諺『大は小を兼ねる』は真っ赤な嘘!? 絶対に胸以外は小さい方が良いもん!!
君達は次に『あ、コイツ女子バレー見ながらこの話考えたな』と言うだろう……。
その通りだ。
私【橘愛花】は身長185cm!
靴のサイズは27.5だぞ♪
……って、自分で言ってて悲しくなりそう(泣)
着いたあだ名は当然『ノッポさん』で、いつも一番後ろの席だったんだ。
これで運動神経抜群だったらスポーツ選手になったんだけど……残念ながら大が付くほどの運動音痴……。何の役にも立たないこの身長…………
―――ガン……
『愛花が歩けば棒に当たる』で、いつも何処かに頭をぶつけてるしベッドに寝れば足ははみ出すしで……もう最悪!
「ママもパパも小さいのに如何して私はこんなに大きいの!?」
「いやぁ、パパは羨ましいぞぉ? まるでモデルさんみたいじゃないか!」
「そうよ? とても素敵な事よ?」
「ワタシは! 普通の身長で! 普通の運動神経で! 普通の靴のサイズで! 普通よりオッパイが大きい方が良かったの!!」
「……欲張りだなぁ」
「そ、そうね……」
「~~~!!」
困惑する両親に私は怒りを顕わにした。いつもならそこまで頭にこないのだが、今日はちょっと押さえきれそうにない……。
「ママとパパのバーカ!!!!」
―――バタンッ!!
―――タタタタタ!
―――ボフンッ……ゴン!
「いたた……」
ベッドに頭をぶつけ、鈍痛と分かって貰えない寂しさで気分は最悪……私何起こってるんだろう…………
(……フン!!)
やるせない想いを抱えつつ、ベッドの中で昔の事を色々と思い出す―――
「ゴメン、君と話してると首が疲れるなぁ」
「俺が小さく見えるからちょっと離れて貰っても良いかな?」
「自分より大きい女子はちょっと……ねぇ?」
「身長高くてマジ羨ましくね!?」
「先輩格好良いです~♡」
「愛花先輩一緒に帰りましょ~♡」
―――はぁ……
ほんと、溜息しか出ない。
(……気晴らしに図書館でも行こうかな)
「…………図書館行ってきます」
「行ってらっしゃい♪」
「気を付けてな」
「…………」
先程の事は無かったかのように振る舞う両親に、私は更なる何かを憶えた。
私は自転車に跨がり近くの図書館へ。
図書館は良い……。静かで皆が本に集中している。たまに子どもに棚の本を取ってくれとせがまれるのがアレだけど……。
自転車を停め、チェーンを繋ぐ。ふと入口を見ると、冴えない同い年風の男の子が石段に躓いて転んでいた。
(普通の身長でも躓いたりするんだから、私なんか尚更よ……! どうしてこの辛さが分かって貰えないのかしら!?)
私は図書館の中へと入り冷房の効いた図書館に文明の利器を感じた。
好きな作家の本が置いてある場所に行くと、先程転んでいた男の子が居た。一生懸命に本を選んでいる。脚を見ると膝が少し破けていた。どうやら結構痛そうだ。
「膝……大丈夫ですか?」
隣で見下ろす形で話し掛ける私。大抵誰に話し掛けても見下ろす事になるんだけどね……。
「え、あ! 見られてた? ハハ……大丈夫大丈夫。ちょっと破けたけど新品のズボンだから大丈夫!」
(一体何が大丈夫なのだろう?)
「そ、そうですか……」
私は変な人と思い、本を一冊手に取り近くの席へと座った。
―――ペラ
本を捲り空想の世界へ意識を飛ばす。この時間は自分を忘れることが出来る唯一の時間だ。テレビドラマは俳優や女優の体型が気になって集中出来ないし、ゲームはあまり好きじゃない……やっぱり本が一番なんだ。
「よっ……と」
私の目の前に先程の男の子が座った。そして勉強道具を取り出し難しそうな本を開き始めた。
(……何あの本、日本語なのに読めないわ)
思わずその本を凝視し過ぎて、ふと男の子と目が合った。
「…………」
「…………」
ふと感じる違和感。何だろう……コレ。
「…………」
「…………」
もう一度男の子と目を合わせると、その違和感の正体が掴めた。
(……目線が一緒だ!!!!)
私は嬉しくなって本で口元を隠しながら微笑んだ。今まで座ってても目線はずっと下だったから、同じ目線になれて嬉しいな……って!
(ヤバい……このままお話ししたい)
私は思わず口を開いた。同じ人が目の前に現れてとても嬉しいのだ!
「あ、あの……!」
「ん?」
シャーペンをクルクルと回す男の子はその手を止め、私の方を見た。
「難しそうな本ですね」
「そうなんだ。俺もさっぱり何が書いてあるのか分からなくて困ってたんだ」
男の子はハハハと笑い、本を閉じた。
「じゃあ何で読んでるんですか?」
「い、いやぁ……その……」
急に口篭もる男の子。その顔が少しずつ赤くなっていくのが分かる。……これってもしかして……マジ!?
「す、すすす、素敵なき、君の隣に座りたくて……その……背伸びを……」
「プッ! プププ……!」
私はついに大きく笑ってしまった。
「ちょっ……! 笑わないで~!」
男の子は席を立ち上がる。立つと普通の身長だ。そして私の隣の席へと回り込み座った。座ると目線が私と同じ。
「ご、ゴメンゴメン。嬉しくてつい……!」
「―――えっ!?」
男の子が目を丸くして止まってしまった。赤くなった顔はついに耳まで赤くなり、もう染まる箇所は残されていない。
「―――あっ!?」
気が付けば私も顔中赤く染まっていた。初めて会う人でここまで打ち解けられる人が居るなんて、今まで思いもしなかったからだ。
そして私達二人が仲良くなるのに時間は掛からなかった。
あるときは図書館で、あるときは喫茶店で、またあるときはお互いの部屋で、隣同士肩を並べて座るのがデートの恒例となっていた。
顔を寄せ合い笑い合う。私の目の前には貴方の顔があり、私は貴方の肩に頭を乗せ幸せを感じる。
「ねぇ? 私の靴のサイズ……何センチだと思う?」
「んん……? 別に何センチでも良いよ。だって俺は……」
「俺は……?」
「俺は……」
「俺は……?」
「…………」
彼は全身を真っ赤にして私を強く抱き締めてくれた。
読んで頂きましてありがとうございました!!