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14 BとA

「なんの音だ」


 控室に何気なく入ってきたのは、エクサミさんだった。

 おどろいた俺は無言で彼の様子を見るだけだった。


 チェックしていくエクサミさん。

 ヒビの入った壁、その前で膝をついている剣男。

 対峙している俺。


「これはなにを?」

 エクサミさんは落ち着いた声で言った。

 それが逆に、怒らないから教えてごらん? と冷静さを保とうとしている父母を思わせた。

 実際冷静になってくる。


 壊したのは誰?

 弁償してくれる?

 そういうことかもしれない。


 壁代って、高いのでは?


 A級になれない、くらいならいいが、負債を背負わされるとかそういうのは困る。

 剣男にはきちんと証言してもらい、やつが勝手に暴れただけで、俺には一切の責任がないことを証明してもらわなければ。

 でも変に刺激したら、俺までノリノリで暴れたことにされかねない。

 そうだ。あいつはとんでもない速さで動く。

 逃げられたらおしまいだ……。


「ええと……」

「A級審査に不要なザコを帰らせようとしていただけだ」

 剣男は言った。

 気が強い。とりあえず、負債は嫌だと逃げることはなさそうだ。


「ザコはお前のようだが」

 エクサミさんがすぐ言う。

「くっ」

 剣男は唇をかんだ。


「たしかに、おれは、そいつに劣る存在だったかもしれない。だが、A級にふさわしくないかといえば、どうだ」

「つまり?」

「そいつがA級にふさわしく、それより、現状は力が劣るものの、おれもA級にふさわしい。そういうことも考えられるはずだ。ふたりともA級。そういうことだってあるんだろう?」


 たしかに、相対的に見たら剣男はまずい状況かもしれないが、絶対的に見たら、剣男は十分戦力かもしれない。

 そんなことすぐ言えるなんて、メンタルが強いな。


 でも俺は思って、言ってみる。

「それだと、あなたが他の参加者をやりこめて、追い返していたことも、おかしいことになるのでは? あなたの下だからって、A級にふさわしくないかどうかは、わからないんですよね。なのに追い返したんですよね」

「くっ」

 剣男は唇をかんだ。

 ちょっとすっきりした。


「ああ、特級武具か?」

 エクサミさんは剣男の靴を見た。


「そうだが?」

 剣男は、あごを持ち上げて言った。見下そうとしているようだ。


「B級にはもったいないな」

「は?」

 剣男は立ち上がった。


「特級だぞ。特級の強さをわかっていないのか?」

「こっちのせりふだ」

「やる、というのか。特級のエクサミ。おもしろい。その特級剣、借空、見せてみろ」

 剣男は、とんとん、とつま先で弾むようにステップした。


 エクサミさんは短剣を抜いて、手を広げた。


「どうぞ。有効打を入れられたらA級とする」

 テンションを上げてる剣男に比べて、なんというか、雑な対応だった。

 街角でティッシュを配っている人、いや、ティッシュをもらっている人、というくらいそっけない。

「理解できていなのか?」

 剣男は、ますます激しくステップをふんだ。


「おれの特級靴、粒舞は、動きの速さを増すものだ」

「理解している。どうぞ」

 やはりそっけない。

「名乗るのが遅れた。おれはリープ。瞬足のリープだ!」

 剣男、リープは消えた。


 エクサミさんの近くで金属音がした。

 音は聞こえるけれども、そしてエクサミさんが素早く動いているけれども、リープさんは見えない。

 煙というか、もやがかかっているというか、そんな感じでぼんやり見えるだけだ。

 エクサミさんだけが、きびきびと短剣を動かしている。


「動きが速くなると、あらゆる意味で万能なのではないか、そう思うこともある」

 エクサミさんが、朝礼でてきとうなあいさつしているみたいに、緊迫感のない声で話を始めた。


「足がいくつもある魔物を相手している、と思えば、このように問題なく対応できる。あせる必要はない」

「貴様、腰の剣を抜け!」

「間合いが近ければ短剣のほうがよい。当然のことだ。ましてや、特級を見せびらかすように披露することは相手に情報を与えるだけ。おろかでしかない」

「この!」


 金属音の鳴る間隔が短くなった。

 しかしエクサミさんは片手で対応している。


 大きな音がして、リープさんの姿が、離れた。


「では、B級で決定だ」

「おれのどこがBだというんだ」

「一発も入っていないし、特級武具、粒舞? 使いこなせていない」

「バカを言うな!」

 リープさんが消えた。


 次に見えたのは、床にごろごろごろ、と転がるリープさんと、蹴った格好のエクサミさんだった。


「Bの中でもいいほうのBかもしれない。では、これからがんばってくれ」

「バカな! バカなバカなバカな!」


 リープさんは床をダンダン叩いた。


「お……、おれは! この国のことを誰より思っている!」

 リープさんは抜いた剣の先をエクサミさんに向けた。


「おれをA級にしろ!」

「無理だ。まるで力が足りていない。お帰りを」

「なら、当然そいつも失格だな!」

 リープさんは俺を指した。


「頑丈なだけだからな! おれの動きにまったく反応できなかった!」

「たしかに」

 俺が言うと、リープさんが変な顔になる。


「彼はA級にふさわしい」

「は!? ふざけるな!」

 リープさんが消えると、俺のまわりになにかが飛び回っているのを感じる。

 涼しくなった。


「どうだ! こいつ、なにも見えてないぞ! なにも! 全然!」

 そのとおりである。


「報告によれば、彼の頑丈さは特別だ」

「頑丈なだけで戦えるのか!」

「なにしろ、モグリウオにかまれても耐えられたということだから」

「なに」


 リープさんは離れて動きを止めた。

 俺をじろじろ見る。


 なんか、話を聞けば聞くほど、俺の株が上がるというより、モグリウオの株が上がっていくような気がする。

 そんな魔物が町に出てきたというあの状況は、かなり危機的だったのでは。


「それだけ頑丈なら、たとえば、魔物の大群に放り込んで、てきとうに戦ってもらうだけでいい勝負ができるかもしれない、ということだ。速いだけの自意識過剰よりずっと役に立つだろう」


 なんだそのとんでもない活用法は。

 殺す気か。


 どうも、A級というのは俺が希望しているものとはちがっているような気がしてきた。

 入手することで仕事が増える系の資格というより、ある仕事をするために必死になって手に入れる資格、のような。


「それに。彼の攻撃でやられたんだろう? なら、動きが見切られていると言っていいだろう。いいか? 様子を見られていたんだ」


「……」


 リープさんは、悔しそうに床を一回殴った。

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