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空白の2日間  作者: みすみいく
3/4

ルィザ

 オルデンブルク公爵付の秘書で有るルィザは、着任以来、彼等に寄り添い、同じ目的のために邁進居てきたのですが、彼等の関係が新次元に突入するに至って、彼女の役割は変化していきます。

 政治家の秘書という立場の女性を描いたつもりなのですが…。

 その日の朝お見上げした公爵のお顔は、未だかつて1度も拝見したことの無い…何と表現するべきなのでしょう?!

 可愛らしい…そう、とても可愛らしいお顔をなさって、そのくせ、何時もと変わらない、眉間に薄く皺を寄せて、執務室に入っておいででした。


 「おはよう」

 「おはようございます。ボス。昨夜は?!よくお休みになりまして?!」


 わたくしのお仕えするこの方は、お名前をコンスタンツ・アウロオラ・フォン・オルデンブルク公爵と仰って、現国王の双子の弟君で有られます。


 見目麗しく、聡明で、その上、豪胆と言って良い程の決断力をお持ちです。

 その決断力の果断さが、時としてこの方を冷淡にも見せましたが、その実とてもナイーブで可愛らしいと以前から見抜いて居たのです。


 今朝はその可愛らしいお顔が表に出ていて、少し驚かされました。

 その上、何の意図も無く、お体の回復を計って頂いたのかをお尋ねしましたのに、見る間に満面に朱を注ぐとはこの事でしょう、真っ赤になってしまわれたのです。


 「公。その様に赤くなってしまわれたのでは、昨夜起こった事を白状されているようなものですわ」


 余りにも何時もとは違うご様子に、つい言ってしまい、微笑み迄載せてしまいました。

 

 「ルィザ。君の好奇心は何時まで耐えて居れば解消するのだろうか?!」


 うんざりといったお顔でこちらをご覧になると、皮肉も叱責も無くそう仰るのでした。

 可愛すぎ。余計に虐めて差し上げたくなる。


 「冗談で申し上げた積もりでしたのに。運転手はお屋敷へお送りしてきたと報告して居りますもの。では、伯爵が?!」

 「ルィザ。君を誤魔化すことが出来ないと思ったから認めたんだけど?!」


 潮時の様です。嫌われるのは嫌ですから、この辺で許して差し上げます。


 「お許し下さいまし」


 プライベートはここまでにして、午前中の仕事を片づけるべく、打ち合わせを始めました。


 公とある程度の大筋を纏めた結果を持って、伯爵の秘書のエドナと、時間合わせや、細かい段取りなどを載せたタイムテーブルを作ります。


 その後、各担当者の秘書達が顔を揃える会議室で、打ち合わせを致します。

 その日も、具体的な詰めを終えて、第2会議室に担当者の秘書達が招集されているところへ向かう道すがら、伯爵の秘書のエドナが、切り出してきました。


 「ルィザ。公は今朝、お変わりは御座いませんか?!」


 彼女がこう言うと言う事は、伯爵にも目に見えた変化が起きているようでした。

 

