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騎士様ったら大胆ね!

 ネリーの頭はドロテが使っていて、そのドロテの頭はとんがり帽子の中だろうという推測が立ったものの。

 本当にそうだとは限らないし、もしそうだったとしても、どうやってそのとんがっていないとんがり帽子を見つけるのかという話になってしまう。


「さすがにそんな大切なものを、侍女に任せて衣装部屋に保管はしないと思いますから……あるとしたら、彼女の私室でしょう」

【お姉さんは今、皇城にいるのよね。皇城なんてどうやって入るのかしら?】

「正面から行っても、皇太子の寵姫の私室なんか入れんぞ。忍び込むか? 忍び込むにしても警備がなぁ……」


 ネリーが雲の疑問符をぽふぽふと浮かべ、ジーニアスも難しそうな顔で腕を組む。

 そんな二人の横で挙手をするのはエルネスト。


「私が手引きします」


 皇城を追放された甲冑の騎士がそう主張した。

 いったいどうするつもりだと胡乱げな顔をしたジーニアスに、エルネストが口を開く。その方法を告げると、まさに目から鱗と言わんばかりに目を見開いて、呵々大笑される。

 それを聞いていたネリーも雲の文字を楽しげに揺らめかせて、エルネストの案に乗ることに。


【エルネストさんったら、けっこう思いっきりがいいのね!】


 ネリーの雲の文字が、踊るようにけぶった。








 皇都に着くと、エルネストとは一旦別行動になった。

 これからの作戦の下準備のため、行くところがあるみたい。

 ネリーとジーニアスは宿を取ると、数日の間、エルネストから連絡が来るのを待つことになった。

 ぽっかりとできてしまった時間。ネリーはなにかしていないと落ち着かなかったから、魔女の婚礼の準備を細々と進めることに。


 その結果。


「おい、ネリー……これはなんの冗談だ?」

【うふふ、精霊たちの饗応のための食材とお料理たちよ! どう? 素敵でしょう?】


 ネリーが借りた宿のお部屋は、温室かと見違えるほどに緑と色彩の豊かな植物に彩られていた。

 これではまるで密林の中に部屋があるよう。外からは見えなくても、扉を開けたら森が広がっている状況で。

 ジーニアスが顔を覆って嘆いた。


「お前……部屋で大人しくしてると思ったら、こんな……くっそ、宿の女将にバレたらどうするんだ!?」

【女将さんにはちゃぁんとお許しをもらったのよ? えらいでしょう?】


 ますますジーニアスが顔を覆ってしまう。

 ネリーは楽しそうに首から雲の文字をけぶらせると、また一つ、お皿の上に魔法で育てた薬草を綺麗に飾る。


 そこにあるだけで華やかな、色とりどりのアネモネのリースに、ネモフィラのボトルフラワー、マリーゴールドのブーケ。

 さらにはローズ、ラベンダー、レモンバーム。ハーブを集めて乾燥させて、香りを引き出したサシェもたくさん作る。

 それだけじゃなくて、きらきらとした宝石たちも、豊かな色の植物の合間に品良く添えられていて。


【精霊の饗応はね、意味が大切なのよ】

「意味?」


 ネリーの首から文字がけぶる。成長した緑の草花を優しく揺らしながら、ネリーの文字が楽しげに踊る。


【花言葉、石言葉ってあるでしょう? ヒトのつけた言葉や意味だけれど、精霊たちはそういったものに敏感なの。だから饗応で用意するものは、素敵な言葉を持つものだけなのよ】


 それはハレの日に相応しいと、市場でネリーの刺繍を買ってくれた女性のように。たくさんの幸せを込めて育て、願われ、造られたものを、精霊たちも喜ぶ。

 だからネリーは精霊たちの喜ぶ素敵なもので、いっぱいおもてなしをしようと思っていて。


「あー……それはわかった。わかった、が。しまう場所あるのか? こんなに散らかして……」


 ジーニアスの渋面はなかなか戻らない。お小言を言う彼に、ネリーは指を一本立て、ちっちっと振ってみせた。


【ジーニアスったら、忘れん坊さんね!】

「あぁ?」

【魔女のとんがり帽子には、たっくさん物が入るのよ? これくらい、余裕だわ!】


 ネリーのとんがり帽子は魔法の帽子。

 その見た目以上に物が入るから、これくらいのものを入れるくらい、どうってことなくて。

 うきうきと植物を育てては素敵に飾るネリーに、ジーニアスはやれやれと肩をすくめた。








 ネリーと別れたエルネストは、まっすぐにある場所を目指した。皇都でも貴族の邸宅が立ち並ぶ一角。そこに、エルネストの家がある。

 実家へと帰るのはいつぶりだろうか。

 魔女を探すために旅に出て、この呪いが解けるまでは帰らないと決めていたのに。


 傷や錆が増えた鎧をガシャガシャと鳴らし、エルネストはフォーレ家の門をくぐる。

 門番に止められたけれど、名乗ればぎょっとしたように家人への取り次ぎをしてもらえた。

 自分の家へと帰っただけなのに、この対応。

 未だ、呪いに対する恐怖が、この家に根づいている証拠かもしれない。


「お兄様!」


 帰宅したエルネストを出迎えてくれたのは、妹のベヨネッタだった。

 でも、エントランスの隅に立ち尽くしたまま、エルネストに近づいてこようとしない。

 これが、魔女に呪われたエルネストと妹との距離感だった。


「お兄様……お帰りになられたと聞いたのですが……その鎧姿……」

「すまない。まだ、呪いは解けていないんだ」

「……!」


 ベヨネッタの表情が歪む。

 エルネストは兜の向こうで苦笑した。


「父上はいらっしゃるか? 魔女のことで、話があるんだ」

「お父様は登城していらっしゃいます」


 父は忙しい人間だから、不思議なことではない。そうか、とつぶやくと、エルネストはしばらく屋敷に滞在することを告げる。


「父上につなぎを取ってほしい。ドロテ断罪のために」


 おそらく、エルネストの考えを父に話せば、叱られるどころか、騎士として、貴族としての矜持を疑われ、呪いがなくとも切り捨てられる可能性もある。

 それでも、どんな手を使ってでも、エルネストはネリーの首を取り戻すつもりだ。


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