修正
アレンに触れて、引き込まれ続ける自分に、危機を覚えるものの、自分が変化していることには気付いて居ない。
アレンに見送られて、仕方なく帰宅するべく車寄せに向かった。
ふらふら歩いているので、アレンが階段の上から立ち去りがたい様子で、私を見ている。ひらひらと手を振って早く行けと言ってやるとようやく歩き出した。
何とか車寄せまで辿り着くと、連絡が付いていたものだろう、公用車を回しているので待つよう、警備担当者に言われた。
ぼんやりと空間を見るとはなしに、見ている私の様子がおかしかったのだろう。通りかかった職員が声を掛けてきた。
「…公。大事御座いませんか?!お加減がお悪いようにお見受けしますが?!」
「何でも無い。寝不足で惚けているから帰れと言われたんだ。大人しく寝ていれば大丈夫だ。有難う」
「…いいえ」
私のボケが伝染したのか、とろりと夢見るような表情に変わってしまった所員が、それだけ言って、尚も傍に留まった。
「…?!」
変だなと思うものの、頭が回らない。
公用車が回されると、待っていたように私の前に進み出て、運転手が降りてくる前にドアを開け、中に向かって言った。
「なるべく静かにお送りしてくれよ。お加減が優れられない」
面食らったようにただ頷く運転手を尻目に、今度は私を抱き抱えんばかりにして車に乗せる。戸惑って居るのは、運転手ばかりでは無かったのだった。
屋敷に私を送り届け、使用人達に見送られながら、彼は首を傾げつつ帰って行った。
「お帰りなさいませ。お館様。審議会の御首尾おめでとう御座います」
「有難う、ケイン。何とかなったよ」
寝室の次の間のソファに、崩れるように腰を下ろした私に、ケインが、アラビア風のミントティーを差し出すと、上着を受け取った。
とんでもなく甘いミントティーが、喉を降りながら、アロマが鼻腔を満たして抜けていく。
とにかく湯を使い、睡眠を摂ろうとした。それが良かったのか、悪かったのか…
湯浴みを終えて、バスローブを付けてサニタリーを出た、その場で動けなくなってしまった。
1日の内にこう何度も頭が飛んでいてはじきまともで無くなる気がしていた。この状況をどうしたものかと思っている内に、意識が飛んだ。
気が付くと、ケインがこちらへ屈みこんで、脈を診ていた。
「お目覚めで御座いますか?!宜しゅう御座いました。ご気分は?!お案じ無きよう。私の一存で主治医は呼んでおりません」
「ケイン?!」
「このままお休み下されば、直本復なさいましょう」
ケインは私が子供の頃から仕えている執事だった。私の全てを見てきていた。
聞きたいことは幾つも有るだろうに、すまして何一つ言わせなかった。
とにかく睡い…夜まで…
…目が覚めやらずぼうっとしている。夢と現を行きつ戻りつして定かで無い。
ほんの2~3時間、夜までには起きるつもりでいた。起こったハプニングを修正しなければ成らなかったからだ。
何度考えてみても、出口の無い迷宮の階段を踏み出してしまっていた……正道へ戻さねばならないと思うその裏側で、触れてしまった甘美から手を離し難いのもまた事実だった……手が…動かせない?!
戻った視野に映ったのは重ねられた手指。その向こうに、半ばシーツに埋もれた額を覆った絹糸のブロンド。
出逢ったときのような大きな蒼い瞳が私を見るのだろうか?!
……あの時決めたはずだった。
巡り逢った掛け替えのない縁を護ると。
犠牲にしては成らない。私に引き換える価値など何処にも無い……喪うわけにはいかない2度と。
……握られた手指が伝える温もりが昨夜触れた肌の熱さを蘇らせる。瞼が震えて、開いた蒼い眼差しに射抜かれて、鼓動が跳ね上がる。私を認めた微笑みに決意を挫かれそうに成る。
たてていた半身を繋いだままの手で引き寄せられて、口付けられた。昨夜のように、そのまま抱かれるかと思った意に反して、優しい愛撫を繰り返した後、唇を放して言った。
「驚きました。間に合わないかと……怖かった」
言葉を紡ぎかけて開いた唇を塞がれて、思わず引いた体を背に滑り込ませた腕で阻むと叱る口調が言う。
「仕方が無いから、今夜はアプローチに成らないキスだけで許してあげます。睡って」
こういう所は容赦が無い。それとも私の真意を感じ取っているのか。かき抱く腕が、重ねられた躰が、優しい口づけが私を癒やす。
何時寝入ったのか、彼が何時帰って行ったのかも判らないまま、翌朝、ケインに声を掛けられるまで目が覚めなかった。
総てが、何時もはあるまじき事で、恥ずかしさにケインの顔もまともに見る事が出来なかった。
お読み頂き有難う御座いました。
何だかメロメロになっちゃってます。元々の話を書き直したので、一寸つじつまが合わなくなってしまって…。
次で修正出来ると思います。
今回のタイトルとは関係ありません。(*_*;