 お二人の現状を知ってしまえば、随分とやりやすくは成るのでしょうが、事は、お二人共の進退に関わる事なので、みだりに口に出すことも叶いません。


 「これと言って…伯爵が何か?!」


 エドナが戸惑う様に口を噤み、困惑したと言った表情で口を開きました。


 「どう言ったら良いのかしら…そうね、トンチンカン。今朝の伯爵はその言葉に尽きますわ」

 「こちらが伺って居る事はお解りなのに、お返事はお返事になっていないのよ。そわそわと落ち着きの無いご様子で…どうすれば良いのかしら?!」


 途方にくれている彼女を、気の毒には思うのですが、事の真相を話す事が出来ないので、状況を最大限利用する事にしました。


 「それ位は貴女、仕方が無いわよ」

 「何せ、昨日は御自分の命運は尽きたと覚悟されていたのですもの」

 「1日や2日、休息を取られたところで完全に元に戻る事では無いのでは無いかしら?!」

 「そう言う意味では、随分と的が外れて居られるわよ。公爵とも有ろうお方が…ね」


 ああ、と、エドナが得心した様でした。


 「そう、そうですわね。政治生命を1度諦められたのですものね。ショックが残らない方が可笑しいのかも知れませんわ」

 「有難うルィザ」

 「どう致しまして。ここ数日で、長めの休暇を取って頂く必要が有るかも知れません。本格的にリント伯爵を叩く前に、万全の体制を確保しなければ」

 「そうね。日程の調整に入りましょう」


 今一度、お時間を作って差し上げます。

 たっぷりとは参りませんが、お二人の決着を付けて下さいましね。


 「休暇?!私が?!この時期に?!」


 あらら…。如何したことでしょう?!。

 反応が今一つです。


 「差し出た事を致しましたでしょうか?!」

 「ん…いや。そうじゃ無い。君が私達の休暇を考えざるを得なくなったのは、仕事に差し支える程のボケ加減だと言うのは分かっているのだが…」


 本当に歯切れが悪い。


 「もちろん、今日明日の事では有りません。拘留期限が迫って居りますもの」


 公の何処か焦点を欠いていた視線が、意思と共に1点に集中して、やがてわたくしを振り向かれました。

 そう…この際です、シュバルトを落とすまでは先送りになさいませ。


 その方が自然というもの。


 視線1つに多くの意思と思考とが、凝縮される濃密な間。堪らないほどの高揚感がわたくしを震撼させます。


 純粋な愛情から、湧いて来る欲求をそんなに恥ずかしがらないで。わたくしの感じている情欲の方が、余程不純何です。


 「…判った。リント伯爵への追求のシナリオは、君に任せよう。シュバルトを堕とせたらの話だが?!」

 「わたくしが?!ですか?!」

 「そう。私は休暇を取っていて居ないし、アレンもじき休ませるんだろう?!シナリオの作成と、実行の段取りは、君以外に準備出来る者が居ない」


 呆れるほどの豹変。さっきまでの少女の様な恥じらいが、跡形も無く消えて、この人を食ったものの言い様。

 抜け目のない切り返し。

 次は何が出て来るのか、好奇心に駆られてぞくぞくしてしまう。

 こうなると、溜め息を付きつつ、彼の意のままに成らざるを得ません。


 「畏まりました」

 「あっ…いや。冗談だよ。ルィザ。君の配慮は有難く甘受して、休暇は取らせて貰う。だが、シナリオと準備には私も関わりたい。何と言うか…これまでの私の支えだったんだ」

 「承知致しました」


 諦めて居られたのだ。本当に初めから伯爵との事は。

 当然と言えば当然なのでしょうが、この世の中で、駆け引きも利害関係も無い愛情と言うものが、特別扱いされても良いと思ってしまう。


 それからの公爵の集中力の凄さには、舌を巻かされました。切り崩しの切っ掛けを何にするのか。

 シュバルトが、情報を得た相手を突き止める事と、少なくとも、角度を変えた切り口がもう一つ必要だと言う事に成りました。具体的な手段は?!。


 手ががりを引き出す相手は、言わずと知れたシュバルトでしたが、拘留期間が終われば、彼の身柄は、警察権へと引き渡されます。

 同様の取り調べが行われる過程で、こちらの質問の内容が、シュバルトを通じて漏れ伝われば、何処でこちらの意図がリント伯爵の知る所となるかも知れません。


 従って、シュバルトに対する質問の形態を厳しく吟味する必要が有り、時間は限られて居たのでした。

 

 三年越しの恋人の事など、何処かに置き忘れたように、息つく間もない没頭ぶりでしたが、1つ大きな問題が解決して、区切りが出来、背もたれに体を預けたままで居られると、想い出されるのでしょう。

