表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/60

21 仕事した

 モップ男とナイフ男は俺をじっと見ている。


 どっちだと思ってもらったほうがいいんだろうか。


 あと、こっちのA級の誰かが動けるなら、俺に注目してもらい、スキをついてもらってなんとかしてもらいたい。

 でもなんとなく、ナイフから伝わってくる重みが、全身に広がっているということ、その重さは例の、モグリウオにかまれたときよりも、上かもしれない。

 ということを考えると、こっちのA級たちは本当に動けないのかもしれない。

 俺がなんとかするしかないのか。


 よし。

 決心して俺は、一歩ふみだした。


 あえて彼らに背を向け、ゆっくりと、自分の影に刺さったナイフの前でしゃがむ。

 緊張するが、あえてゆっくり動いた。

 たぶん、急いで行動するより、ゆっくり動くやつに攻撃をしたくないだろうということが半分。

 もう半分は、俺はかなり物理攻撃に耐性があるということへの安心というか、自信というか。

 そうじゃなかったら無理だ。


「本当に効かないのか」

 ナイフ男はいった。


「いや、不能? ナイフ? 疑問」

 ナイフ男は言い直した。

「ふつうにしゃべれるのか?」

「無理。特殊、我」

 放っておいたら中国語みたいな字面になりそう。


 俺は一番近い、レスラーさんに向かって歩いていく。


 いきなり俺の脚にナイフが当たった。

 当たるのを見たのではなく、どん、と重くなったのが先で、それから、からん、と床に落ちたときの軽い音で気づいた。

 拾ってみると、影を留めていたものと同じだ。


「刺さらないだと……? 不刺? 疑問」

 ナイフ男は言い直している。


 そして様子を見ていた。

 俺の動作を、というか、これからどうするつもりなのか、様子をうかがっている。

 来ないのか。


 なにか、変じゃないだろうか。


 考えてみるとさっきから変だ。

 ずっと変だ。

 なんというか。


 それでいいのか? というか。


「レスラーさん」

「なんだ」

「あの二人のこと、知ってますか」

「おい、いまそんな話を」

「どんな武器を使ってるか、とか」

「槍と、ナイフだが」


 モップ男とナイフ男が床を蹴って、一気に俺との距離を詰めてきた。

 モップを俺の肩に振り下ろす。

 ナイフ男は俺の背後をとって、なにかどどど、と重いものを突いてきた。たぶんあのナイフだろう。


 前からは、休まずモップの棒で、俺の肩や腹を突いたり、棒を回してあごをアッパーのように下から殴ったりする。

 それらは当然、力が体にたまっていくだけだからなにも起きない。


「うあああ!」

 いきなり、ナイフ男が倒れた。

 ロープに巻き付かれている。あれはエーエさんとかいう人のロープだ。

 さっき置いておいたやつに近づいたら、うまくさわってくれたらしい。あるいは近寄りすぎただけで、ロープのほうから近づく性能だったっけ?

 

 モップ男はすこしナイフ男を気にしたが、また、どんどんと突いてくる。

 俺は体勢を崩したように見せかけて立ち位置を変え、モップ男とナイフ男が直線状になるようにした。

 そして、胸を張って、力を集める。

 モップ男がどどどど、と突いてくる中で胸を突いたとき、俺の用意した力のあたりにふれた。


 反発した力にふっとばされて転がり、ナイフ男と一緒にロープに絡まった。


「く、これは」

「エーエの」

 二人はすこしもがいてから、動くのをやめていた。抵抗するだけ無駄だという性能を知っているらしい。




 全員の影のナイフを抜いた。

「まずは身体検査だ」

 エクサミさんは言って、俺を見た。


「やってくれ」

「俺が?」

「ナガレ君ならば、だいじょうぶだろう」

「だいじょうぶ?」

「なにか持ってるかもしれないだろ」

 レスラーさんは言った。


 なにがだいじょうぶなのか。

 言いたいことはわかるけれども納得はできない。

 でも時間がなさそうなので調べていく。


 指示を聞きながら服の上からさわっていくと、ナイフ男のほうからは、影を縫い止めるナイフがあと三本出てきた。

 ただし、肩のところだったり、靴の中だったり、ベルトの裏側だったり、いろいろだ。


 一方のモップ男は、隠し持っている武器は特になく。


「これは?」

 ネックレスに丸い飾りがついていて、ぱかっ、と開いた。その中に、小さく折りたたまれた紙が入っていた。

 開いてくと、パパ、がんばってね、と乱れた字で書いてある。


 モップ男はその間こちらをちらりとも見ない。

 いちおう、小さく折りたたんで元通りにした。


「武器はないようです。おかしいですよね」

「なにがだ」

 レスラーさんは言った。


 エクサミさんとイケメンは、俺と同意見のようだ。


「この人たち、本気で俺たちを殺す気なくないですか?」


 俺はあらためて、彼らの装備を見た。


「モップの人、前は槍を使ってたんですよね? 特級の道具だからこれを使ったとしても、他に武器がないのはおかしいし、ナイフも、これ、あんまり殺すのに向いてなさそうですし」

 ナイフは、ナイフの形をしているし、刃もあるものの、手にとって見てみると、変に重いし柄が短くてつまむことしかできない。

 投げることはできるし、サポートにはなる。

 でもモップ男のほうも、ちょっと、装備として弱くないだろうか。

 棒術で人を殺すことはできるとしても、こっちもそう、かんたんな装備ではないし。


「思い返してみれば、エーエさん? も、殺意って感じじゃなかったような。どう思います?」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