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52 アイ国の王子

   ◇◇◇


 いまの王の。

 アイ国の王子として生まれたのは七人。

 長男は頭脳明晰、肉体も強く、快活。それを支える次男三男もまた強い。

 アイ国はますます力をつけていくだろう。

 そう喜ばれていた。


 オレは七男。

 ただでさえ王位継承からは遠かったが、さらに欠陥が見つかった。

 魔族だった。


 アイ国の王家は、遠い昔に魔族の血が入ったため、わずかに覚醒する可能性がある。

 その場合、目が赤く濁っているという特徴があった。

 濁りをそうでないように見せかける技術はあるので、オレはすぐそう偽装された。

 それから、魔族であっても、すぐ殺されるとか、そういうこともなかった。

 アイ国は力を求める。

 それがアイ国のために使われるのなら、魔族であってもかまわない。

 そういう考え方があった。

 しかし時間は長くはなかった。


 人の上に立つには、魔族であるなら、圧倒的な差を見せなければならない。

 それを、年が離れた長男次男三男に対して行う必要があった。

 さらにいえば、王になれる素質が見せられない場合、人知れず首を切られる。物理的な話だ。


 アイ国に、稀に現れる魔族の血を引いた王族は、特別でなければならない。だからこそ受け入れられる可能性がある。

 凡人の魔族など、不信感を生むだけだ。


 オレは十八歳になる兄に、六歳で勝つ必要があった。

 どれだけの才能があろうと、あらゆる能力に劣っているのは明らかだ。


 特別なことができなければ死んでしまう。

 格闘も、勉強も、兄は手を抜かなかった。


 無条件ではなかったが、結局、オレは力を見せることができなかった。

 悲しんでいる人たちも形ばかりだと感じた。それも仕方のないことなのだろう。

 オレはたちまち機会を失い、誰にも見られない場所で、処刑されることになった。

 処刑を受け入れられなかったのは、オレだけだった。


 その処刑人を、オレは口に入れた。


 最初は食欲のままに食べてしまったのかと思った。オレ自身、魔族と魔物の区別がついていなかったのかもしれない。

 しかし父の前にもどり、処刑人を口から吐き出してやるとオレにはもう一度、機会が与えられた。


 長男があとを継ぐ。

 その右腕として、あるいはその次として、オレの位置が与えられるかもしれないという。


 オレは自分の口の中が自由な空間だと気づいてからは、勉強の成績も上がった。

 あらゆるデータをメモして、あるいは本を口に入れておける。

 それはオレの力だと父は認めてくれた。


 戦うのもそうだ。

 武器が無限に入る。

 妨害する道具も。

 それを自在に取り出せる。

 もし、事前に申請したものでしか戦ったらいけないという戦争があったら、オレは大きな違反をすることになるだろう。

 しかしそんな戦争はない。あったとしてもオレがルールを塗り替えるから安心だ。


 最近、兄のまわりの人間はオレのことを見るとすぐ警戒する。

 兄が話をすることさえ許さなかった。

 おかしな話だ。

 彼らを見るといつも笑ってしまう。

 兄も笑っている。

 本気でやりあおうと思ったら、じゃまをする人間たちなどいないも同然だ。

 それがわかっているから笑ってしまう。




「さて。これですべて片付いた」

 オレはその場にいる人間に呼びかけた。


「抵抗するかな?」

 レスラー、エクサミ、リープ。


 おとなしいものだった。

 あるいは、だからこそ抵抗する可能性があるともいえるか。


「控室に持ってきたのは偽物だったか。油断ならない」

 オレはエクサミに言った。

 オレの手にはエクサミの剣がある。


 オレは口にエクサミの剣を入れ、代わりに控室でもらった偽物の特級剣を出した。


「格好はつくだろう」


 歩いていって、エクサミに渡す。

 やはりおとなしいものだ。

 力がわかっている者ほど、見苦しく動かない。

 微小な可能性に賭けない。

 賭けるべき大きさになるまで動かない。

 本当に可能性がある瞬間までじっとこらえている。

 いまも。


「さて。城にもどって、話をしようか。王のあとを継ぐのは誰かな。心配しなくていい。オレたちが送ろう。さて」

 クロノの名前を呼ぼうとしたときだ。


「王子」

 ペインゴッドが言った。


「なんだ」

「あれは」

 ペインゴッドが指した先。


 王都の外壁の、先にある湖。

 湖面が上がってきていた。


 一部が上がり、そこから水が流れて落ちている。

 まるで透明な巨人が立ち上がったように見えた。

 滝のような音が聞こえてくる。


 水で、うっすら見える透明な巨人。

 その内側、胸部にあたる場所。


 誰かがいる。


「王様?」

 エクサミが言った。

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