04 おじゃまします
「あらお客様? いらっしゃい」
「ど、どうも」
レスラーに連れていかれたのは、ある家だった。
そこには笑顔がすてきな美人がいた。
髪が長くて長いスカートをはいた、おっとりしていそうで明るく、はきはきしたしゃべりかたの人だった。
「どうした。遠慮しないで入れ」
「あ、どうも」
リビングに案内された。
外から見てもなかなか大きい家だと思ったが、リビングは15畳くらいあるんじゃないだろうか。
角が丸くなっている、かわいらしい大テーブルには椅子が六脚もある。
「椅子が多いですけど、他にもご家族が?」
「うちは二人暮らし。この人が、お客様をよく連れてくるの」
レスラーにきいたつもりだったが、奥さんがこたえてくれた。
「中古だが、いい家だろう」
「なんだか、イメージとちがう……」
「どうちがうんだ」
「もっと、男一人で、浴びるように酒を飲んで生活してるのかと……」
俺が言うと、奥さんが笑った。
「もしかして、この人がギルドで迷惑かけたんじゃない?」
返事に困っていると、やっぱり、と奥さんが笑う。
「すぐかっとなるの。だから誤解されやすいのよ。でも悪い人じゃないから」
「はあ」
暴力をふるう人は悪い人じゃないんだろうか、と思ったけれど、他人への評価というのは、長所と短所と、エクストラポイントみたいなところで決まるものだ。
「今日、泊まっていってもらうんだが、用意できるか」
「ええ」
奥さんはなんでもないように言うと、レスラーは満足そうに、なんか飲むものあるか、と台所に向かう。
「すみません」
「いいの。泊まっていくっていうのも、いま初めてきいたんでしょう? ごめんなさい」
「あ、いえ、でも助かります。行くところがないので」
奥さんは微笑むばかりで、俺の事情に突っ込んでくることはなかった。
「あったあった、よう、飲めるんだろう?」
レスラーは、テーブルにボトルを置くと、勝手にグラスに、ワインのような深い赤色の液体を注ぎ始めた。
「俺飲めないですけど」
「おれの酒が飲めないってのかあ?」
「はい」
そう言うと、レスラーは満足そうに笑った。
「ここで断るやつが、おれは好きだぜえ!」
「あなた、もう酔ってるの?」
「はっはっは! ああ、お前、名前なんて言ったっけな」
「ナガレです」
「おれはレスラーだ!」
仮称が合ってた!
どういう確率だ!
「わたしはイーナです」
いいなと思う奥さんがイーナ。
「なんだあ? そんな目で人の妻を見るもんじゃねえぞ? やらんぞお?」
「ちょっと」
イーナさんがレスラーさんの肩をぽん、とやる。
「たしかにお綺麗ですけど、人の奥さんにちょっかい出すようなことはしませんので」
「あら」
夫婦で笑っていた。
「でも、ちょっと年齢が離れてます?」
「同い年だ」
「え?」
「25歳だ」
「もう、年の話なんて」
イーナさんが笑う。
「え、レスラーさんも?」
「はっはっは! いくつだと思った?」
「同年代かな、と」
「ナガレはいくつだ?」
「俺は40です」
「はっはっは! は?」
レスラーさんは一瞬真顔になった。
表情が死ぬ毎日を送っていたせいか、わりと若く見られることが多いほうだ。
とはいえ、さすがにそんなに下に見られるか?
言動ならともかく、見た目で?
「……はっはっは! 冗談がうまいな!」
レスラーさんは笑っていた。
イーナさんも笑っている。
俺も笑っておいた。
年齢の上下関係なんてどうでもいいので、呼び捨てされようとなんだろうと、かまわないが。
それより、面倒な関係になったり、泊めてもらえるほうがうれしい。
どん! といきなり地面が揺れた。
「なんだなんだ」
地震か。この世界もあるのか。
思わず立ち上がった俺はなにもわからなかったが、レスラーさんはなにか察したようだった。
「来たのかよ!」
レスラーさんが言ったとき、大きく扉が開け放たれた庭。
その庭から、ずぼっ、となにかが出た。
人間の頭くらいのサイズの目が、こっちを見ていた。
は?