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06 A級?

「ナガレ! 起きろ! A級になれるぞ!」

 蝶番が壊れるんじゃないというくらい揺れたドアを開けると、テンションがあがりきったレスラーさんがいた。


 まだぼうっとしていたら、レスラーさんの肩にかつがれて、のっしのっしと宿屋の外に連れていかれる。


「どうも、おはようございます!」

 とレスラーさんがでかい声で言う。頭に響く。


「おはようございます」

 相手の人は、どこかの国の兵士っぽい格好をした人がいた。

 緑のジャケットみたいな、でもジャケットじゃないみたいなのを着た、ぴしっとした格好の男だ。いや全然ジャケットじゃないな。寝ぼけてる。

 軍服? ともちがうけど、それに近い。

 体ががっしりしていて、なにか格闘技でもやってそうだ。

 腰に剣をさげている。

 同年くらいだろうか。鋭い眼光だ。


「A級冒険者、レスラーです!」

 そう言って、レスラーさんは俺をとなりにおろした。


「こっちは、新人のナガレです!」

「はじめまして」

 俺は頭を下げた。


「彼が、モグリウオを仕留めたというのか」

「はい! レスラー、それが嘘でないことを誓います!」

 レスラーさんは元気よく右手をあげた。

 モグリウオっていうのか、あの魔物。


「猛進のレスラーが、嘘を言うとは思っておらん」

「ありがとうございます!」

「ナガレといったか。これを与えよう」


 男は、ポケットから小袋を取り出した。

 真っ黒い袋から出てきたのは、ネックレス?

 銀色の細かい鎖と、ひとつ、赤い宝石のようなものが鎖とつながっていた。

 宝石のようなものは、親指の爪くらいの大きさだ。ダイアモンドとかだったらとてつもなく高額だろうけど、知らない人にくれるくらいだったら大したことないのかもしれない。


 大事そうなので、俺は両手で受け取った。


「では、はげめよ」

 男が言うと、レスラーさんは深く頭を下げた。


「これ、なんだったんですか?」

 俺が宝石をレスラーさんに見せると、立ち去りかけた男が振り返った。


「なに?」

「バカ、これは」

「それは、持ち主がA級冒険者であることを、王都が保証する証である」

 男は、厳しい顔つきをしている。


 しまった。

 わからないものを見てすぐ口にしてしまうなんて、社会人として考えられない。あとで、身内で話をすべき。

 ……いや、起きて早々、そんな難しい選択を迫られる状況にされたほうが考えられないな。

 レスラーさんが悪い。


「貴様、それでも冒険者か?」

 すっかり厳しい目つきになってしまった。


「すみません。こいつはまだ、事情がよくわかってないんです」

 レスラーさんがすぐ言う。


「すみません!」

 俺は頭を下げた。


「よくわかっていないとはどういうことだ」

 上から声がした。

「すみません!」

「顔を上げろ。説明せよ」


 まずい。

 頭を下げているだけで許してくれるタイプの人でなさそうだ。

 きちんと説明を求められている。


「それは」

「レスラーは黙っていろ」

 終わった。

 俺に説明できることなんて、この世界にはない。

 かといって前の世界のことは思い出したくない。


「ナガレといったな。冒険者について説明しろ」

「……」


 とにかく、ええと、とか、変に口ごもらず、素直に言うしかない。


「冒険者は、冒険者ギルドに所属します。そこで、クエストを紹介してもらい、成功報酬を得て生活をします。俺は、私は、昨日初めて冒険者ギルドに行き、そこでシステムについて聞きました。いま、失礼な対応をしてしまったようですが、その失礼さもよくわかっていません」

 俺は一礼した。


 男は俺を見る。


「そうか。レスラーとパーティーを組む申請が出ていて、結果を出したということが信頼に値すると思ったが」

「はい!」

「実に、初歩的なことしか知らないようだ。こちらが受けている報告以上に冒険者についてよくわかっていないようだな。そういった事情を考えると、A級に推薦するというのは無理がありそうだな。証を返してもらおう」

 男が手を出す。


「ちょっと、それは待ってくれませんかね!」

 レスラーさんが、俺と男の間に入った。


「どけ」

「A級といったら、そうそう、簡単になれるもんじゃあない! このチャンスを逃したら、いつA級になれるか! それが、収入に直結することはエクサミさんはわかってるでしょう!」

「だからこそだ。どこの誰だかわからないような人間を、貴重なA級にはできん」

「逆に、そういう証明証っていうのは、どこの誰だかわからない人を、わかる人にしてくれるものなのでは?」

 俺はつい、言っていた。


 じろり、と男は俺を見る。

 悪い意味でダメ押しをしてしまったかもしれない。


「君は、自分がA級にふさわしいと?」

「そうだ!」

 レスラーさんが勝手に言った。


「なるほど。ならば、その機会を与えよう」

 男は言った。

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