 扉の方を気にされています。


 そのご様子が何とも切なくて…


 「ああ…エドナ。其方は如何?!ええ、ええ。あら、そう?!それなら…ええ。良いのよ。おいでになったわ」


 秘書室の開け放った扉を、軽く叩きながら、伯爵がわたくしに会釈なさいます。

 …まぁ…惚れ惚れするほどの男振り。

 何だか一回り大きく成られたような…


 「昨日は有難う、ルィザ。アウルは?!居ますか?!」

 「先程からお待ちに成られているようでこざいますよ。どうぞお入り遊ばして。お茶の支度をして参ります」

 「そう…だね。あの、ルィザ。もう余り気を使わないで、良ければ貴女も話に加わって下さい」


 驚きました。この、伯爵のどっしりとした落ち着きと、自信は如何したことでしょう?!。

 エドナの話では、なにも手に付かない様なご様子だと思っていました。

 これまでももっと自信を持って下さいましと、いささか焦れるほどに、御自分の評価を低く持って居られた方が…です。


 愛の力は絶大です。

 呆気にとられているわたくしの思惑を見抜いてか、くすくす笑われてしまいました。


 「呆れて居るんでしょう?!僕の豹変ぶりに。現金な奴だって」


 ズバリ言い当てられて少々慌てました。


 「お茶を入れて参ります」


 喉の渇きを癒やしたり、軽いティーブレイクの為のコーヒーやお茶は、各秘書室に準備が有るのですが、特別な来客や、正式なアフタヌーンティーのサービスも出来るように、各階に1個所、小さなダイニングと言えるほどの設備が整えて有るのです。


 そこでニルギリを濃いめに入れて、温めたミルクと、ビスケットやスコーンを載せたワゴンを押して、オフィスに戻り、扉を叩きました。


 どうぞと応えが有って、中に入ると、伯爵がデスクの傍に立っておいでで、公はわたくしと視線が合うと、すぐさま伏せられ、再びちろりとみやり、淡く色づいた唇が、照れたような視線の説明をしていて、わたくしをほっとさせました。


 ともかくも、伯爵は公をしっかりとサポートされているようでした。


 危機を脱したものの、詰めを欠くと、全てが水泡に帰する事に成りかねません。


 この度の企みの根源がリント伯爵で有ると関係者の認識が一様に同じ結論に達しているとしても、法に照らして処罰することは現段階では難しいことです。

 また、法律の根拠無くして処断しては、ファッショの汚名を着かねないのです。


 全ての条件をクリアして、リント伯爵の影響力を徹底的に排除出来るのは、公爵を於いて他においでになりません。


 「リント伯爵を囲む外濠からの削ぎ落としは継続して行う。全ての分野による情報収集によって弱点を掴み、ピンポイントで叩く。徐々に、彼の身近に手が及んでいるのだと感じさせる事も、目的の1つだと思ってくれるように」


 「次に、今まで手を付けて来なかった経済の分野からも削ぎ落としを行う」

 「税務一般のチェックを徹底する事。これは、使途不明金の流れを掴む事によって、決定的な打撃を与えられる事は必至であるからだ」


 「東から流れていた資金は止めることに成功した。国内のものを阻止出来れば、新たな計画を立てようにも資金が覚束無く成るというわけだ」


 「最期に、リント伯爵を公的に罰したり、物理的な攻撃を仕掛ける事は絶対にしない。あくまでも、彼の意思で、政界から隠遁する形をとらせる」


 「これは彼等、リント伯爵家が、シェネリンデの国家の成り立ちを形成する人々と、深く関わって居る為だ」


 「殲滅を計るなら、王制の廃止迄をも視野に入れなければ成らなくなる。故に…対応は長期に渡る。各人の後継に現体制を継承する準備を謀って貰いたい。監視体制の維持だ。以上!質問は?!」

 

 挙手によって、次々に質問が飛びました。その内容に聴き入るべきでしたが、後継の準備と言い放った公爵の言葉が、何故か伯爵に向けられた気がして、集中力を欠いて、殆ど聞いていませんでした。


