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106話 おいおい!? そっちじゃないぞ

 翌朝、予定どおり、俺たちはしばらくお世話になっていた宿を引き払い、クリークビルの町を発つ。


 城門で門衛にメダリオンを返そうとすると、行き先を訊かれた。


 ここから北にある【エピスコ】の街に向かう予定であることを伝えると、その街もこのクリークビルと同じ【ラチアモンド郡】に属するということで、この入郡許可証がそのまま使えるからと、メダリオンを突き返された。


 それに加えて、新しい街へ到着した際には、そのまま素通りせず、どこの町から来たのかを門衛に一言伝えておくと、台帳漏れのトラブルを避けられることを教わったのだ。


 各町で新規に登録された者の名簿は、隊商を通じて、郡内の町同士の間で定期的にやり取りはされているらしい。ただ事故によって、遅れたり、紛失することもあるという。


 町を移動する際に、そうした台帳漏れに巻き込まれてしまうと、確認が取れるまで軟禁されることもあるそうだ。


 親切に教えてくれた門衛さんに礼を告げて、町を後にした。


 【歩いてくボックス】を取りに行こうとして、人気のない茂みに足を向けると、すかさず「おいおい!? そっちじゃないぞ。大丈夫か? そんな方向音痴で」と、さっきの門衛さんに注意されてしまった。


「ちょっと用足ししたくなっちゃったもんで」と、 苦し紛れの嘘を吐いて、茂みへと急いだ。


 危ねえ、危うく怪しまれるところだった。


 いや、今まさに不審がられているのか。


 嫌疑がこれ以上深まらない内に、さっさと出発しなくては……。


 でも、ユタンちゃんを中に入れて、転がしていくとなると、今度は「一人迷子になっているぞ」と言われかねない。


 ここはしばらく、ユタンちゃんに我慢してもらって、歩いてくボックスに闇と光の複合隠蔽魔法【ステルス】をかけた上で、見つからないよう、宙に浮かせて持っていこう。


 それじゃあ、改めて、出発っ!


「ユタンちゃぁ~ん。そんなに怒らないでぇ……もう少しだから、もう少しの辛抱だから。もうちょっとで歩いてくボックスの中に入れてあげるからね。もうちょこっとだけ辛抱してて」


 どうにか機嫌を損ねてしまったユタンちゃんを宥めつつ、一路、北へ向かって進路を取る。


 今まで滞在していたクリークビルの町は、少し高台となったところにあったものの、海辺に近いということもあって、すぐ海に出れる程度の海抜でしかなかった。


 ここから北の方角には、遙か遠くではあるが、山々が連なっているのが見えている。


 とはいえ、全体としてほんの僅かに緩やかな上りを感じる程度なので、非常に歩きやすい。


 それに、この北へ向かう街道は、さすがに街道と謳うだけあって、きちんと整備されており、特段に歩きやすかった。


 というか、これまで旅をしてきた【エルフの郷】から【クリークビル】までの道無き道が異常だったと言える。


 この街道には、当然のことながら、足を取られるような巨木の根もなければ、斜面に張り付きながら進まなければならない沢などもなく、まっ平らな交通路がずっと先まで繋がっている。


 今になって冷静に思い返してみると、普通の人間にあの道無き道を行き来することが果たして可能なのだろうかという疑問すら湧き始めたくらいだ。


 勇者ではあったが、少女然とした普通の子に、何気なく引っ張られるような形で後を付いて歩いてきた……いや、あれは疾走と呼んでもおかしくないほどだったんじゃないかと。


 後から知ったのだが、クリークビルは世界樹からなんと百キロほどの距離にあったらしいのだ。


 あいにく陸路で行き来したことがある者には会うことはできなかったのだが、あの辺の海を知る者に話を聞くことができた。


 実は世界樹が聳え立つのは、かなり海岸線に近い場所であって、海上からは結構近くまで近寄ることができるらしい。


 ただし、その海岸線は切り立った崖になっているため、海から上陸することは不可能だそうだ。


 世界樹の沖合には、相当良質な漁場があるらしく、漁船は世界樹を目指して、海岸線に沿って進んだ後、沖に出るのが常だという話だった。


 その漁場に通う漁師の感覚で、おおよそ百キロの距離にあるというわけだ。


 これらはアリエルと一緒に訪れた鉄板料理屋で、海産物の仕入れも担当している料理人さんから聞いた内容だ。


 思い起こせば、レンジャー部隊の訓練ぐらいでしか使用されないような濃い密林の中を、それも余裕たっぷりに身の上話を散々交わしながら、たったの三日で踏破してしまうアリエルって、いったい!?


 いや、それ以上に、大した苦労とも感じることなく、傍らを追走していた俺の方が謎だ。


 自分自身、いったい全体、どうしてしまったんだろうか? と不思議でならない。


 こうやって、なにもない平坦な街道をのんびり進んでいると、どうにも過去にあった諸々が心に浮かんでは消えていく。


 はあ、この辺は土が赤い。ただただ赤い。道の土も、畑なんかも。ずっと真っ赤だ。


 あ……忘れてた。ぼーっと、物思いに耽っている場合と違った。


 そうだよな。町からそこそこ離れたわけだし、もうそろそろ【歩いてくボックス】にユタンちゃんを搭載してあげるとしよう。


 一度、【ステルス】の魔法を解いて、固定用の脚部を出し、地面にしっかりと安定させる。


 そして、外殻の緊急避難用ハッチを開けると──その瞬間を見計らっていたかのように、俺の股の下を縫って、ユタンちゃんが中に飛び込んでいった。


 え!? そんなに、そんなにか?


「ちょっと待ってて、ユタンちゃん。最後の仕上げだけしちゃうから!」


 そう言って、逸るユタンちゃんを抑えておく。


 実は、このままだと【歩いてくボックス】の中は、閉鎖空間であるため、真っ暗闇の上に、換気すらできていない。


 だから、ユタンちゃんがいる位置を確認しつつ、土魔法で外殻の対角線上に小さな穴を二つだけ穿っておいた。


 通常であれば、採光や換気には全く足りないのだが、ユタンちゃんが今か今かと待っていることだし、当面は光魔法と風魔法で補助するつもりだから、今はこれでよし。


 風魔法での空気の換気と循環に関しては、説明するまでもない単純なものだが、光魔法に関しては、ちょっと手の込んだものとなっている。


 外の光を屈折させて、ユタンちゃんが歩く外郭の内壁面に、外の景色を映像として投影させているのだ。


 だから、室内の空間も外とまったく同じ明るさだし、中に居たまま、外の景色を楽しむことができるようにしておいた。


 雨とかも凌げるから、むしろ、快適空間かもしれない。


「くうき けしき きれい」


 緊急ハッチから顔を出し、ユタンちゃんもご満悦の様子だ。うん、なによりなにより。

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