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修羅場・胸糞・人生シリーズ

暇つぶしに妻の遺品を整理していたら

作者: 家紋 武範

妻が死んでしまった。

48歳。早すぎる死。死因はガンだ。

発見した当時にはもう子宮、卵管、卵巣まで大きく広がっていた。末期だったのだ。

彼女は痛くなかったのだろうか?

我々には子どもがいなかった。そんな彼女がその部分を守りたいと思ったかどうかは今では知る術もない。

葬儀も終わり、長期休暇はぼうっとする毎日。

彼女がいないとこんなにも人生って張りがないんだな。

髭も伸ばしっぱなしで喪服も脱がずに遺影を眺めていた。笑っている彼女。その笑顔が好きだったなぁと、ゆっくりと進む時間の中、思っていた。


会社が始まり時が進み出す。日々惰性のまま家と会社の往復。生きる意味を失ってしまったがこれではいけない。

何もすることのない休日は彼女の遺品を整理することにした。その中に何か意味を見つけられるかも知れないと思って。


本棚。興味のないファッション誌。芸能人のゴシップ。そういえばあのタレント不倫してほされてたっけと思う程度。まぁ暇つぶしにはなる。

宝石箱の絡まったネックレス。高度な知恵の輪だ。遺体と一緒に焼いてやればよかった。

冷蔵庫のサプリメント。誰が飲むんだよ。場所取り過ぎだろ。


「おい。これはさすがに捨てるぞ」


一応断りをいれないとな。49日の間は家にいるって言うし。

服はどうしようもない。これも捨てるっと。つか場所取り過ぎだろ。これ捨てたらかなりタンスもクローゼットも空くぞ?

ん? なんだこれ。


タンスの中から白い封筒。開けてみると、緑色の紙。


離婚届だった。彼女の欄はすでに記入されており、私の欄を書き上げれば提出できるものだった。


「……は」


一声発して脱力。彼女が離婚を考えていたなんて。

遺品整理は中断。もう気力がわかない。

何も考えられずショックでソファに突っ伏してしまった。


彼女はなぜ離婚したがったのか。

別に好きな男でもいたのだろうか?

単純に私を嫌いになったのか?

考えがグルグル回っても解決出来るわけも無い。


「はぁ──」


ため息をもらし、すでに日が落ちて真っ暗になった部屋で一人、電気も点けず天井を眺めていた。


もう一度離婚届を見る。彼女の名前。離婚届の文字。その下に提出日と書いてある。そこには彼女のガンが発見された日から数日が経った日が書いてあった。


「コノヤロ……」


おそらく彼女は自分の病状を悲観してこんなものを用意したのかも知れない。いや、それしか考えられない。


「何考えてんだ。おい、捨てるぞ!」


私は誰もいない部屋に叫んだ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] うまく言葉にできませんが、とても良かったです。 1000文字と言う短い世界で、こんなに魅せられるものなんですね。凄いですm(_ _)m 素敵な作品をありがとうございました!
[良い点]  悲しいお話ですね。  奥さんの方も、旦那さんのことを思っていたのでしょう。短いお話ながら、面白かったです。
[良い点] 最後のセリフが最高ですね。 「もう一度離婚届を見る。」のあと、はぁっ!と驚きで思わず息を吸い込みました。大変好きな場面でした! ソファーに突っ伏したときはあぁ、と一緒に悲しくなっていたの…
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