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10 戦争?

 ぐう。

 ぐう。

 寝息ではない。

 腹の音だ。


「だいじょうぶか、ナガレ」

「平気ですけども……」


 昨日、ろくに食べていなかったし、夕食もなんか、パンの子どもみたいなやつをちょっとかじっただけだった。

 そして今日は朝からずっとうろうろしている。


「レスラーさんは平気なんですか?」

「腹は減ったが、二、三日くらいならなんともないようにしてある」

「なるほど……」


 ホックさんとエクサミさんは、なにか食べている。

 冒険者界のカロリーメイト的なものがあるんだろうか。

 レスラーさんは根性で乗り切れそうだから、持っていないのかもしれない。


「お、見えてきたぞ」

「え?」

 もう夕方の陽に照らされオレンジ色の景色の先の方。


 道の先に巨大な建物があった。


「あれがお城ですか!」

 高い壁の向こうにちらちらと、ガチニーランドを思わせる、なんデレラ城か、とがった屋根や塔の先が見えていた。


「町とは全然ちがいますね」

「当然だ。国の中心だからな」

 レスラーさんは言った。


「魔物も……。人間も、そうかんたんには攻められませんね」

 外からだったら弓矢は壁を飛び越すことはできても全然中が見えないし、意味がないだろう。逆に城壁の上から攻撃されたらひとたまりもない。

「そりゃそうだ。じゃなきゃ、意味がない」

「中はすごく広そうですが」

「町が半分、あとは畑などの区域もある」

 エクサミさんが言った。


「畑? だったら、籠城し放題じゃないですか。難攻不落ですか?」

「そうだ。いまとなっては、それほどの堅牢さは不要だが」

「どういうことです? 戦争はないんですか?」

「あるが、ない」

 エクサミさんは言った。


「そういえばもうすぐ戦争の時期だな」

 レスラーさんが言う。

「戦争の時期?」

「おれたちには関係ないがな」

「そりゃ、まあ、そうかもしれませんが」

 戦争に巻き込まれる可能性なら、戦争映画なんか見たときにちらっと思うこともあったけれど、戦争に参加するなんて考えたことがない。いや、徴集される可能性なら考えたことがあるか。登場人物への感情移入として。


「でも、戦争があるってなったら、無事じゃいられないでしょう? 町にいれば、戦争は関係ないんですか?」

「王都にいても関係ないぞ」

「は? この国の話じゃないんですか?」

「この国の話だ」

「はあ?」

 俺がぽかんとしていると、レスラーさんが、まじまじと俺を見る。


「なんですか?」

「いや、本当に知らないんだな。お前、どこから来たんだ」

「A級は戦争に参加する権利はありますが」

 エクサミさんは言った。


「おれは冒険で生きるんだ。国と国の話に首を突っ込む気はないね」

「そうですか」


 話はそれで終わった。

 馬車は王都の門に入っていった。

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