第3話
『ウォータースライム、エリクシアをドロップ』
この話題が広がり、ウォータースライム出現区域に適正レベル外の探索者に入滞在規制が掛かってから一月、夏休み前にせめて討伐ボーナスをと意気込んで今日も俺はウォータースライムを倒す。
長期休みになると中学生のダンジョン探索が解禁される為に人が多くなり、ウォータースライムとの遭遇率が減る上に、優先されるのは中学生のレベルアップである、本来であればどうと言うこともなく、初々しい探索者の卵達を応援する時期だ。
勿論俺も応援する気持ちはある、だからこそ夏休みに俺は地元のダンジョンから離れなければならない、中学校が無い地域の初級ダンジョンを求めて今はセンターに問い合わせ中である、中学生が潜らない初級ダンジョンを。
「装備を整えて二層目に……って普通ならなるんだろうけど、レベル規制でそれも出来ねぇしなぁ……」
全てのダンジョンにはセンターが設置したゲートを潜って入場するのだが、そのゲートを開くためには探索免許証を翳す必要がある、その際にレベルをチェックされ、レベルが達していないと開かない。
初級ダンジョンにはこれが二層目に続く階段前にも設置されており、このゲートを開くにはレベル2でなければいけないのだ、これはキツイですよ俺には。
これのせいもあり、スキルのせいもあり、俺はソロを余儀なくされている、パーティーを組んだとしても、このゲートを越えられない以上どうしようもないのだ、キセルなど出来ないし。
「せめて経験値減少値がもうちょいゆるけりゃなぁ……」
経験値が1/100であっても、今ごろレベルは3にはなっている筈だった、今で経験値は1、レベル2になるには経験値が3は必要、3にはそこから更に5必要なのである。
普通なら辞めてしまうのだろうが、アイテムドロップ率100%というのが俺を探索者として繋ぎ止める、気合い入れれば日当ニ~三万に届くのだから辞める必要は一切無い、ウォータースライム様々です。
「でも……早く二層目に行きたいなぁ……」
現れたウォータースライムを叩き潰すと同時にため息も零れる、と同時に聞き慣れた討伐ボーナス獲得のアナウンスが脳内に。
「……はは……マジか……!」
ステータス画面を開いて見れば、なんとボーナスで貰ったSPが2に増えていた、これは大きい、大き過ぎる。
スキルレベルを3にするのに必要なSPも5であることを思えば後二百匹狩れば良いと言うのは、俺にとっては進化と言っても差し支えない。
センターに戻ってもにっこにこの俺を見て、職員を始め他の顔見知りの探索者からも怪訝な目で見られたのは、必要経費とも言えるだろう。
夏休みに入って、センターに紹介して貰えたダンジョンに行こうかと思っていたが、両親と妹に先ずは家族サービスしろと言われればせざるを得ない、それだけの稼ぎがあるのも確かだし。
「兄ちゃん、準備出来たよ!」
そのサービスとは中学生になった妹……坂咲優実のレベルアップ手伝いや、外食、旅行と多岐にわたる。
「三匹もウォータースライムを倒せばレベルは上がるから、さくっとやってしまおうか」
今日は取り敢えず妹のレベルアップに付き合う事となった、しかし俺が付き添えるのはセンターだけである、俺のスキルについては説明済みなので、どうにか納得して貰った。
また妹はレベルアップ後どうするのか決めてはいないそうだが、まあ潜るのであれば友人達と潜る事になるだろう、それが必然だ。
監督者が居なければレベル1の中学生は一層目に潜る事が出来ないが、そこは俺が事前にセンター職員に依頼している。
「お待たせしました」
ダンジョン入り口前で声を掛けてきたのは、依頼していたセンター職員が寄越した人材、つまりはその日その時偶々センターに居た女性探索者。
「いえいえ、こちらこそすみません、ほら優実」
「あ、初めまして、坂咲優実です今日はお願いします」
「初めまして、今野瞳子です」
「重ね重ねすみません、今野さん」
事情を説明しようかと思ったが、相手は俺の事を知っていた様で、この後は任せて欲しいと心強く言ってくれた、そこから幾らか優実と言葉を交わし、二人はゲートを潜って行ったのだった。