 「アレン、ルィザ。質問は?!」


 名指しされたのがわたくしだけでは無かった事で、予感が的中したのを感じていました。


 「御座いません」


 ここは、何とか納めて頂く他は有りません。難しい事ですが…


 「監視体制維持の期間は?!」


 固い声で伯爵が問われました。


 「反撃の意思が無くなったと認められるまでだ」


 抑揚の無い無機質な声に、公が感情を殺しておいでに成るのが伺えます。


 「期限の基準は?!貴方ですか?!」


 これが先程までの甘いお二人とは信じられません。やりとりが始まった途端、皆に緊張が走りました。


 伯爵の問いに、公の斬り込むような視線が投げられた時には、背中を寒気が走る思いです。


 公は、伯爵に後継者を儲けるように、延いては結婚を仄めかされ、伯爵はその必要が有るのか?!期限は誰が判断するのだと聞かれました。


 何と、会議の最中に、取りようによっては痴話げんかと言えなくも無い事をとも…一概には言えませんわね。


 単なる職員では無いので、政権維持の為には、カーライツ伯爵家の安泰は必須条件です。伯爵の父上は老齢で、世継ぎの御子は有りません。


 無論、一党の維持という点では公爵も同様ですが、公にはお一人継子が有ります。その意味からも、公は伯爵に応える事を拒んでおいでになったのです。


 難しいものですわね。


 今日は、エドナと共に、シュバルトを訪ねます。これまで詰問には主に伯爵が当たって居られたのですが、大して進展も無く、違う方向からのアプローチを試みる事に成りました。


 「何か不自由は有りませんか?!最も、貴方の希望が無条件に叶えられると言うわけでは有りませんが」

 「苦痛を与えるのが目的では有りませんから」


 言うと、今まで関心を示さなかったシュバルトが、わたくしの方を見ました。


 「貴女はどちらがお好きなんですか?!」

 「どちらと仰ると?!苦痛は好きませんわ。不自由も」


 言うとくすくす笑い始めました。


 「伯爵か公爵かとお聞きしたんです」

 「難しい質問ですわね?!好みがどちらかとお聞きですの?!」


 言うと、溜め息を吐き出して、やれやれと首を振っています。


 「彼等が羨ましい。美人の上に有能だ」


 ちょっと、むか。

 

 「どちらも区別はなさいませんし、わたくしも致しません」

 「それは女性が必要無いからですか?!」


 何が言いたいのかと思ったら、そう言う事ですの。


 「それは女性蔑視の上に成り立つ質問です。お応え致したく有りません」

 「わたくしの選択基準と言う話なら、わたくしはわたくしの選んだ上司に、自分を賭けているだけです」

 「女という生き物が、本能のみに支配されるものだと思って居られるなら、考え方を改めて頂きます」

 「最も、初めて配属されたのが今のポストですから、都合が良かったとも言えるのでしょうけれど」

 「意に反すればそのままには於きませんから、回り道をせずに済んだと言うところでしょうか?!」


 公と伯爵の事を、確たるものは無いにしろ、シュバルトが勘ぐり初めて居ると言うことは明白でした。


 恐らく、信じられないほどの信頼が何処から生まれたものか、彼には思いも着かない事なのでしょう。


 「運が良かったですね」


 溜め息と共に彼が言いました。


 「ええ。貴方は?!」


 問われて、考えを巡らせるように、視線を外して瞬きしています。自分の半生を振り返る彼の顔に、寂しさが過った様に見えたのはわたくしの思い過ごしでしょうか?!


