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100話 あたっ、も一つ拳骨もらった

 食堂は……うん、まだ閑散かんさんとしているな。


 でも、食堂を立ち回って、切り盛りしているいつものおばちゃんは見かけず、しょっちゅう、おばちゃんにどなり散らされているおっちゃんしかいなかった。


 仕方ないので、暇そうに突っ立っていたおっちゃんに話しかけることにした。


「あのぉ、すみません。ちょっとお伺いしますが、多めに食材を買い込みたいんですけど、食堂がお取り引きしてるところとかで、どこかいいお店を教えていただけないでしょうか?」


「あん!? あぁ、なんだい、あんたか。そんなところから入ってくるから誰かと思ったぞ。なんだよ?! 商売でも始める気か?」


「いえ、そろそろ旅に出る予定なんで、生の食材を仕入れたいんです。凍らせたり、冷やしたまま運ぶつもりなんで」


「そっかぁ、もう居なくなっちまうのか。あんたとその嬢ちゃん達が来ると、他の客でごった返すから、面倒だとは思ってたけど……俺の給金が増えるのもここまでか。いやいや、それにしたって、なんでまたそんなしち面倒くさいことを……乾物かんぶつじゃあ、駄目なんか? そりゃあ、そんなには満足できないだろうけど、旅ってそういうもんなんだろう?! ……まあ、いいや、店ならよう──」


 おっちゃんに変わり者呼ばわりされたけど、この食堂の仕入先というか、この町にある食材専門の商店街を教えてもらえた。その名も【食卓横町】だ。


 つうか、この町では、飲食店も一般家庭も、大概はそこで食材を買ってきて、料理をしているのだそうだ。


「今時分なら夕食用の食材を品出しし始めた頃だろうから行ってみな」と勧められる。


 俺たちが「それでは」と出掛けようとしたところで、今度は厨房ちゅうぼうの中で、ずっと無愛想な顔で下拵したごしらえをしていた親爺おやじに、ぼそっと話し掛けられた。


 なにか用かな? と思って、立ち止まって、耳を澄まして聞いていると、どうやら生ものを保存するコツを教えてくれるつもりらしい。


 なんでわざわざ、俺たちなんかに商売上の秘密を話してくれるんだろうか?!


 いや、それにしても、声ちっさ。


 とはいえ、料理人が明かしてくれるという秘訣を聞かないわけにはいかない。


 生鮮食料を扱うお店に一回顔を出したくらいでは、どうせ、そういった食材に関する秘訣は、なかなか素人には教えてくれないだろうから。


 その料理人の親爺によると、食材は手に入れた瞬間から常に冷やし続けて運ぶことが大事だとか。絶対に無駄に触ったり、取り出したりするなと……。


 この人、どうにも口で説明するのは苦手らしく、最低でもこれくらいの温度を保つんだと、冷やした肉を直接触らせられて、覚えさせられた。


「いいんですか!? 今の肉に、俺、触っちゃったけど」──あたっ、拳骨げんこつ食らった。


 それに、氷で冷やす際には、氷が空気に触れれば触れるほど、早く溶け出してしまうらしく、できるだけ空気が入り込む余地がないほど詰めるようにしろ……というニュアンスのことも言っていたと思う。


 なんせ口数の少ない職人気質しょくにんかたぎの親爺なもので──あたっ、また拳骨もらった。なにも喋ってないのに……??


 他にも、氷を無駄にすることにはなるらしいけど、空気の量や氷との間隔であったり、その配置で微妙な温度調節もできるらしい……たぶん。


 更に、薄い肉は特に冷凍しすぎると、冷凍焼けを起こして見た目も黒くなって、味も不味くなるから、と。凍るか凍らないかの頃合いが、一番美味しい状態を長く保てるようだ。


 最後の方は、なんとなく言ってることが理解できるようになっていた。つうか、俺の言語翻訳機能のサポートがなければ、おそらく、こんな寡黙かもくな親爺の考えなんて読み取れんぞ。


 おっと、「買いに行くときは氷と木箱は最低用意してからにしろよ」と、最初の頃に言われてたの、すっかり忘れるところだった──あたっ、も一つ拳骨もらった。


 最後に、食品保管用の木箱を売ってる店も教えてもらった。


「氷の方は魔法でなんとでもできるので大丈夫っす」と伝えると、うらやましそうな表情を浮かべながら、握りしめた拳を──


 解いて、頭に載せて、なでなで……。


 もちろん俺の頭ではなく、ユタンちゃんのな。


 親爺さん、ずっとユタンちゃんのことをちらちらと窺いながら、教えてくれていたから、まあ、そうじゃないかと、薄々な。


 帰ろうとした途端に、また一つまた一つと教えてくれてもいたから、はっきりとな。


 にしても、良い人には違いない。凄く良いこと聞けたしね。


 これも、ユタンちゃんの御陰だけど。


 その場に居るだけで、役に立ってくれています。


 ははは、うちの子って、すごいんです。


 食堂のお二人に礼を告げて、少し客の気配が漂い始めた食堂を出た。



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