赤い便箋
赤い便箋が届いても、道に落ちていても拾ってはいけません。
封筒の中身は絶対に読んではいけません。
仕事で台湾に出張していた時がある
仕事自体は普通の貿易会社の買付けなのだが、仕事関係でRさんと言う40代半ばの男性と知り合う機会があった。
父親のいない私は何故だか、この年代の人と気が合うのだがRさんとも例外なく気が合った。
よく仕事の後に飲みに行く事もあったのだが、男性2人が行くとなるとやはりと言うか…綺麗な女性のいるお店が多かった気がする。
独身で恋人もいない私を気遣っての事だとRさんの名誉の為に言っておこうか?
週に一度は訪れる店にSと言う20代前半の私好みの女性が居た。
ただ席に座って、お酒を注いでくれるだけの関係だったが私は彼女を必ず指名していた。
艶やかな黒髪をいつも綺麗に編み込んでいて、その髪にらしくも無くわざわざ休日に彼女が好きそうなブランド店を何軒か回って髪飾りを購入してプレゼントをしたりもしたのだ。
Sは長いまつ毛に縁取られた大きな瞳を潤ませて感激してくれたのは良い思い出である。
そして、私の長い出張期間が終わり帰国した。
日本に戻ってからは相変わらず、仕事に追われバタバタしていたのだが…半年くらい経った頃の事だ。
Rさんから珍しく、個人のアドレスに連絡が来たのは。
当たり障りの無い挨拶から近況報告など話をした後に彼は非常に言いにくそうに私に告げた。
「wさんが気に入っていた女の子いたでしょ?Sって子」
「ああ、いましたねー!コッチに戻ってからは飲みに行く時間も無くて懐かしいですよ〜」
「あの子ね…死んだよ」
「え?」
「wさんが日本に帰ってからこの前ね、久しぶりにあのお店に行ったらいなくてねー。それでママに聞いたら自殺したんだって」
「ええっ!死んだって…しかも、自殺ですか?それは…また…」
いきなりの話に私の頭は混乱していた。
思い浮かぶのは優しく笑う彼女の笑顔だ。
「なんかちょっと変な死に方だったみたいだけど、僕も詳しくは教えて貰えなかったんだよね。ただ家族が自殺だったってママに言ったそうだよ。wさん仲が良かったから、あのままコッチにいたら赤い便箋を貰ってたかもね!日本に帰ってて良かったよ!」
「赤い便箋?」
聞き慣れない言葉に繰り返し問うとRさんが答えてくれる。
「台湾の迷信なんだけどね、未婚のまま死んだ若い人が赤い便箋を好きだった相手に送って受け取って貰ったら結婚相手に迎えに来るとかってね」
良くある話よ…とRさんは小さく笑ってから付け足した。
「まー無いけど、赤い便箋が届いても受け取らなきゃ良いだけだからねー」
「そうですよね…」
何となく気まずい雰囲気になって話は終わった。
その日から、私の通勤路に赤い便箋が道端に落ちている。
鮮やかな赤い血のような便箋は何故だか、Sの優しい笑顔を連想させた。
拾ってはいけない拾ってはいけない拾ってはいけない…なのに必ず目の端に鮮やかな赤が見えると胸がときめく…。
私は近い内に便箋を拾うだろう。
そして、死者の花嫁が迎えに来るだろう。
いつか…いつかは分からないその時の為に今は準備をしている。
少しニュアンスは変えてしまいましたが、台湾の冥婚のお話です。
日本版も機械があれば書いてみようと思います。