 「悪かった…のでしょうね。意思が弱かったのか…自分に甘かったと言う事でしょう」


 囁く様に言うと、項垂れて終いました。


 「まだ、間に合いますわ」


 えっ?!と。何か、聞いたことの無い言語を聴いたような表情をして、私を見ています。


 「ええ。まだ、間に合います。貴方の人生はまだ終わって居ませんもの」


 シュバルトの暗い表情に、仄朱い希望が射したようでした。



 本日も、昨日と同様、シュバルトに尋問をするべく、何時も食事を運んでいるエドナと共に、茶菓を持って訪れました。


 まるでお茶会を始めたかのようなわたくし達の様子に、呆れた様な表情を見せていたシュバルトも、非現実的な雰囲気に幻惑されているようでした。


 雑談の中には彼の背景も少しずつ語られ、表情も和らぐものの核心に触れる辺りになると口を閉ざしてしまいます。


 エドナが潮時だと会釈をし、茶菓の支度を片付けて席を立ちました。ドアをノックすると、彼女はそのまま外に出て、入れ替わりに、公が入られました。


 和らいでいたシュバルトの表情が引き締まり、伺う様に、公を見、わたくしを見ました。


 公は、引いたシュバルトの意識を押し込めるように、強い視線で見据えると、仰せになりました。


 「ICチップが、耳の中か、太股の内側に有るだろう?!出したまえ」

 「…何の事でしょう?!」

 「裸に剥かれる方が良いのかね?!」

 「君が何の保証も持たずに、事に当たったとは思えない。リント伯爵の肉声を録音したICチップでも無ければな」


 図星を指されたようで、シュバルトの顔が険しくなりました。


 「その様に仰せの閣下が、なぜ、カーライツ伯爵の行動に疑問を持たれなかったのですか?!」

 

 聞いた途端の公の表情が、何時もの好奇心を載せた微笑へと変わりました。


 「女が必要ないからかと、ルィザに聞いて、叱られたそうだな?!」


 わたくしを振り返り、眉を上げてご覧になります。


 「アレンの事は分からないが、リント伯爵が私を執拗に狙うのは、私が彼の女敵だからだ」

「掌中の玉の如き孫娘を傷物にして、婚約を蹴ったと思っているのだ」

 「我欲と義務の区別が付いて居ない。統べる者の認識が、老いによって甘くなっているのかな」


 少々の驚きを載せているものの、シュバルトの顔には、駆け引きの材料を得ようと言うしたたかさが見えています。


 「私のお伺いにお応え頂いて居りませんが?!」

 「質問しているのはこちらなのだがな」

 「そう言う意味では、アレンは私の全てだから…だな」

 「私が作ったリント伯爵との確執は、アレンを置いて他に解消出来る者が居ない」

 「ですが…確かその頃、公はまだ、幼い…7つか、8つの話では有りませんか?!」


 公は何もお応えにならず、艶然と微笑まれるばかりでした。


 さすがにシュバルトも開いた口が塞がらず、わたくしも同様でした。では、やはり、クリストファ様はリント伯爵のお血筋ですか…


 公は、リント伯爵が女敵にしていると仰いました。ならば、黙って居ても、クリストファ様の代になれば、リント伯爵家は公家と共に、公子様のものになります。


 リント伯爵の数々の政治工作は、次代に移った時に、一党が権力を維持していられるように、布石を打つ為に他なりません。


 統べる者で有りながら己の保身のために政権を利用する等という愚かな行為は、統治者にあるまじき事です。

 公の成されている事とは対局に有ることなのです。が、その為に払われる犠牲が、痛ましくて成りません。


 この方は本当に…ご自分のなされていることが、ご自分にとって如何に過酷な事態をもたらすか、と言う事に、頓着なさらない。


 伯爵が東へ赴かざるを得なかったお気持ちが、思いやられました。


 部屋を先に出るようにと言われて、待つこと程なく、公がチップを手に出ておいでになりました。


 これで、シュバルトの1連の行動がリント伯爵の命じた事だったとの証明が成されたのです。


 堪りかねて言ってしまいました。


 「公。あの様なことを仰っては成りません。御身にどれ程の事態が訪れるか、良くご存じのはずです」


 焦燥に声を荒げた私に、僅かに微笑まれ。


 「有難う、ルィザ」

 「でもね。私は次の代への繋ぎなんだよ。本来表立つ者では無いのだから、後継が盤石に成れば役目は終わる」

 

 何とも事も無げに…。


 「わたくし…公をお慕いしておりましたと、申し上げた積もりで居りましたが…」

 「だからさ。君には特別に」

 

 そう仰って、秘書室を通り、留まる私の前を過ぎて、執務室へとゆかれる後ろ姿をお見送りしました。


 涙が頬を伝うのを感じていました。

 お読み頂き有難う御座いました。

 ルィザは書きたい女性キャラクターの筆頭です。アウルの女性版と言った所でしょうか?!。

 彼女のその後も何れ登場します。

宜しくお願い致します!

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