26 ご乱心?
「ちょっと、中はどうなってるんですか!」
俺がドアをどんどんたたく。
「おい、開くぞ」
ホックさんがドアノブをつかんで引いた。
キイ、とも鳴らずになめらかにドアが開く。
「……なんだこれは」
ホックさんが言う。
部屋の入口は、ガラスのようなものでふさがれていた。
厚さは数ミリのようだ。
青白く、かすかにライトアップされたみたい光っていた。
中はすぐ部屋ではなく廊下になっているのか、通路のようなものがすこしあって、部屋のようだ。
一番手前にいるレスラーさんの顔だけでなく、そのうしろ、エクサミさんや、イケメンの姿も見えた。
「なんだこれは」
ホックさんが、ガラスみたいなものを拳でゴンゴンやっている。
「おい、よく知らないものをさわるな。死ぬぞ」
レスラーさんが言う。
「なんだと!」
ホックさんが、ばっ、と離れた。
「嘘だ。気をつけろというだけだ」
「こいつ……!」
「これはなんなんですか」
話が逸れそうなので、俺は間に入った。
「特級武具だ。おれたちは閉じ込められている」
レスラーさんは言った。
「特級?」
「おれたちA級を閉じ込めて、『戦争』がまともに行われないようにする気だ」
「こんなところまで、アイ国のA級が来てるんですか? やばいじゃないですか。閉じ込められてるだけなんですか? だいじょうぶですか、ケガとか。そこに、アイ国の人がいるんですよね?」
「いや」
レスラーさんは首を振った。
「いや?」
「ここにアイ国の者はいない」
「いない? じゃあリモート、遠隔でやられたんですか?」
「いままさに、使用者が中に入ってきて、ここでやっている」
「ここで?」
「特級武具、王の棺だ。これは、効果を発揮している間は、中と外の行き来ができなくなる。使用者は、おれたちを、明日の『戦争』の終わりまでここから出さないつもりだ」
「そんなことをできる人が、どうやって、この、誰にもわからないようにこんなところで会議をしている場所に入ってこられたんですか?」
「ちゃんと入り口から入ってきたぞ」
レスラーさんは、どこか、あきらめたような顔をしていた。
「壊せないんですか」
「当然だ」
「おい。もしぼくが壊せたら、A級と認めるか」
ホックさんが言った。
「もちろん」
レスラーさんの奥には、イケメンも、エクサミさんもいるようだった。いまのはエクサミさんの声だ。
「よし!」
ホックさんの手のひらに光が集る。
「ちょっと!」
俺は急いで飛び退いた。
部屋の入口が、かっ! と光ってから、熱が来た。
焼ける! という一瞬のあと、爆発音がした気がする。
目をつぶってやりすごし。
おそるおそる開く。
入口付近は焦げていたが、ガラスみたいなものはびくともしてない。
ホックさんの魔法は、もしかしてこれが初めて見たかもしれない。
「なかなかやるじゃないか」
ホックさんは首を回した。
「本気を出そう」
「もういいだろう」
レスラーさんは言った。
「まだだ! ぼくの本気は……」
「ちなみに、エクサミさんは特級を使ったが壊れなかった」
「じゃあ無理じゃないか!」
ホックさんが廊下に響くような舌打ちをした。
「みなさんが壊せないようなものなんですか」
ホックさんが廊下に座り込んでしまったので、俺が続ける。
「そうだ。油断していた」
「油断」
「こんな事態になったことを、おれも、他の人たちも、誰も受け入れられないんだ。なぜこんなことになったのか」
レスラーさんは冷静に見える。
だけど、なんだか変にも見える。
「まったくわからない。これが怒りなのか失望なのかもよくわからない。ホックをからかってみても、なんの意味もなかった」
「ぶっ飛ばすぞ」
ホックさんがつぶやいた。
「誰がやったんですか」
自分で言いながら、なんとなくわかってきた。
城の、誰も来ないようなところに集まっているA級たちの動きを知ることができて。
来ることもできて。
来られて、王の棺、なんていう名前の特級武具を使える。
部屋にやってきても、レスラーさんたちは中に迎え入れる。
特級を使われる準備も、まるでしなかったんだろう。
いいように、閉じ込められてしまった。
そんなことができそうな人。
俺が思いつくのはひとりだけ。
でもそんなわけないとも思う。
その人がそんなことするんだったら、レスラーさんたちがここにいる意味ってなんだろう。
なにがしたいんだ?
「余だ」
レスラーさんの奥、イケメンと、エクサミさん後ろにいるのが見えた。
昨日見た服装のままだ。
王様がいた。
「A級だそうだな。君には、後始末を頼みたい」




