成形外科医とキャバ嬢
某動画サイトで朗読用にと頼まれたヤツです。
現在は朗読は削除されておりますので、こちらで読んで貰えたら嬉しいです。
医者が患者に恋をする…たまにある話だ。
私も、「彼女」に一目惚れをした。
白い胡蝶蘭みたいな華やかなで、清楚な美貌の持主は「蓮水恋香」と言う。
誰もが一度は振り返らずにいられない絶世の美女が無機質な診察室の椅子に座っていた…本来ならば喜ばしい事だったのだろう。
紹介状に目を通しながら、私は自分の恋の早すぎる終わりに絶望する。
ピンク色の小さな名刺には「恋香」と本名が書かれている。
彼女の職業は所謂、「キャバ嬢」だ。
そして、私は「形成外科医」だ。
女なら誰もが羨む美貌の主は男になりたいと私の元に診察に来たのである…。
「蓮水さんは…もう、他の先生にも様々な術後のリスクは聞いていますよね?」
女性の身体を男性にする…胸を切り取り、子宮を摘出して男性ホルモンを定期的に身体に摂取しなければならない。
見るからに線の細い彼女には耐えられるのだろうか?
「…先生、分かってます。だけど、もうこんな醜い身体は1秒でも早く脱ぎ捨ててしまいたいんです。俺は頑張って金も貯めたし、自分らしく生きたい」
苦痛に満ちた声は「彼」の魂と相反してどこまでもか細く男達の庇護欲を煽るものだった。
美しい女神の身体と男の魂…皮肉な程に残酷な神の創った人間が私の前に座っている…。
「分かりました。では、手術の順番と説明を行います。後は…日程もなるべく早い日にちで決めましょう」
安心させる様にゆっくり静かに「彼」であり「彼女」に伝えるとホッと吐息を漏らし「よろしくお願いします」と男らしい仕草で頭を下げた。
「蓮水恋香」が勤めるキャバクラにその日の夜に足を運んだ。
上品だが何処か安っぽい看板の横には店のナンバー1の大きな写真…は彼女では無かったが、ひと回り小さな4枚の写真の中には恋香の姿が写されている。
黒服に迷わずに恋香を指名すると告げると店内へと案内された。
席に座って、取り敢えずといつも飲む銘柄のボトルを入れた。
「先生…?」
鈴を転がした様な声の方を向けば、美しく着飾った恋香が立っている…だが、何処かチグハグな違和感を覚える。
「ボトル入れてくれたんですか?私のがあるから、無理にお金使わなくて良いですよ」
恋香は眉を困った様に八の字にしながら言うと、私の返事を待たずに黒服に何やら指示してしまう。
すると、客達が恋香の為にと捧げたボトル達が華奢な金色のワゴンに乗って運ばれて来た。
若輩者の雇われ医師が飲めない様なボトルもあるが、恋香は構わず豪快とも雑とも言える仕草でその中で1番高いボトルで水割りを作ろうとする。
慌てて、ロックでと頼むと黒服がロックグラスを用意してくれた。
そして、何の為か分からない乾杯をすると高価すぎる酒を飲む…何やら竜宮城に行った浦島太郎の気持ちが分かった様な気分になる。
恋香は薄く笑顔を貼り付けている…きっと、「彼」にとって仕事とは言え「女性」を売りにする「キャバ嬢」と言う仕事は苦痛でしか無いのだろう。
「何故、夜の世界に?って聞いてもいいかな?」
恋香にしか聞こえない声量で尋ねてみると、「彼」はニヤリと笑いながら答えてくれた。
「勿論、手術費用を貯める為に手っ取り早かったんですよ…ピンサロや風俗でも良かったんすけどね…面接に行ったらココで働けって回されたんすよね」
そうぶっきら棒に言うと自分のグラスの水割りを飲み干した。
「まあ、表向きはキャバ嬢っすけど…やる事は変わらないっすよ…」
苦い顔をして、恋香は吐き出す様に呟いた…その姿さえ美しい絵画の様だ。
「出来るだけ早く…男に戻らないと、本当に俺…ヤバイんで、先生お願いしますね…」
真剣な顔で「彼」は私に向き直り、礼儀正しく頭を下げる様は私よりもずっと男らしかった。
そうして、「蓮水恋香」の入院日…本人は来なかった。
それどころか、代理の者だと言う弁護士が手術のキャンセルの手続きを行っていたのだ。
私が恋をした「彼女」であり「彼」でもある「蓮水恋香」はカルテに書かれていた電話番号やメールアドレス…住んでいたマンションも全て解約され煙みたいに消えてしまった。
私はあてもなく「蓮水恋香」を探した…金は幾ら掛かっても良いから、もう一度会いたかったのだ。
そうして、怪しげな情報屋から1枚の漆黒のカードを渡された…カードは特殊な光を当てるとある高級マンションのカードキーになるらしい。
私はなりふり構わずにそのマンションへと向かい、エレベーターに乗り込むとカードキーを使用する。
長い…永遠とも思える時間を四角い箱の中で過ごすと、目的の階に到着した事を無機質な電子音が知らせてくれた。
左右の扉が音もなく開いた先を…先を見て…私は涙を流す。
一歩、…二歩…とエレベーターから出て歩き出す先は…。
「彼」であり「彼女」でもあった私の愛した「蓮水恋香」が居た。
だが、もう…「彼」でも「彼女」でも無いただの「蓮水恋香」だ。
全裸の「蓮水恋香」の「剥製」がマンションの広いホールの真ん中に花と共に飾られていたのだった!
「うわぁぁぁあ!」
絶叫しながら私は号泣した…泣き過ぎて充血した目から血が流れる程に泣き崩れた…残酷過ぎる恋の始まりと終わりは…再びの残酷過ぎる愛の終わりを迎える事になる。
また、機会があれば形成外科医のその後も書きたいと思います。
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