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20 影ががら空き

「怨装……。怨装?」

 リープさんは、モップ男と自分の足を見比べていた。


「ふん。ふざけたことを言って惑わせようという魂胆か。まったく。おれの、勝ちだ!」

「だいじょうぶか」

 エクサミさんは言った。

 もう足が治ったのか、ふつうに一歩、二歩と歩いていた。

 モップは、ふさふさを切れば解除されるらしい。


「A級で問題ないな?」

「それより、血を吸われているようだが」

 エクサミさんが言う。

「血い?」

 リープさんは、とん、とんとその場でやる。


「誰が血を吸うんだ」

「靴だ。特級武具ではなく、怨装だ。かんたんにいえば、呪われている」

「ふん。どこが呪われているというんだ!」

「靴の色を見ろ。血だ」

「赤ければ血か? 単純だな」

 リープさんは肩をすくめた。


「体調に変化はないのか」

「たまにふらつくこともあるが、激しい運動をすれば、そういうものだろう」

「いったん、脱いだほうがいい」

「バカ言うな。おれが結果を出したから、それを見抜けなかったからそんなことを言っているんだな。おれは、A級だ!」

「その靴はいつから使っている」

「五日ほど前だ」

「よく使いこなした、というよりは、使われているぞ」

「ふふん。おれの才能をおそれているのか」

 リープさんは、いよいよ得意げだった。


「脱いだほうがいい」

「どちらにしろ、脱げないからな」

「えっ」

 俺は思わず言って、リープさんににらまれた。


「破壊したほうがいい」

「そうですよ」

「バカを言うな。やっぱり、おれをおそれているな。お前らの見る目の無さは、王都に報告してやる。だがその前に。おい、ナイフ男、お前も始末してやる」


 リープさんが、とん、とん、とその場でやろうとしていた。

 やろうとした、というのは、とんとんするときはスカした顔をしている、ということに気づいてきたからだが、今回はスカした顔だけでなにもしなかった。


 リープさんは、不快そうに、あるいはとまどったように、表情を変えた。


「どうした」

「体が、動かない」

 もう死んじゃう?


「おい……。うん?」

 今度はエクサミさんが、不快そうに、あるいはとまどったように、表情を変えた。


「これは」

 レスラーさんも。


「呪い、不問。影、縫った」


 控室の窓から差す光を受け、俺たちの体から影がのびていた。

 その影に、ナイフが刺さっている。


「呪いがあろうとなかろうと、君たちはもう動くことはできないと言わざるをえないだろう」

 モップ男は言った。


「首をはねてもいいが、もしアイ国に協力するというのなら、命を助けてやってもいいと言わざるをえない」

「特級、影縫。平凡、なれど、無双」

「影を縫って動きを止めるのは、よくある武器だけど、強い?」

「正解! お前、優秀!」

 ナイフ男は、くふふと笑う。


「リープ君の素早さに押し切られているように見せて、こっちが本命だったか」

 イケメンが、ため息まじりに言った。

 たしかにナイフ男の動きは見ていなかった。


 いまさらながら、影を縫い止めて動きを止めるのがふつうの世界というのは、なかなかすごいものだ。


「あのナイフ一本一本が特級武具だ。よくあの数を集めたと、ほめたい気分だね」

 イケメンが笑うのは、強がりか。

「ほめる、いいぞ」

 ナイフ男は、悪くないという顔だ。


「エクサミ、あまい」

 エクサミさんがあまい?


 もしかして、リープさんがいたせいで、特級剣で切れなかったのだろうか。


「どうする、ときかざるをえない」

 モップ男は言った。


「会話くらいしかできない。難しいね」

 イケメンが言う。エクサミさんたちは黙っていた。


 本当にまずいんだろうか。

 それとも、作戦があるんだろうか。


「お前、動いてないか?」

 リープさんが言ったら、モップ男とナイフ男がこっちを見たので、ぴたりと止まる。


 そうです。

 俺はどうやら、動けるのです。

 体が重くなったような気がするけれど、そんなものなので、実はみんな動けるのでは? という疑惑を持っているのですが。


 でも言うな!

 みんなが動けないなら、絶対言うな!

 千載一遇のチャンスがつぶれかけているぞ!

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