パプリカ
とにかくあの声を
聞きたい夜がある。
綺麗な声、優しい声。
淑やかな声。円な声。
ずっと声を探している。
そうに違いない。
その声を聞ける間は、
どこにでも旅ができる。
消せない欲望を携えて、
世界中の景勝を巡り、
そこから神秘に浮かぶ、
星々の合間を漂う。
いつしか声の手を取り、
許されないこの身から、
抜け出せるのではと
柔らかなパプリカの。
赤じゃなく黄色い残像の
感情が垂れてくる。
できることなら、
眠る前に声が聞きたい。
それがないから、
夜から朝は石になる。
空腹であることを選ぶ。
空虚であることを恐れる。
このままその胸元まで、
飛んでゆけないものか。
小さなウサギのように、
ふわふわ飛んで跳ねて。
胸元であるなら、
あの声にならない声も、
聞こえるはずだから。
香しい声、愛しい吐息。
心の中、頭の中、
思い出の途中、夢の途中、
空洞の黄色いパプリカは、
あの声で生かされたい。
生かされたなら、
動けるところまで動きたい。
たとえ、働けなくても、
何かしら、傍を楽にしたい。
あの声って声の質の
ことじゃない。
言葉と気持ちのこと。
甘えたい空っぽの詩。