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砂の記憶

作者: 雪河馬
掲載日:2019/12/09

チェックメイトだ。


やつの盾はことごとく粉砕した。

そして騎士は俺の重騎兵に塞がれて動けない。

俺の騎士の剣が奴の王喉元に突きつけられている。

圧倒的なレベルの差で俺は勝ったのだ。


画面越しに今日の対戦相手が悔しがっているのを感じる。

そりゃ悔しいだろう。

やつは全てを失ったのだから。


俺は対戦相手に数十回と繰り返した決まり文句を言う。


「キル・・(しぬ)?、オア・・・・、スレイブ(どれいになる)?」


今までキルを選んだやつはいない。

やつも当然、スレイブを選ぶ。


その瞬間、名も知らない対戦相手は命と引き換えに全てを失った。

仕事も財産も、そして家族も。


俺のメモリーバンクにやつの情報が流れ込んでくる。

日本人だったのか・・・・・。

俺の心にわずかな希望が生まれた。


隠し口座もゲームマスターは見逃さない。

リスト化された全財産をすべて現金化する。

都心の一戸建ても別荘も俺には不要だ。

10%の手数料を引かれて、現金が俺の口座に振り込まれた。


次にやつの仕事を確認する。

トレーダーか・・・。

ギャンブルは仕事だけにしておけばよいのに。

これは俺には不要。ゴミ箱行きだ。


そして、家族(ファミリー)・・・・・。

データを確認した俺の期待が失望へと変わる。

違った。


「上書きしますか?」

ゲームマスターが無機質な声で俺に尋ねる。

「ノー。保留(ホールド)だ。」


家族については財産のように現金化はできない。

その代わり選択肢は4つある。


ゲームに負けた瞬間、家族から奴の記憶は消される。


ひとつめの選択肢は上書き(セーブ)

セーブを選ぶと、家族に俺の記憶が書き込まれる。

つまり、やつに替わって俺が家族の一員となるのだ。


ふたつめの選択肢は賃貸(レント)。

第三者に家族を貸し、俺は収入を得る。

既に家族のいるプレイヤーが選択することが多い。


みっつめの選択肢は放棄(リリース)。

家族の権利を放棄し、対戦相手に返してやることだ。

これを選ぶ馬鹿はいない。

みすみす手持ちのコインを無料で返してやるくらいならゲームをしない方がマシだ。


そして、よっつめ。

俺の選んだ保留(ホールド)は、文字通りの意味。

手持ちのコマとしてリストに加えておく。

いずれ使い道があるかもしれない。

無ければ賃貸(レント)に出せば良い。

世間にはゲームに挑む度胸はないが家族を欲しがるやつはいる。


最後に、ゲームマスターは奴隷(スレイブ)の処理について聞いてきた。

やつが奴隷を選んだ以上、殺すことはできないが、それ以外は好きなように扱える。

しかし、頭ばかりとがったエリートのトレーダーなど、召使い(サーバント)にも使えない。


「奴の見積もり(エスティメイト)は?」

「100万ドルです。」


随分と安いな。その程度の男だったと言うことか。


「500ドルで保釈(ベイル)。」

俺は、やつを条件付きで解放することにした。

自由と引き換えに、やつは毎月俺の口座に最低500ドルずつ振り込まなければならない。

そして奴が本当に自由になり、自分を取り戻すのには100万ドルを俺に完済する必要がある。


以前のやつには500ドルなど、ディナーのチップ程度のものだったろうな。

地位も財産も全て失った今は決して楽な金額じゃないだろう。

なりふり構わず必死で働いてやっと稼げる額だ。


もし返せない時はどうなるか?

ゲームマスターは必ず回収する。

たとえ、やつの臓器を売ってでも。


俺はゲームからログアウトし、キッチンへと向かった。

冷蔵庫から冷えた缶ビールを取り出し、そのまま一気飲みする。


解放感からか、酔いとともに眠気が襲ってきた。

俺はリビングのソファーにうつ伏せに倒れ込んだ。


人生を賭けたこのゲームの名前をサンドメモリーズという。

砂の記憶だ。

敗者の記憶は砂が指からこぼれ落ちるように消えてしまう。


このゲームに溺れる奴はサンドジャンキーと呼ばれる。

俺もそのひとりだ。

サンドジャンキーの末路は大抵哀れなものだ。

運良く勝ち抜いてもいずれ本物の麻薬中毒者(ジャンキー)か廃人になってしまう。

それでも、俺は抜けられない理由がある。


俺は19歳のとき、ビギナーズとしてサンドメモリーズにエントリーし敗れた。

俺の価値はしれたものだったので、5年かけて借金は完済できたが、取り戻せなかったものがある。

家族と家族の記憶だ。


俺には家族の記憶がないし、家族には俺の記憶がない。

唯一、俺が家族の所有者に勝利することでのみ、マスター権限で家族の記憶を取り戻せる。


このゲームの参加者の数を考えれば不可能に近い数字かもしれないが、希望が全くないよりはマシだ。

俺はこの砂漠から、家族というたった一粒の砂を探して今日もゲームに挑み続けている。


そろそろネタが尽きてきました。

当分は連載ものに集中しようかと。出張も多いしなあ・・・・。

まあ、電車の中でもふと思いつくこともありますしね。

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