首が取れちゃいそうになるくらいの勢いで、何度も頷いているユタンちゃん。
なに? ユタンちゃんって、戦闘狂……戦闘民族ヤサイ系な人なの?! ごりっごりの肉食、ベーコン好きなのに?
いやいや、違うよね? ……単に避けるのがゲーム感覚で楽しいだけ……だよね……。
うんうん。そういうことらしい。ほっとしたぁ。よかったぁ……いやいや、そうじゃないでしょっ!
「だめだめ、危ないからぁ……危険だからぁ。もう二度としちゃ駄目だからね」
「やだ」
「めっ! ユタンちゃん」
「むし」
えぇぇーっ、ユタンちゃん、もう反抗期に入っちゃったの? お、おじさん、どどど、どうしたら??
「おいっ! スプライトからも、なんか言ってくれよぉ」
「別にいいんじゃない。この程度の魔物」
「えっ!? これって、魔物なの?」
「だったら、なんだと思って、あんな危険な魔法放ったのよ?!」
「そこつ」
ははは、ユタンちゃんまで……。
でも、そっかぁ……これが……魔物だったのか。
あぁぁっ、そうだった! 誰かが襲われてたんだった……あ、あの潰れた肉片が、う、馬か?!
じゃあ、馬車に乗ってた人は……うっ、おぉぇっ、ごばぁっ……げっ、ごほっ、がっ、はぁはぁっ……うぅぅっ……。
「だ、大丈夫!? どうしたのよ? いきなり」
「はぅっ……はは、だいじょうぶ。大丈夫だから……ふぅーっ」
……あのぼろ布と一緒に……ところどころ木の枝に絡まって、辺り一帯に飛び散っちまってるのが……人か……。
馬車があんな高い林を飛び越えて、街道の向こうまで落ちてきたくらいだからな……ああもなるか。
あれっ!? 倒された魔物って、再度、近くにいる動物を魔物にするんじゃなかったっけ?!
ああ、御者も馬も即死だったみたいだから、それが幸いしたのか?
とりあえず、穴掘って埋めてやるか?
いや、そういえば、この世界では火葬しないと、アンデッド化するんだったな……レイノーヤさんに初めて叱られたときの記憶だから、うん、よく覚えてる。
燃え広がらないように穴を掘って、その中に風で遺骸を収めた上で、火を灯して燃やし、灰になってから、土をかけて、墓標を立ててあげた──土・風・火・土魔法と連続で使って、一度も手を触れずに埋葬したことはどうか許してくれ……俺もこれ以上ゲロ塗れになりたくないし、君らもこれ以上汚されたくもあるまい。
しっかりと拝むことぐらいはしてやるから、成仏しろよ。
その後、服を着たまま、全身を水魔法で洗浄した……あぁ、君ともお別れか……水の精霊さん、今までありがとう。
せめて俺の手で天まで送還してやろうと、自身の体内にある魔素を消費して、上昇気流を作り、水の精霊を昇華させてあげた。
いつまでもびしょ濡れで、風邪を引いては困るので、服に温風魔法【ドライヤー】を当てて乾かしておいた。
水の精霊さんまでも見送ったことで、なんだか妙にしんみりしてしまった。
しかし、いつかどこかで、魔物に出くわすとは思っていたが、こんな街道のど真ん中で遭遇するとは……。
いったいどこからやってきたんだ? あんなでっかい奴なんて。
魔物を倒しても、別の魔物が生まれたような形跡が全く感じられなかったのは……。
前に聞いてたとおり、傷ついて弱った動物とか人間がこの近くに居なかったお陰なのか?
となると、魔物になるっていうのは、病原性のウイルスか何かに感染したということか、それとも寄生虫の類なのだろうか?
にしても、その傷って、いったいどの程度になったら、やばいわけ?!
……あれっ!? あんなところに精霊が……いつの間に。
まあ、魔物の方に相当気を取られてたからな。見落としてたか……はあ、今更ながら、随分と我を忘れてたんだな。やらかしちまったし、然もありなん。
『それはともかく、ささっ、ちこう、近う寄れ! 我が同志よ』
ほほほ、愛いやつ、愛いやつ! なんと闇の精霊君ではないかい。はははぁ、仲良くやろうではないか。




