19 敵襲と抵抗
「足が」
エクサミさんの右足がおかしい。
凍っている? いや……。
「外に二人いた。受付の人間は戦闘不能だ」
「殺されたんですか」
エクサミさんが首を振った。
「いや、自由に動けなくなっているだけだ。おそらくわたしと同じように」
エクサミさんはイケメンから離れて自分で立った。
部屋の中ほどまでやってくる。
「右の膝と足首が曲がらぬ。敵の武器の作用だろう。相手はアイ国のA級だ。見覚えがあった」
「またアイ国」
「今回の戦争の相手国だ。そして、もう戦争はするつもりがないらしい。いや、従来の意味での戦争、をするつもりのようだ」
「それって」
「油断するな。来るぞ」
「えっ」
「どうも」
控室に男が二人、入ってきた。
定食屋にでも入ってきたみたいなさりげなさだった。
エクサミさんは剣を抜いて、イケメンも彼らに向かって立った。
背の高い男。
持っているのは、槍、かと思ったけれども先が変だ。モップ?
もうひとりは、背中を丸めた背の低い男だった。
両手にナイフを持っていて、ゆらゆらと体を動かしている。
「どうも」
モップ男はもう一回、言った。
「センシャ、エクサミ、狭い場所、力、半減。なのに、町で、戦闘、拒否。愚か、愚か、愚か」
ナイフ男がぶつぶつ言っている。
「やつのモップの先にさわると体がおかしくなる。気をつけろ。ナイフはいまのところ通常だ」
エクサミさんがかんたんに言った。
「抵抗しなければ無力化するだけ、と言わざるを得ない。だから、安心して投降する、というのが最善だと思われる」
モップ男は言った。
「痛いのは嫌だろう? 苦しいのは嫌だろう? だから、無力化しよう、ということを検討すべきだと思うがどうだろう」
モップ男は、くるん、くるんとモップをまわす。
「侵略しに来たのか」
イケメンが言う。
「戦争、終わった、思った? 愚か。本当、戦争、なくなる、思った? 愚か。戦争で、手の内、明かして、愚か。他国の、A級、国の中、入れる、愚か。もう、我々、この国、制圧。愚か、愚か、愚か」
ナイフ男がぶつぶつ言った。
「つまり、戦争、で戦争をしない約束したと見せかけて、この国のA級の情報を得て侵略する計画だった?」
俺が言うと、モップとナイフがこっちを見た。
「そう言わざるをえない」
「本気、この国、愚か」
ナイフ男が、くひひ、と笑う。
「愚か、愚か、愚か。平和、つまり、均衡。均衡のみ。情報、公開、侵入、許容。均衡、崩壊、愚か、愚か、愚か」
ナイフ男は体を揺すって笑っている。
「平和は、力の均衡で成り立っているだけで、存在しないと言いたいんだな。でも、イベントとしての戦争、をするにあたって、個々の能力を公開して、さらに、他国のA級が入るときのセキュリティがあまくなってきているのが、国力低下を招いて、愚かだと、そういうことか」
俺が言うと、ナイフ男は満足そうにした。
「正解!」
ナイフ男が、くくく、と笑う。
「お前、手下、了承。認証。許可!」
俺を見て、期限がよさそうだ。
「服従を決めたら早く言わなければ、我々も、攻撃を開始せざるをえないと言わざるをえない」
モップ男が言ったとき、すぐ近くで人影が消えた。
現れたのは、モップ男のすぐ近くだった。
モップで柄で腹を突かれて体をくの字に折っているリープさん。
「く、は……」
続けて振ったモップをかわして離れる。
部屋の端で、体を折ってモップ男をにらんでいた。
「弱いと言わざるをえない。こんなに速いだけとは、逆におどろきを禁じえない」
「ほざけ」
リープさんは、平気そうにステップした。
だが左腕が曲がらない。モップにふれたのか。
「速度、だけ! くふくふ!」
ナイフ男が笑う。
「よほど、人材、いない。最初、犠牲者、決定!」
「リープ君、離れて。ぼくがやる」
「力だけのウスノロはだまってろ」
そういえばイケメンはホックさんに、重装のセンシャ、とか言われていた気がする。
重装。
体を固めて突っ込むだけ?
そんな体勝負?
イケメンって、どっちかというとリープさんみたいな、華麗さを売りに戦うんじゃないの?
「まだ終わってないぞ。おれがA級のリープだ。土下座して許しを請え」
リープさんが、とん、とん、とステップする。
「殺されないつもりなら、あまいとしか言いようがない」
モップ男が構える。
「リープさん!」
「おれが全部を見せたと思ったか」
リープさんの姿が消えた。
モップ男が動く。
その柄の先にリープさんが。
いや。
空を切った柄を横に振る。柄の先でリープさんをとらえた、と思ったらそれはぼんやり浮かんだホログラフのようで、しかもすぐ溶けて消えた。
あれが残像か。
モップ男はきびきびと動くが、そのどれもがリープさんをとらえきれていなかった。
「速い」
エクサミさんが言った。
リープさんが離れた。
「よう、どうした」
「……!」
モップ男がモップを見直す。
「やっと気づいたか、間抜けめ」
モップを、モップたらしめていたあのフサフサが。
攻撃に使っていた柄の逆側のフサフサが根こそぎ切り落とされて、モップ男の横に積もっていた。
「長かったら切っておいたぞ。礼はいらん」
リープさんがにやりとした。
「その足……」
モップ男、はリープさんの足元を見ていた。
リープさんの、白い靴が真っ赤に染まっていた。
「気づいたか。おれの靴は」
「怨装の血物」
「あ? 特級の粒舞だ。調子がいいときは、たまに赤くなるが」
「いや、それは、怨装の地痕だと、いわざるをえないが……」
「怨装の、地痕……? わけのわからんことを」
「怨装……」
センシャさんが、複雑な表情をしていた。
「怨装?」
「特級なみの力を生む装備だけど……」
「だけど?」
「代償を求めてくる、呪いの装備だよ」
「え」
「あれは、血を吸うタイプ、なのかな……」
怨装……。
血、吸ってる……?
リープさんはとまどいの表情。
無自覚。
……無自覚は、まずいのでは?




