102話 略して、半狂乱……じゃなかった
やっとのことで、当初の目的である生鮮食料品選びの第一段階──肉屋にやってこれた。
やはりというか、なんというか、威勢のいいおっちゃんに圧倒されまくりだ。
乳牛肉、水牛肉、猪肉、鶏肉などなど、中には聞き慣れない肉の名前もあったけど、見た目はスーパーで見かけるような牛肉、豚肉、鶏肉と変わらない。
「特にお勧めなのがこの豚肉ってやつだ。こいつは猪を家畜化したもので、最近、出回り出したばかりなんだぞ」と、濁声で強く圧されてしまった。
結局、全種類トロ箱一個分ずつ買ってしまったぁ……。
その分、負けてくれたって言ってたし……勝った……いや、買ったけど、また、負けた。
くっ、こんな駄洒落しか思いつかない時点で、俺がどれほど追い込まれているのかを察してくれ。
なんなんだよ?! この手のおっさん達……本当に苦手。
そう、俺もおっさんだ……うん、ごめんよ、若い子たち。いつも、うざくて。
さあ、次だ。次。次、行くぞ!
なんでこんなにも、俺が追い詰められているかと言えば、さっきから店で会って話をしているのが、揃いも揃って親爺連中ばかりだからだ……俺自身も含めてだから、尚更、余計に。
そんな絵面を自分で想像してしまってからというもの、いまいち調子が出ない。
それにも増して、どうして俺がこんなにもイライラしているのかと言えば、あることに気づいてしまったからだ。
……ほらっ、やっぱり! ──なぜか俺が店に近づく先々で、到着する前には店の奥に引っ込んでしまうのだ……なにが? って、おそらく看板娘らしきうら若い乙女が……それどころか、あらゆる女性陣が。
それもどうやら女の子自らが店の前から立ち去っているというわけではなくて、店の親爺連中に腕を引っ張られて、「奥に隠れていろ」と指示されてるっぽい。
う~む、なんか悪い噂でも立っているのだろうか!?
つい最近、悪い奴をいっぱい捕まえたけど、もしかすると、この世界では悪い奴から悪い病気が移るとでも考えられているのだろうか?!
そうであるなら、まずった……朝方しょっぴいた盗賊共は、確かに熱で殺菌消毒をしていなかったから。火魔法で隅々まで灰にした上で、「お嬢さん大丈夫ですよ。ほらっ」とでも言ってやれば、良かったのだろうか? ……んなわけあるかっ!
するってえと、なにかい? おまえさんは他に原因があるって言うのかい? 八兵衛さん。
あんたじゃない。あんたの後ろだよ?
えーっ、なに?! なんだってぇ? だから、なんのことだい?
勘の悪い奴だねえ。その連れ歩いてるきれいどころお二人だよ。
きれいどころって?!
とぼけるんじゃないよ。
妖精や小妖精を連れ去っちまって、そんなことされたら、どの店も商売上がったりだよ……って、そうか!
看板娘を引っこ抜かれることを危惧してんのか!?
悪ふざけで、エセ落語遊びしてたら、正解が閃いちまった……俺の頭の中、どうなってんだ!? 我ながら、おかしすぎる。
まあ、そうだよなぁ。ユタンちゃんのような存在を失うなんて、その気持ちは痛いほど分かるもんなぁ……って、騙されんぞ! 大概は人族の女の子だろうが!!
俺の水と土と風の複合魔法【反鏡乱】を舐めんなよ! ──水魔法のレンズを主体に、土魔法の反射鏡を使って、風魔法で気流補正した反射望遠鏡、それに加えて、レフ板のような乱反射鏡使って、光量までも調節してっからな。
略して、半狂乱……じゃなかった……反鏡乱だっつうの!
ちゃんと見えてるからな──背中側だからって、油断しやがって。いくつもの反射鏡使ってっから、俺が通り過ぎたそばから、店先に戻ってきてる女の子たちがはっきり、くっきりと。
覗きなんかじゃねえぞ! そもそも、レフ板で光を当ててる時点で丸分かりだし、「誰かが見てるぞ」ってことをここぞとばかりに強調してやってんだからぁ!!
おっ!? あそこの店、女の子がまだ売り子してる?! おぉ、まだ隠れてない!? ラッキーっ!
丁度いいことに魚屋だ。ゲット……そして、女の売り子さんも、ゲッチュウ!
この瞬間、加速装置と名付けた【イリスの翼靴】にありったけの魔素を込め、風の精霊魔法で更なる軽量化を図った後、風を切って、一瞬で魚屋の前に姿を現した俺。
ふふふ、またつまらぬものを切ってしまった。今宵の斬○剣は一味違うぞ。
「どういうことよ!? 『つまらぬもの』って!」
いや、ちが……その……そういうつもりじゃ……すみませんです、はい、スプライトさん。つい、興奮しすぎてしまって、心にも無いことを……ええ、違います。風は一番大切なものです。はい。本当です。
「ああーーーっ、駄目だめダメぇぇぇ! 店仕舞いだ。店じまい。けぇってくれ。帰ってくれ!!」




