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101話 うん、既に負けた気がするもん

 それじゃ、夕飯の買い出し客で込み合う前に、俺たちもさっさと買いだめしに行きますか!


 まずは保冷庫があのサイズだし、トロ箱みたいな浅めな容器を少し多めに買っておこう。


 魔法を使って、木を切ったり、削ったりして、自分で容器を拵えるのも、それほど手間ではないけれど、さすがに食材を入れるものだけに、衛生面の方がちょっと気になるところだからね。


 口に入る物に直接触れる容器と考えると、素人の俺には、食材を保管する用途に適した木の種類とかも分からん。ここは専門家に任せる方が無難だろう。


 大量に運ぶとなると、台車とかも必要だろうけど……。


 う~ん、もうこの町からは出て行くと決めたわけだし、風妖精も連れてるわけだから、風魔法で浮かせて運んでも、大して怪しまれないかな? つうか、もうそろそろ、自重するのも馬鹿らしくなってきたんだよね。


 そうこうしている内に、教えてもらった木工細工の店にやってきた。


 店先で話を伺うと、昔から生の食材の保存には、この辺では豊富な杉やひのきの木箱が使われているということだった。


 つうか「他にいったい何があるんだ?」と、逆に訊かれてしまったくらいだ。


「プラスチック樹脂とか、金属とか?」と、ぼそっと俺が口にしたのを聞かれて、「うちは木工屋だ! 馬鹿野郎」と叱られた……ごもっとも。


 木工屋曰く、木の香りには食材の鮮度を保つ効果があるということくらい、この辺の連中なら誰でも知っていることらしい。


 特にこの檜と杉の香りの良さときたらと……恍惚こうこつな表情を浮かべて話し出しそうだったので、もうひとりの若い子に声をかけて、二十個のトロ箱を購入した。


 そこそこ大荷物になるので、道に迷ってうろうろするのもなんだ。一応、この若い子にも改めて【食卓横町】の場所を尋ねて、確認しておく。


 雑貨屋のある中通りの南西側に、食卓横町の入口があるそうだ。うん、食堂で聞いたとおりだ。


 トロ箱自体は軽いのだが、積み上げた箱を抱えて歩くとなると、前が見えないので、風魔法で箱は宙に浮かせて運び、食卓横町へと向かう。


 おっ! なんか威勢のいい声が聞こえてきた……あの辺りがそれっぽいな。仄かに漂ってくる生鮮食品店独特の生臭い匂いもそれらしい。


 市場に活気があるのは良いことだとは思うんだけど、俺なんかだと、その雰囲気に気圧けおされっ放しになるのが考えものなんだ。


 店の前に立った瞬間に、尋常じゃない汗かくし、なんか耳も遠くなる感じ……うん、既に負けた気がするもん。


 観光で地方の市場を冷やかしで回るときなんかにも、勧められるもの勧められるものみんな美味しそうに見えちゃうから、困るんだよね。


 大抵が宿や料亭でたらふく旨い料理を食った後だったりするからなぁ……そんなに食えんし、財布に余裕もないし。


 俺なんかと違って、主婦なら売り子の言葉をガン無視して、品をきちんと吟味できるのだろうか?!


 ガキの時分には近所に魚屋さんとかもあった気はするけど、自分で買い物するようになった頃には、家の周りにはスーパーくらいしか魚を売ってるところって、無かったからな。対面販売に慣れてないのよ。


 今日はしっかり落ち着いて、雰囲気に飲まれないようにしないと。


 さて、魚の方は足が速そうだから、まずは肉から調達するとしよう。


 輸送途中も冷蔵を切らさず、先ほど教えてもらったコツを守りさえすれば、肉なら一週間くらいは持つそうだ。三人分の食材を余裕をみて、やや多めに買い込んでおこう。


 次の【エピスコ】の街までは、歩いて十日ほどかかるそうだけど、生鮮食料品だと、どうしても一週間ほどしか鮮度を保てないのだから、そこはしょうがない。


 あとの足りない分は現地調達するか、乾物あたりで補おう。


 とはいえ、現地調達するにしても、途中の小さな町や村では、余所者の俺なんかに、おそらく食料を売ってくれることはあるまい。


 滅多に余所者が訪れないような、流通経路にない鄙びた町村では、そこの中で住人が消費する量は粗方決まっていて、容易に予測できる。


 だからこそ、売れ残りにならない必要最低限度の量しか行商人から仕入れていないはずだ。


 非常時に備えて、ある程度は余裕をみることはあっても、それはそれこそ、その町や村の非常時の物で、余所者に分けてやる道理などないと考えるのが普通だからな。


 物資が充実しているところであれば、事情は多少違うのだろうけど。


 もし、そうした町があるのなら、あの宿屋の主人のことだから、ちゃんと教えてくれていたはずだ。


 それが無かったということは……そういうことなんだろうな。


 だとすると、現地調達は野生動物を狩るか、魚を釣るしかないわけだ。


 結局のところ、事前に用意できるのは乾物くらいということになる。


 幸い、食料品専門の商店街に来ていることだし、先に乾物屋に寄っても……って、あれっ? そういえば、野菜も必要だったな。


 頭の中だけで考えていると、どうにも抜けが多い。もらった紙が貴重だからって、ちょっと節約しすぎたかな。くぅ、なんで俺はこうも短期記憶が苦手なんだよ。


 長期間覚えておく必要があることはともかく、メモみたいにすぐに捨ててしまう情報って、なぜか覚えておけない。


 でも、さすがに貴重な紙をメモなんかで使いたくない……消しゴムも無いし。


 そんじゃ、予定を変更して、日持ちのする物から揃えていくとするか。


 そう思って、まずは乾物屋の前に来たんだけど……こうやって乾燥した状態のものを見ても、俺には何がなんだか分かんない。文字が読めないから特にな。


 聞くしかないわけだけど、乾物といって連想するのは、干し椎茸とか、干し貝柱、わかめ、ひじき、昆布、切り干し大根くらいしか思いつかんな。


 フリーズドライはさすがに無いかな? 待てよ……それなら魔法でもできそうか!


 生の野菜とか買って、自分で作った方が速くて、栄養も壊れなさそうだ。いろいろ自由にできるしな。


 いや、待てよ!? 確か、干し物って、時間をかけて天日に当てる際に、増えるビタミンとかもあったか。


 ああぁ、駄目だ! これも事前に用意しておくべきものだったよ。


 なにやってんだよ? ほんとに俺ったら。


 まあ、今回は店の品で済ませるしか、しようがあるまい。


 適当な乾物と、八百屋で新鮮な野菜を、それなりの量仕入れた。


 傍らにトロ箱いっぱい浮かして歩いてきたので、もう気にせず、買った野菜類も一緒に宙に浮かせて、次の店に向かうことにした。


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