02 ギルド?
「剣と魔法の世界ってことか……」
俺は、息をはいた。
場所を変え、酒場に来ていた。
要するにこの世界の居酒屋みたいなものだろうが、わいわいとにぎやかだ。
ふざけているのかと思った部分もあったけれど、彼らの様子はあまり、俺をバカにできるような状況ではないと思う。ふざけんな、って、やらないけど、殴られるのは困る、という状況だろう。
剣と魔法。
東京とは誰かの頭の中くらいしか接点がなさそうだ。
「君たちの仲間は、これで全員?」
「へい」
ラリーという、一番大きな、一番攻撃的だった男がうなずいた。リーダーらしい。
十人くらいいて、全員二十代前半だろうか。
「おれらは、冒険者として」
「冒険者?」
「ああ、それも知らないんすね。いや! いいんすよ、全然! きっとナガレさんは修行修行でそういうの全然知らないんでしょうから!」
ラリーはぶんぶん首を振った。
話の流れ上、俺は、自分の力を高めるために、人里離れた場所で生まれ、その限られた人間の中で、トレーニングをしていた人、ということになっていた。
「冒険者は、ギルドっていうところで仕事をもらって、その報酬で暮らしてるんすよ」
「ハローワークで日雇い派遣を紹介してるみたいなものかな」
「はい?」
「仕事をくれるところにもらいに行って、そこでもらった仕事の難易度に応じた報酬がもらえるってことだろう?」
「そうですそうです」
「なんかこう、どこの世界も結局はそういうところに落ち着くのかなあ。正規雇用は一部のエリートだけなんだよね?」
「あー王都とか、そういう感じっすね」
王都。
王様がいるんだろう。それ以上のイメージがわかない。
王様に関して、具体的になにも知らないと思い知らされる。
「で、ラリー君たちはいつもああいうことをしてるの?」
「はい?」
「知らない人を殴って、金を奪うような」
「あ……。すいません……」
ラリーは大きな体をすこしだけ小さくした。
「そういうのはよくないと思うなあ」
「はい、ナガレさんみたいな人にケンカを売るなんて、本当、わかってなかったっす!」
「いや、そういうことじゃないんだけど……」
「今後はやれる相手を見極めます!」
な、とラリーは仲間をうながしていた。
そういうことじゃないんだけど。
「まあいいや。とにかく、仕事がない人は、冒険者ギルドに行くしかないってこと?」
「そうっすね」
「なるほどね。ありがとう、じゃあ」
俺は席を立った。
「え、料理来ますよ」
「いや、俺、金持ってないから」
この世界のものも、もとの世界のものも。
「おれらが払いますから、安心してくださいよ! 金ならおれたちが用意しますよ!」
「でも悪いから。どうもありがとう」
俺は手を振って店を出た。
どうやらギルドと居酒屋は親和性が高いようで、隣にあった。
開け放たれたままの入り口から入っていく。
こっちは、ファミレスかスタバみたいな感じで、軽食をとっていたり、話をしていたりする人たちがいた。
四人がけテーブルが十くらいか。
「いらっしゃいませ」
入り口で女子高生くらいの女の子が笑顔で言った。
「あ、初めてなんですけど」
「でしたら奥で受付してくださいね」
「どうも」
と入っていこうとしたら、鋭い叫び声があがった。
倒れている男と、それを見下ろしている男がいる。
見下ろしている男は、プロレスラーみたいな巨体だった。
「とんだ手抜き仕事しやがって」
立っていた男は、寝ている男の髪をつかむと、そのままぐぐぐ、と持ち上げる。
「うあああ」
持ち上げられた男はやせている。まったく体格がちがう。
「お前のせいで町が危なくなるかもしれねえんだ、わかってんのか!」
「ぼくは、やるだけのことはやったんだ!」
そう言ったとき、ボン、とプロレスラーみたいな男の頭が燃えた。
「ぐあああ!」
あれが魔法か。
「へん、バカが」
やせた男は着地すると、するすると走って逃げようとする。
その足がつかまれ、逆さまに持ち上げられてしまった。
「魔力に余裕があるみたいだなあ、おい!」
レスラーは、髪がちりちりになっていた。
鋭い目が怒りに燃えている。
「この」
魔法使いらしいなにか唱えようとしたが、レスラーに顔面をふまれた。
「ふぐう!」
「ちょっとわからせてやらねえとなあ」
レスラーは魔法使いを放り出すと、口に布をつっこんだ。
「これでいいだろ」
「ふごふご!」
そう言うと、右腕一本で肩に担いで連れていこうとする。
まわりの人が離れる中、入り口に向かってくる。
俺と目が合った。
「どけ」
「なにがあったか知りませんけど、もっと平和的な解決をしたほうが」
「なに?」
「なぐって解決というのはどうも。いずれ仕返しを、となって、いつまでも終わらないような」
「どけって言ってんだろうが!」
レスラーは左手でなぐりかかってきた。
一歩が速い。
殴られるまで、見えなかった。
俺の顔面をとらえた拳。
一撃はラリーのものよりずっと重い。
その重さをぐっとまわして右手に持ちかえ、そっとレスラーの胸に当てた。
「ぐおおおっ!」
レスラーは後ろ向きにひっくり返った。
「だいじょうぶですか?」
「うう」
「落ち着きましょうよ」
それでもレスラーは、つかんだ魔法使いを離していなかった。




