第1話
この世界にダンジョンが産まれたのは第二次世界大戦直後の広島だという、日本初のダンジョンが完全攻略されたのがそれから三年後、それを期に新たなダンジョンが産まれ始めて現在では全国に確認されてるだけでも三千は超える。
そんな世の中だ、現在ではダンジョン探索者の為の様々な法も整備され、商工農業も発展した。
小学校卒業前にダンジョンに潜り、レベルを1にしスキルを一つ得る、高校からは個人探索者としても活動出来る、最も専業として探索出来るのは十八才(高校生不可)からではあるが。
さて、ここからは我が事ではあるが話をしよう。とは言うものの、語ることはさして多くはない、なぜなら私は無能のレッテルを貼られているからだ。
何故、と言われれば簡単で、所有スキルがあまりにもあまりな物、その名も『不殺の誓い(ころさずのちかい)』と言う、たとえ致命傷を与えようと戦闘が終わったと判断されたその瞬間、精々疲労感しか与えていない事になる上確実に逃げられる。
しかも、獲られる経験値は千分の一になる上にこれがパーティーメンバーにも作用するのだ、初めはそれでもと言ってくれる人も居たが、今ではもう誰もパーティーに入れてくれない、募集にも掛からない。
だけど悪いことだけじゃない、なんと倒したモンスターは確実にアイテムを落とすのだ……と言えば重宝がられるだろう、と思ったか?俺は思ったよ?
でもこの恩恵を受けるには『俺が自分で止めを刺す』必要があるという点、これが最大のネックとなる。
高二なる今現在、俺のレベルは1のままである、倒せるのも小学生がレベルを1にする為に倒すウォータースライムのみ、当然探索者用の武器なんぞ買える訳がない。
一応討伐数ボーナスとしてSPは手に入るから初期値と言うわけではないが、それでもウォータースライムの討伐数ボーナスなんて百匹倒してやっと1ポイント貰えるだけだ。
同級生達はもうレベル自体が20を超えてる奴が殆どであると考えれば、そんなものは蚊の涙だろう。
レベルが1上がれば基礎ステータスと合わせてSPが幾つか入る、それだけで俺とは一気に格差が広がる訳だ、泣ける。
「っと、これで記念すべき千匹目の討伐か」
苦節五年、誓って殺しはしていません。
やっとこさ新規獲得SPが10ポイントに到達しました、畜生。
改めまして自己紹介、五年かけてやっと精々レベル3程度のSPしか獲得出来ない私、坂咲優と申します、女じゃないよ?わかるよな?
「お、何時もの水じゃねーなこれ」
ウォータースライムが普段落とすのはミネラルウォーターか純水である、しかしこの水は何時もの容器ではなく、かなり厳重に閉じられた瓶に納められている。
傾けてみれば水とは明らかに粘性が違う。
「何かの薬品か……?」
ウォータースライムから手に入るアイテムと言えばミネラルウォーターか純水、魔石だけだと思っていた、攻略サイトにもその三つしか載っていない。
因みに水が入っている容器はPETではなく水の固体である、じゃあ氷だろ?と思うだろうが違う、鑑定結果としてウォータースライムが落とす水が入っている容器は間違いなく水の固体なのだと判明している。
恐らくスライムが個を形成してるのと同じ理論なんだろうと言われているが、科学者と魔法学者が雁首揃えて尚未だに形成理論が判明していない物体である。
「……取り敢えず鑑定に出すか」
さておいて、謎の薬品を鑑定に回す事に決めてバックパックに仕舞い、記念すべき千匹討伐ボーナスを、五百匹目を倒した時から貯めていたSPを解放する時がきた。
すなわち所有スキルのレベルアップだ、2になれば何かは変わるだろう、期待を込めて先ずはステータスおーぷん。
『坂咲優:レベル1』
力2
速力4
耐久3
魔力1
運3
『スキル』
不殺の誓い:レベル1:パッシブ
これでも5ポイントSPをステータスに振ってんだからな?
「さーて……5ポイントをスキル注いでっと……」
《スキルレベルが上がりました》
『不殺の誓い:レベル2』
経験値1/1000
アイテムドロップ100%
倒したモンスターの逃走確率10%減少
疲労状態付与
疲労状態のモンスターはドロップしない
これは……もしかして追撃出来るかもしれない?そりゃ疲れきってるんだから追撃かければ倒すのは簡単かもしれんが……よし、試そう。
ウォータースライムを捜すこと数分、見つけたのはもはや馴染みの我が宿敵、何時ものように目に見える弱点を叩き潰して撃破、だが何時ものように逃げられた、逃走確率90%は伊達じゃない。
狩ること数匹、漸くスキルレベルが2になった恩恵を受けられた、なんと逃げずにその場でヘタったままなのだ!
しかし旨味は少なすぎる、アイテムドロップしてくれるなら未だしもこれでは蚊の涙の経験値が増えるだけである、いや嬉しいっちゃ嬉しいが。
「……よし、目指せ二千匹討伐」
自分、泣いて良いっすか?