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56 お誘い

「なにをしている」


 起き上がると、王様が高いところから俺を見下ろしていた。


「なにと言われても……」

「アイ国についたか」

「え? 俺が? いやいや」

 俺は大きく手を振った。


「しかしいま、棺を壊したな」

 王様は言う。


「アイ国を始末するための壁を壊したな」

「それは、俺の意思じゃなくて」

「お前の力を操る能力には、与えられた力を無効化する力があるな。では、王子がお前を押して壊させる、といったことはできぬはず。であれば、いまお前が壁を壊したのはお前の意思ではなくなんだというのだ」


 すごく問い詰めてくるじゃないですか。


「なんだと言われても。勢いじゃないんですか」

「勢い?」

「たぶん、王子の口から出てくると、その余力みたいなやつでちょっと飛んだだけで」

「あくまで敵対していないと言うか」

「そうですよ、敵対する理由もない。だいたい、俺は王様のためにいろいろやってあげたのに、なんでそんなこと言われなきゃならないんですかね!」


 だんだんムカムカしてきた。

 なんだよこの人。


「あの、王様は、平和のためにって言ってましたよね?」

「いかにも」

「だから俺は手伝ったんですよ。だから、ここはいい国だと思ったのに。それがなんです? 殺すつもり? はあ?」


「それはすまぬな。だが、思い知らされたのだ。平和というのはどういうものなのか」

 王様は王子たちに向き直った。


「……さて。なぜ逃げぬ」


 王様の言う通り、王子たちはまだその場に残っていた。


 壁がなくなってすこし距離を取っているものの、まだ戦う気力を持っているように見える。


「諦めたか」

「どうせ壁のまわりにさらに壁を、さらにまわりにも壁を張り巡らせているのでしょう?」

 王子は言う。


「そのとおりだ。逃げることはかなわぬ。しかし、諦めて死を待つという人間には見えないのだがな」

「魔族の血を引いてますから、人間でないというのは当たっていますよ」

 王子は笑った。


 余裕がありそうに見える。


「時間を止めても無駄だ」

「王の棺があるかぎり」

 王子が王様の言葉の先を続けて言った。


「そのとおりだ」

「しかしまあ、答えは得ましたよ」

 王子は俺を見る。


「彼を駆使して、我々はこの国から出ることができそうだ。口に入れて、出して、とやれば壁は壊せそうですからね」

「俺を道具として使うんですか」

「そのとおりだ。しかし、そうでないともいえる」

「はい?」

「アイ国につかないか」

 王子は言った。


「は? そんなの、つくわけないでしょう」

「なぜだ。もはや、ワガ国、アイ国、どちらも大差ない。国は戦って守るということを宣言しているのだから」

「国土を拡大するつもりはない」

 王様は言った。


「王はそう言っている。しかし覚えているかな? 彼は、戦うことなく平和を守ろうとしていたことを。そう、単純な話だ。気が変わるんだよ」

 王子はくすくす笑った。


「結局残るのは、条件だ。どちらについて、どういう生活ができるか。そうだろう? 平和というのも、戦いというのも、生活のためだ。どういう生活をするかだ。考えてもみたまえ。ナガレ君」

 王子は俺ににじり寄ってくる。


「君、平和を捨てたワガ国に、なにか魅力を感じているかな?」

「それは」

「さっき、自分で言っていたね。平和のために手伝ったと。このままでは人殺しの手伝いをすることになるよ」

「それはアイ国も同じでしょう」

「そうだ。少なくとも、我々はそれを隠す気はない。それに、直接手を汚したくない人間は強制しないと約束しよう」

「……そんなこと言って、俺を道具として使うって」

「ここから逃げ切れたら開放しよう。どちらにしろ、君を永遠に、好き勝手使うことはできないだろうしね。そういう力を持っているだろう? オレの口の中も、慣れたらどうにでもされてしまうかもしれない。……そちらにいる方々もどうだい! 我々につかないか! この、口先すら怪しい、白々しい王のと、どちらがいいかね!」


 王子は、レスラーさんにたちに呼びかけた。


 ひそかに誘うのではなく、王の前で誘うというのは、フェアだな、とは思った。

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